第348話 騎士さん達との訓練
「子爵様、騎士団長より伝達です。万事準備が整いましたので、鍛錬場へとお越し下さい。との事です」
「うむ、わかった」
昼食が終わり、食堂でまったりお茶を頂いていると、鎧で身を固めた騎士さんが入って来て、騎士団長さんの準備が整ったと報せてくれた。
鎧を着てるって事は、この騎士さんは外で見回りとかしてたんだろうなぁ。
「では、参ろうかリク殿。エフライム、レナーテも」
「はい」
「わかりました、お爺様」
「いよいよ、リク様の勇姿が見れますね!」
クレメン子爵を筆頭に、エフライムやレナ、俺やマルクスさんもその後に続き、執事さんに先導されて食堂を出る。
ちなみに、エフライムの両親は不参加だ。
やる事が多いらしく、クレメン子爵と一緒に訓練の見学をする事はできないそうだ。
そんな状況なのに、クレメン子爵がこっちに来ていいのだろうか……とは思うが、子爵家当主として、騎士団の訓練を視察する必要もあるらしい……そういものなのかな?
執事さんの先導にて子爵邸の中を移動し、途中で一旦外へ。
その後、敷地内に併設されている建物の中へと案内された。
建物と言っても、運動場のような整備された土が露出した場所を、半分程度囲むように作られた物で、その場所に出る前に準備を整える、更衣室だとかの役割をしているようだった。
囲み切れていない部分は、4メートルくらいの塀で囲まれており、内から外、外から内を見られないようにしてある。
王城と違って、屋内ではなく屋外だ。
これは敷地の広さの問題もあるんだろうけど、完全に建物を作るより楽にできるからなんだろうと思う。
他の貴族領とかも、大体こんな感じなんだとクレメン子爵から聞いた。
屋内ではない代わりに、王城よりも広くなってるから、多くの兵士や騎士が訓練できるようになってる。
……まぁ、王城でも外に訓練する場所はあるんだろうけど。
「では、リク殿。ワシ達はここで見守っているからな。存分に戦って来てくれ」
「ははは、適度にやってきますよ」
「リク、どれだけの戦いをするか、見させてもらうからな」
「リク様、頑張って下さい!」
クレメン子爵達に見送られ、訓練場の中央へと向かう。
エフライム達は、前もって来る事がわかっていたからか、日差しを遮るようなテントが用意され、そこにテーブルと椅子を設置。
さらにメイドさんによってお茶が用意され、観覧席ができ上がっていた。
完全に、見世物を見るような気分なんだろうな……まぁ、別にいいけど。
中央では、騎士団長さんを中心に鎧に身を固めた騎士たちと、少し鎧が見劣りする兵士さん達が数十人、整列して待っていた。
さっき、食堂に伝達してくれた騎士さんもいるね……街の見回りをするために、鎧を着てたんじゃなかったのか。
訓練なんだから、そこまでがっちりと鎧を身につけなくてもと思うが、それも騎士団長さん達の覚悟なのかもしれない。
まぁ、フルプレートじゃないだけましか……動きやすい部分鎧だしね、兜もしてないし。
「リク様、手の空いていた騎士、非番の兵士も含めて……総勢35名と1名、此度の訓練に参加させます。よろしいでしょうか?」
「はい。広い場所での訓練なら、できるだけ参加してもらった方がいいでしょうからね。それで、なんでマルクスさんがそちら側に?」
「私もリク様に、訓練を付けてもらおうと思いまして。自分の実力不足はわかっておりますが、どうか参加を許して頂きたく……」
俺が騎士団長さんに近寄ると、向こうから声をかけて来てくれた。
ついでに、後ろにいる整列した人達も、胸に手を当てる敬礼をしてる……俺相手にそこまでしなくてもいいんだけどね。
その中に、何故かマルクスさんも混ざっていたから、どうしたのか聞くと、訓練に参加したかったらしい。
「はぁ、まぁいいですけど……それで、えっと……訓練はまずどういった事を?」
「はっ、ありがとうございます。訓練ですが……まずは全員、1対1でリク様との手合わせを願いたいと考えております」
「全員ですか?」
「はっ!」
マルクスさんが訓練に参加する事に頷き、騎士団長さんにどういう形で訓練をするのか聞くと、全員と戦う事を提案された。
騎士団長さんあたりとは戦うだろうとは思ってたけど……全員?
俺の体力、大丈夫だろうか……。
これは訓練だから、無理そうなら途中で中止してもらおう……さすがに俺一人で35人と戦うのは、体がもちそうにないからね。
途中で止めたら、英雄と呼ばれてもこの程度か……なんて思われそうだけど、実際大した事ない俺だから、そう思われても別に構わない。
まぁ、できるだけやってみよう。
「わかりました。それじゃあ、全員と1対1でやればいいんですね?」
「はっ。形式は模擬戦。お互い木剣を持って戦い、木剣を取り落とすか、戦闘不能になった方が負けとなります」
「はい」
確認のため、模擬戦のルールを皆の前で説明する騎士団長さんの話に、耳を傾ける。
相手の木剣を弾いて、手から落とさせたり、体を打ち付けて動けなくすれば勝ち。
あとは、地面に倒して木剣を当てずに突き付ける事でも勝ちなのと、試合の範囲が決められてて、その外へ押し出しても勝ち……と。
場外に出すのが一番楽、かな?
相手に防御させて、持っている木剣を打てば、場外へ弾き飛ばす事ができると思う。
お互いの木剣の耐久や、俺の手加減を考えるのが難しそうだけど……それが一番怪我をさせにくいと思う。
一応、皆鎧を着てるし木剣だから、あまり怪我は心配しなくても良さそうだ。
「では、木剣を……どれになさいますか?」
「えぇっと……そうですね……では、これで」
「はっ」
騎士さんの一人が俺に歩み寄って、いくつかの木剣を見せられる。
木剣の種類ごとに木剣にもいくつか種類があるんだろう。
俺は、一番扱いが楽そうなショートソードに近い、短めの木剣にした。
チラッと他の人達の様子を見てみると、長い木剣を持っている人や、ちょっと特殊な形の木剣を持っている人もいた。
それぞれ、得意な武器を選んでるんだろう……皆やる気なんだなぁ。
木剣を持つ人達の表情は、騎士団長さんも含めて、覚悟を決めたように引き締まっており、皆戦場に赴くような雰囲気を纏っている。
騎士団長さんから色々聞いたんだろうけど、そこまでの覚悟をしなくてもいいと思うんだよ、うん。
「ではリク様、開始させて頂きます。準備はよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「……!」
まず最初の相手は騎士団長さんだ。
皆の先陣を切って俺と戦うらしい……一番強いと思われる人が最初かぁ……全員を相手にするのは、やっぱり辛そうだね。
審判を務めてくれるのは、クレメン子爵の執事さんの一人。
その人に準備ができた事を伝えると、向かい合ってる騎士団長さんは、にわかに体に力が入った。
全力でやるっていう意思表示なんだろう。
緊張からではないと思いたい。
「では、始め」
「……ふっ!」
審判である執事さんによる開始の合図の後、すぐに騎士団長さんが木剣を構えて俺へと突進して来る。
俺へと近付いた瞬間、力を込めて木剣を振り下ろした。
突進速度も、木剣の速さも、野盗達とは全然違って速く、さすが騎士団長を任されるだけはある、と納得できるものだった。
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