第270話 祝勝パレードの朝



「とにかく、エルサに言われたように失敗しないようにしないと……」

「当然なのだわ。私は見てないのだわ。けど、今日の事でリクに失敗癖が付いたら、傍にいる私が大変なのだわ」

「失敗癖って……頑張るよ」


 失敗癖と言われてもな……そんなに失敗して来たっけ、俺?

 初めて魔法を使った時や、この前のワイバーンの時、あとはさっきの線香花火の時くらいかな?

 それ以上に成功してる魔法の方が、多いと思うんだけどなぁ……。

 ヘルサル防衛の時は、ちょっとやり過ぎたと思ってるけど。


「余計な事を考えずに、魔法をしっかり考えるのだわ。私の手を煩わせないで欲しいのだわ」

「はいはい、わかったよ」


 エルサに言われて、余計な事を考えるのを止め、魔法のイメージを再開する。

 俺が失敗して、エルサが結界を……となると、それはそれでデモンストレーションになるんじゃないか……なんてちらりと考えたけど、さすがに集まった人達を危険に晒すわけにいかないからね。


「打ち上げるまで破裂しないように……以前使った風の魔法の応用、で良いかな。あれはそれなりに丈夫だったし、踏まれるまで破裂しなかったし……」


 アルネに投げられて、地面に落ちても破裂しなかった風の魔法。

 だけど、あのままだったら空に打ち上げても、ただそのまま落ちて来るだけだ。

 んー……。

 時限装置のようなイメージが良いか。


「えっと、投げるんじゃなくて、手から空に放たれるようにして……どれくらいで危険が無くなる場所まで行けるかな?」

「私に聞かれても、わからないのだわ。どれだけの速度で打ち上げるかにもよるのだわ」

「そりゃそうだね……えっと……」


 花火の大きさから考えて、ちょっと高めに飛ばそう。

 その方が遠くまで見えるだろうし。

 だとすると……確か大玉の花火の高さが200メートル後半だと聞いた覚えがある。

 それと近い感じで、300メートルで良いか……その方が安全だろうし。

 ちょっと見えづらいかもしれないけど、その分大きくすれば良い……と安易に考えてる。


 あとは撃ちあがる速度だけど……イメージして……ふむ……この速度なら5秒……いや、10秒で破裂するようにすれば良いか。

 手から打ち上がり、10秒で300メートル付近に到達、そこで破裂して広がった火花の絵が花の形になる……と。


「よし、イメージはできた。あとは明日を待つだけだ」

「ようやく終わったのだわ? だったら、早くお風呂に入るのだわー」

「ドライヤーもそうだけど、結構お風呂も気に入ってるよね、エルサ?」

「私の毛のモフモフを保つためには必要なのだわ!」

「ははは、俺もそのモフモフが損なわれて欲しくないからね、しっかり洗うよ」


 想像以上にお風呂を気に入ってるらしいエルサを連れて、一緒にお風呂に入った。

 その後はドライヤー魔法で、毛を乾かしてからベッドに入る。

 先に寝ているユノの隣にエルサを置いて、逆側に俺が入ってエルサのモフモフと一緒に眠りに就く。

 その中でも、頭の中では花火のイメージを固めて覚える事を忘れない。


 ……さすがに今度は、失敗しないようにしなきゃいけないからね。

 さぁ、明日はいよいよパレードだ。



――――――――――――――――――――



「リク様、おはようございます」 

「……おはようございます、ヒルダさん」

「んー……おはようなの……」

「まだ眠いのだわ……」


 翌日、昨日の夜が少し遅かったためか、自分で起きる前にヒルダさんによって起こされた。


「朝食の支度ができております。本日はパレードのため、朝食後は鎧を着てもらい、城の前に集合する手筈となっております」

「はーい」


 母親に起こされる子供のような返事をしながら、ベッドから起き上がる。

 一緒に寝ていたユノやエルサも起き出し、のろのろと朝の支度を始める。

 エルサは俺と同じで、寝るのが遅かったからか少し眠そうだ……線香花火を試した時には寝てたのにな……。

 ユノの方は逆に寝過ぎたのか、少し体がだるそうだ。

 ……今度、体がなまらないように、依頼が無い時はヴェンツェルさんかハーロルトさんにでも頼んで、訓練をして体を動かした方が良いかな?


