第355話 クレメン子爵からの護衛依頼



「何か、ありますか?」


 眉を寄せて考えているクレメン子爵。

 オシグ村に何か考える事があるのか、聞いてみる事にする。


「うむ、魔物が出た時、我々は何もできなかったからな。そのため、犠牲者も出ている。そうだな……エフライム、いい機会だ。ワシと共にオシグ村へ向かうぞ」

「俺もですか、お爺様?」

「クレメン子爵が?」


 ロータの父が、王都へ向かう途中野盗に襲われ、命を落としたことに対してと、魔物への対処ができなかった事を考えていたようだ。

 エフライム達を人質に取られて、身動きが取れなかったんだから、悪いのは魔物とバルテル配下の者達なんだけど……領主として、考える事はあるらしい。

 そう言えば、マルクスさんがやってた情報収集で、領内を視察する事が多く、領民達に気さくに声をかけているって事だったっけ。

 オシグ村の事を考えていたクレメン子爵は、エフライムを連れて一緒に行く事にしたようだ。

 急に呼ばれたエフライムと俺が、ほぼ同時にクレメン子爵に視線を向けた。


「子爵家の次期当主になるのなら、領内の事も見ておかねばならんしな。それに、オシグ村には一度慰問に訪れなければならんだろう。全ての原因が我ら子爵家にあるとまでは思わないが、我らが動けなかったために犠牲者が出たのだからな」

「……わかりました。お爺様のお供をさせて頂きます」


 クレメン子爵が自由に動けていたら、魔物達を討伐するのに騎士団が動いて対処していただろうから、確かにロータの父親は犠牲にならなかった可能性はある。

 それに、森の野盗達も、取り締まる事ができてたかもしれないしな。

 あまり、たらればを語るのはいけないとは思うけど、クレメン子爵としては、どうしても考えてしまう事なのかもしれない。


「うむ。そこでだな、ワシと共にエフライムが移動する際、リク殿達と一緒に向かおうと思うのだ」

「俺達とですか?」

「そうだ。リク殿達がいてくれれば、護衛も少なくて済むしな。というより、これ程安全な旅もあるまい?」

「それはそうですけど、リク達を利用するようで、気が引けますね……」

「そこはそれ、リク殿達は冒険者だろう? 依頼を出せばいいのだよ」


 成る程ね。

 クレメン子爵は、移動の際俺達に護衛を依頼する事で、守るための人員を少なくしようと考えているわけか。


「確かに、リクは冒険者だから、依頼を受けてもらえればやってくれるでしょうが……」

「ははは、依頼を出されたら、ちゃんと受けるよ。ね、モニカさん?」

「そうね。どうせオシグ村には行くのだし、一緒に行動するだけと考えたら、問題もないわ」

「うむ。ワシらの護衛には、騎士を数人付けるだけでいいだろう。オシグ村まで移動し、滞在しているうちにナトール達が動いて。街とオシグ村を繋ぐ街道の安全も確保している事だろうから、帰りも問題ない。それにな、今はバルテル配下の者を領内から排除するために、兵士や騎士を割く事がないようにしたいのだ。かといって、信用できるかわからん冒険者を雇う事も憚られるしな。その点、リク殿達なら安心だ」


 オシグ村までは、馬車で半日程度だから……宿泊も考えると、2,3日かかるだろう。

 その間に、騎士団長さん達が街道の安全を確認してくれるという事だろうね。

 安全確認さえ終えれば、突発的な事にさえ備えていたら護衛は少数でいいのかもしれない。

 それに、クレメン子爵達が動く時、貴族なのだから当然護衛が必要だろうけど、今は他に騎士団や兵士を動かしてる時期だから、あまり人員をそちらに割きたくないんだろうね。


 内通者や裏切り者によって、エフライム達が捕まった事を考えると、信用のおける俺達を護衛に……と言うのも理解できる。

 冒険者にそう言う人はいない……と思いたいけど、自由な職業だから、むしろバルテルと通じていなくとも、邪な事を考える人もいる可能性はある……ならず者が集まると言われてる、帝国の冒険者ギルドの件もあるしね。

