第261話 リクへの提案



「では次に、リク殿がパレードで観衆へ向け行う事に関してですが……」

「えっと、俺も何かするんですか?」


 大臣ぽい人が、次に言ったのは俺がパレードで何かをするという事……。

 ただ単に、鎧を着て馬に乗り、主要通りを周って終わりってわけじゃないの?


「必ずしも、リク殿に何かをしてもらわないと……と言うわけでは無いのですが……」

「リク殿の勇姿をその目で見たい、という方が多いのですよ」

「フランクさん……」


 大臣ぽい人が言っている事を、フランクさんが話を継いで言った。

 他の貴族の人達も、軍関係の人達も、ほとんどの人がその言葉に頷いている。

 ハーロルトさんと姉さんは、実際に俺が魔物と戦う所を見ていたし、ヴェンツエルさんは訓練やワイバーンの皮で実際に見たはずだ。

 貴族の人達は魔物との戦いじゃなく、謁見の間でバルテルと戦う所を見てたとは思うんだけど……。


「リク殿の魔法……というのが、ですな?」

「魔法ですか?」

「ええ。なんでも、ドラゴンとの契約により、普通の人間が使えない特別な魔法……との事。それを見たい人が多いのです。もちろん、ここにいる者達以外にも……観衆も英雄の存在を理解するのに、魔法を見せるのが一番かと考えます」

「……そうですか」


 魔法、ねぇ……。

 確かに俺の魔法は、エルサとの契約の関係上、人間が普通に使っている魔法とは違って、イメージで発動する魔法だ。

 何度も使い、色んなイメージをした中で、規模や威力が人間の魔法とは全く違う……というのは理解してる。

 まぁ、ユノやエルサが言う、俺自身の規格外の魔力が原因な部分も大きいんだろうけど……。

 でもなぁ……。


「止めた方が良いのだわ。リクは魔力の調整が不十分なのだわ。使い方を誤ると、周囲の人間を巻き込むのだわ」

「……そちらは……ドラゴン、ですかな?」

「おぉ、これがドラゴン……可愛いですね?」

「ほっほっほ、小さいドラゴンですが……これがワイバーン討伐の時、リク殿を乗せたというドラゴンですか……」


 偉い人達が集まるという事で、いつも俺の頭にくっ付いてるエルサだけど、横に座ってるモニカさんに預けておいた。

 そのエルサが、モニカさんの腕の中からふわりと飛び、机に乗って部屋にいる皆に注意をするように言った。

 ……確かに、魔力の調節を間違えば、周囲の人達を巻き込む可能性もあるだろうけど……最近は調節に気を付けて、練習もしてるんだけどなぁ。


「私はリクと契約をしているドラゴン、エルサなのだわ」

「エルサ様……ですか。そうですね……そのドラゴンであるエルサ様が言うように、危険であるならば、リク殿へのお願いは考え直さなければいけませんが……リク殿、どうですか?」

「えーと、そうですね……危険な魔法を使わなければ、何とかなるかな、と。例えば、触れても人に害を成さない魔法とか……ですかね」

「そのような魔法を使えるのですか?」

「しかし、それではリク殿の存在を知らしめるという事は……」

「誰が見てもわかるような魔法でなければ……」


 エルサの自己紹介を聞き、頷く大臣ぽい人。

 その人は、俺にエルサの言う事がどうなのか聞いて来るけど、使う魔法次第では危険はないと伝える。

 攻撃するのが目的の魔法でなければ、危険は少ないと思うんだよね。

 まぁ、貴族の人達が小声で話してるように、見栄えはあまり良く無いかもしれないけど……。

 派手な魔法と考えると、やっぱり爆発とかそういうのが浮かぶ……けどやっぱりそれは、失敗したら危険だしなぁ。


「それでは、こういうのはどうですかな?」

「何でしょう、子爵殿?」

「リク殿の魔法ではなく、エルサ様。そちらにおられるドラゴンに、リク殿が乗って上空を飛んでもらう……というのは?」

「ドラゴンに……それは素晴らしいですな!」

「リク殿を乗せていた……という事は、大きさを変えられるという事。人を乗せて飛ぶくらいに大きくなってもらい、リク殿を乗せて空を飛んでもらえば、観衆もリク殿を英雄として迎えてくれましょう!」