「キューが美味しいのだわー。目が覚めるのだわー」

「モキュモキュ……」

「ありがとうございます、ヒルダさん。いつもお世話を掛けます……」

「いえ、仕事ですから。それに、英雄と言われるリク様のお世話ができて、光栄ですよ」

「ははは、そんなに大したもんじゃないですけどね……」


 エルサとユノが幸せそうに朝食を頂くのを眺めながら、俺も食べつつヒルダさんにお礼を言う。

 いつも色々なお世話をしてくれて、助かってるからね。

 自分でできないわけじゃないけど、誰かにやってもらうのは本当に楽だ。

 ……このままここで生活してると、堕落してしまうかな?

 いやいや、冒険者としての活動をしっかりしていれば、大丈夫なはずだ! きっと……多分……。


「ではリク様、こちらを。サイズの方は昨日職人に頼んで、直させて頂きました」

「ありがとうございます」


 朝食後は、パレードのための準備。

 顔を洗ったりしている間に、ヒルダさんが用意してくれていた鎧を着る。

 昨日採寸して、もうサイズを直したなんて……城にいる職人さんは腕利きなんだなぁ。

 ともあれ、ユノにエルサがくっ付いて準備をしている間に、ささっと鎧を身に着けた。

 一度着た事がある物だから、初めての頃よりは着るのも早くなってる。


 少しだけ大きく感じた以前よりも、体にぴったりで動きやすいような気がするなぁ。

 サイズ調整してくれた職人さん達に感謝だね。


「では、皆様の所へ参りましょう」

「はい」

「行くのだわ」

「行くのー」


 ヒルダさんが先導して、部屋を出て城の外へと向かう。

 その途中の城内では、俺達が歩く先にズラリと兵士が並んでいて、俺が通る時に頭を下げて道を作ってたから驚いた。

 こういうのも、パレードの一環なのかもしれないね。



「リク様をお連れしました」

「うむ、ご苦労」

「おはようございます、ヴェンツエルさん」

「おはよう、リク殿。……良い日だな」

「はい、そのようですね……」


 城の外に出ると、整列した兵士さん達が俺を迎えてくれた。

 その先頭にいるヴェンツェルさんの所まで行き、ヒルダさんが礼をして下がって行った。

 多分、ヒルダさんはここまでなんだろう……確か、昨日もらった書類に書いてあった……ここからは、軍のトップであるヴェンツェルさんが先導するはずだ。

 ヴェンツェルさんは、俺の挨拶に返しながら空を仰ぎ見る。

 それに倣って俺も空を見た。

 今日は雲一つない快晴……絶好のパレード日和だ。

 ……俺のためのパレード、と言うのがちょっと恥ずかしいけど。


「さて、リク殿。準備は良いか?」

「はい。いつでも大丈夫です」

「大丈夫なのー!」

「いつでも良いのだわ」

「では……リク殿の馬をここへ!」

「はっ!」


 ヴェンツェルさんの言葉に、頷いて答える。

 ユノも元気に返事をして、その頭にくっ付いてるエルサも返事をした。

 今日は、俺が馬に乗る事もあって、エルサはユノの頭にくっ付いてる。

 俺以外の皆は、外から見える馬車に乗って移動するらしいから、馬を刺激しないようそっちで……という事らしい。

 一人、俺だけ馬に乗って移動するんだけど、ちょっと緊張するね。

 今まで、ずっと誰かと一緒だったから……まぁ、今回は俺のためだけのパレードなのだから、仕方ないか……。



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