 まぁ、高ランクになればなる程、そういう人は減るだろうけど……。


「わかりました。それじゃあ……出発はいつになりそうですか?」

「そうだな……今日中にワシやエフライムは準備を終わらせる。同時に、使いを出して冒険者ギルドに依頼を出そう。明日には出発できるか?」

「はい。急ぎ、そのように準備させます」

「うむ。という事だ、リク殿。明日の出発で構わないか? ワシ達のせいで遅らせてすまないとは思うが……」

「いえ、急いでるわけではないので、構いません」

「助かる」


 途中、執事さんに指示を出しながら、明日出発する事を決めたクレメン子爵。

 何も急ぐ事はないのだから、明日出発で俺は構わない。

 一緒にいたモニカさんも頷いてし、大丈夫だろう。


 冒険者ギルドへの依頼に関しては、身元がしっかりしている貴族からの依頼という事で、すぐに承認される運びとなるようだ。

 そのうえ、俺達のパーティに指名依頼という事と、報酬を多めにする事で昼前には、ギルドへ行けば依頼を受けられるだろうとの事。

 これには、モニカさんが昨日一度行っているので、依頼を受けて来る事になった。

 俺も行きたかったんだけど……レナの相手をしてくれと言われたからね、仕方ない。


 エフライムとクレメン子爵は、外へ出るための準備があり、ヘンドリックさんとレギーナさんは、クレメン子爵がいない間の事や、街の事があるから忙しい。

 レナが一人になってしまうので、まだ攫われた時の事を思い出して不安な事もあるだろうからと、レギーナさんによって強めに勧められた。

 あと、レナ自身にも俺といたいと言われたからね……子供に言われたら、断れない。



「明日には、リク様は行ってしまうんですね……」

「まぁ、そうだね。寂しいかい?」

「それは当然です。リク様と会えなくなるなんて、私には辛すぎます!」

「ははは、そうかぁ。でもまぁ、俺は冒険者だし……またフラッとここに来る事もあると思うから、待っていてくれると嬉しいかな?」


 皆がいなくなった食堂にて、膝の上で丸くなってるエルサのモフモフを撫でながら、隣に座ったレナと話す。

 レナは俺によく懐いてくれてるから、本当に離れるのが寂しいんだろうな。

 ちなみに、お世話係なのか、メイドさんが2人程テーブルから離れた場所に待機してくれている。

 お茶とかを絶やさないように、時折動いてくれてるみたいで、ありがたい。


「それはもちろんです! ……リク様は今、王都を拠点にしているんですよね?」

「そうだね。王都の方が、冒険者への依頼が多くて活動しやすいからね」


 王都では、冒険者ギルドが複数あるくらいだからね。

 当然依頼も冒険者も多いから、活動しやすい……美味しい食べ物屋があるのも大きいね。

 それに、姉さんもいるし……というのは、さすがにレナには話さない。

 

「私も、一緒に王都へ行きたいです……お兄様とお爺様が羨ましいです。リク様と一緒に行けて」

「ははは、エフライムやクレメン子爵は、王都までじゃなくてオシグ村までだけどね。レナは、王都には行った事がないのかい?」

「はい、行った事はありません。一度は行ってみたいのですが……本当は、リク様の授与式の時、お兄様と一緒に連れて行ってもらうはずだったんです」

「そうかぁ……」


 王都は国の中心地という事もあって、やっぱり大きいし、色々な物が揃ってる。

 レナは子供ながらにも、そんな王都を一度は見てみたいと考えてるんだろう。

 東京に憧れるようなものかな?

 街の人達とは違い、貴族である分王都の情報は少なからず入って来るだろうしなぁ。


 しかもレナは、バルテル配下の邪魔が入らなければ、授与式の時に王都へ来ていたらしい。

 憧れの王都へ行けると思っていたのに、攫われた挙句、長い間閉じ込められてた……というのはちょっとかわいそうだ。

 とはいえ、俺が気軽に連れて行ってあげる! とは言えない身分の子だしなぁ……どうしたものか。


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