「それは良いですな、子爵殿!」

「そうですな。ドラゴンを観衆に見せ、リク殿の存在を知らしめる……素晴らしい案です!」


 子爵らしい人が、大臣ぽい人に提案する。

 その意見に、他の貴族の人達が賛成を示してるけど……この人達、もしかすると大きなドラゴンだったり、派手な演出が見たいだけなんじゃないだろうか?


「子爵殿、それには異を唱えさせて頂きます」

「何故かな、ハーロルト殿?」

「私は見たことがあるのですが……大きくなったドラゴンは、パレードを行う通りに収まらない大きさです。観衆の前で大きくなる事は、観衆を巻き込んでしまいかねません。それに空を飛ばれたら、我々が警護をするにも問題が出ます。軍としては、エルサ様に乗る事は、賛成致しかねます」

「ふむぅ、成る程な……」


 エルサに乗る事を提案した子爵さんが、ハーロルトさんが反対する事で、悩むように腕を組んだ。

 確かに、エルサが大きくなったら、開けた場所じゃないと周囲が危ないね。

 パレードという事で、観衆が詰め寄ったり警護の兵士がいたりするだろうし、周囲には人でいっぱいな事は間違いない。

 そんな場所でエルサが大きくなったりしたら、建物に被害は出ないだろうけど、人に影響が出てしまうだろうなぁ。


「子爵殿の意見、もっともですが、私としてもハーロルト殿の意見に賛成です。それに、空を飛ぶのは誰の目から見ても、確かな存在を示す事にはなりますが……それはリク殿を観衆に、という観点からは少々疑問を感じます。エルサ様の存在を示す事になりませんか?」

「確かに……その通りですな……」


 大きくなるのはエルサだし、それに俺が乗ると言っても、当然目立つのはエルサの方だろう。

 大臣ぽい人が言うように、俺を観衆に見せるという目的ではなく、エルサを見せる目的に変わってしまいそうだね。

 いやまぁ、俺を見せるのという目的とか、正直どうでも良い気がするんだけど……部屋にいる人達はそうじゃないらしい。


「それなら、やっぱり俺が魔法を見せますよ」

「しかし、観衆が危険に晒されては……」

「大丈夫です。危険が及ばないような魔法を考えますから」

「大丈夫なのだわ、リク?」

「心配してくれてありがとう、エルサ。大丈夫だよ、良い考えがあるから」


 俺が動ずすべきか悩んでる、大臣ぽい人に進言して、魔法を使う事を承諾する。

 大臣ぽい人は俺の言葉に、観衆が危険に会う事を危惧しているようだけど、良い考えがあるからね。

 火を扱う魔法や召喚魔法らしい、ウィルオウィスプを使い出した時から、ちょっと考えてた事だ。

 エルサは、俺が魔力の調節を失敗した時の事を考えてくれたらしいけど、考えてる事なら、少しくらいは調節に失敗しても、派手になるだけで被害は出ないと思うからね。


「大丈夫なの、リクさん?」

「リク、観衆を巻き込んだらパレードが台無しになるんだぞ?」

「私達にも、危険が及ぶかもしれないわね?」

「リクの考えはわからんが……俺は信じてみようと思う」

「ありがとう、アルネ。大丈夫だよ、考えてる通りにイメージできれば、人間や建物に被害を出さなくて済むから」


 俺の進言に、ざわめいている貴族達とは別に、近くに座って話を聞いていたモニカさん達も、心配そうに声をかけて来る。

 アルネだけは、覚悟を決めたように俺を信じると言ってくれたけど……覚悟なんて決めなくても良いからね?



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