第216話 新しい依頼を受ける



「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日は依頼の受諾ですか、報告ですか?」


 空いたカウンターに近付くと、カウンターを挟んで向こう側に座っている受付の男性に声を掛けられた。

 さっきマティルデさんと話した時一緒にいた女性はいないようだ。


「えーっと、依頼の確認をしたいんですけど……今はどんな依頼がありますか?」

「そうですね……まず冒険者ランクを確認させて下さい。ランクに見合った依頼を紹介させて頂きます」

「はい」


 俺のランクがわからないと、紹介する依頼をどれにするか決められないんだろうね。

 そりゃそうだ、俺が例えばDランクとかだったらそれなりの依頼を持ってくるだろうし、Bランクの依頼は紹介できない。

 取り出した冒険者カードを受付の男性に渡し、確認してもらう。

 最近新しくなった金のカードだ。


「……失礼しました。Aランクの方ですね……お名前は……リク……リク様!?」


 受付の男性は、カードが金色なのを確認してすぐAランクとわかったようだ。

 ……そういえば、すぐにAランクだとわかるようにこの見た目って言ってたっけ。

 男性はランクの確認の後、俺の名前を記入してある部分を見て驚く。


「英雄リク様でございましたか……」

「えーっと……その英雄っていうのは止めてもらえますか?」

「……わかりました。では、リク様ですね。少々お待ち下さい、リク様に見合う依頼の確認をして参ります」

「お願いします」


 英雄と言われるのは嫌じゃないんだけど、そんな仰々しく呼ばれるのはあまりね。

 男性は俺に見合う依頼を探しに席を立ち、奥へと向かった。

 ……俺の名前に驚いた声があたりの人に聞こえたみたいで、注目が集まってるようだから、早く戻ってきて欲しい……。


「お待たせしました」


 数分程視線に耐えながら待っていると、ようやく男性が戻って来てくれた。


「現状では2件の依頼になりますね。Aランクの依頼……さらにその中でも難易度の高いものになっております。リク様にはこれくらいがよろしいかと、ギルドマスターより仰せつかっておりますので」

「そうですか……えっと……」


 軽く説明を受けつつ、男性が持って来てくれた書類に目を通す。

 書類は依頼書という物で、依頼内容、達成条件、報酬などが細かく書き込まれている。


「えっと……ワイバーンの皮……ですか」

「それは、王都の職人組合からの依頼ですね。ワイバーンの皮は加工すると良い武具になるので、その素材の仕入れとなります」


 ワイバーンかぁ……城に空から襲って来たワイバーン達をかなりの数倒したけど……あれじゃ駄目かな……?

 まだ姉さんから俺が吹き飛ばしたワイバーンの後始末をしたとは聞いていないから、そのままなんだろうと思う。

 あそこに行って皮を剥いで来たらすぐに終わりそうな依頼だ。


「もう一つは……キマイラ?」

「キマイラは、合成魔物と呼ばれる魔物ですね。多くは山羊の胴体に獅子の頭、尻尾が蛇……となっていますが、必ず同じというわけではありません」

「違う場合があるんですか?」

「はい。どうしてそうなるのか、詳しい事はわかっていないのですが、複数の動物や魔物を掛け合わせた姿になる魔物の総称をキマイラと呼んでいます。もちろん、掛け合わされた種類によって強さが変わります」

「成る程……」


 ゲームとかで聞いた事がある名前だ。

 確かにその時も、受付の男性が言っているような見た目だったと思う。

 だけどこの世界では、場合によって体の部位が違う事があるようだ。


「空を飛ぶ魔物の羽が合わされば、空を飛びます。魔法を操る魔物が合わされば魔法を使う事もあります。炎を吐く魔物の口が付いていれば炎を吐いて来ます。総じてそれぞれの魔物の特性を受け継ぐので、討伐難易度が跳ね上がるのです」

「……それが……3匹……ですか」

「はい。依頼書によりますと、この王都より西へ馬で1日程行った場所に3匹が群れているようです。そちらの方角の街や村との通行が阻害されている状況ですね。これはできれば早く達成して頂きたい案件となっております」


 討伐難易度の高いキマイラが3匹……群れているのは、そういう習性のある動物か魔物が合成されてるからなんだろう。

 そんな危険な魔物がいるのであれば、確かに流通に支障が出るのも仕方ない。

 多分、今は討伐できるまで迂回したりしているんだろうと思う。


「リク様になら達成可能と、ギルドでは判断しております。是非この2つの依頼を受けて頂きたいと思い、紹介させて頂きました」

「そうですか……」


 少しだけ考える。

 ワイバーンの方は、残骸になって飛ばされた場所に行ってはぎ取れば良いから、すぐに終わりそうだ。

 けど、問題はキマイラか……。

 まぁ、こっちにも炎を吐くだけじゃなく、風を吹き荒れさせたり空を飛べるエルサがいるから、何とかなるか。


「わかりました。その二つの依頼を受ける事にします」

「ありがとうございます。では、こちらにサインをお願いします」


 受付の男性に促され、依頼書に受諾のサインをする。

 と、その下にある空白に気付いた。


「この空白はなんですか? サインをする場所より大きいのですが?」

「そこは、パーティ記入欄となっております。パーティ名やメンバーの名前やランクを記入してもらいます。パーティが記入されれば、そこから報酬の分配が行われます」


 成る程……そういえばパーティで依頼を受けるとあらかじめ決めていた分配方式で報酬が分けられるんだったね。

 それならと、そこにもパーティ名を書いて、メンバーの名前も書いていく。

 モニカさんと……ソフィー、と。


「はい、これで良いですか?」

「確認します。……パーティの方達は、リク様を除きCランクなのですか?」

「はい、そうですけど……」


 モニカさん達の名前と一緒に、ランクも記入した。

 二人共Cランクだったから、間違えてはいないけど、受付の男性は難しい顔をしている。


「……リク様なら大丈夫だとは思いますが……ワイバーンは空を飛ぶ魔物です。キマイラも空を飛ぶ可能性がありますし、どんな魔物が合成されているか確認がされていません。……Cランク冒険者には難しい依頼だと思いますが……」

「……そうですかぁ」

「私もいるから大丈夫なの!」


 受付の男性が、モニカさん達がCランクである事に難色を示していると、今まで黙っておとなしくしていたユノが横から声を上げた。

 確かにユノもいれば、ワイバーンやキマイラも軽く剣で切り裂きそうな気はする。


「……お嬢ちゃん? 危険な魔物なんだよ? 魔物と戦う事に慣れた冒険者でも難しい依頼なんだ。だから、お嬢ちゃんには……」


 男性はユノを見て諭すように言っている。

 確かに見た目だけだとユノが魔物を簡単に切り裂く事ができるとは、考えられないだろう。


「ははは、まぁ、大丈夫ですよ。それで、これで依頼を受諾したという事で良いんですね?」

「……はい、大丈夫です。ですが……」

「まぁ、なんとか依頼は達成させますから」

「リク様がそうまで仰るのであれば。ですが、気を付けて下さいね?」

「わかりました。無理はしないしさせないので、安心して下さい」


 そう言って、依頼の受けた事にしてカウンターを離れる。

 受付の男性も、俺達……特にモニカさんやソフィー、ユノを心配しての言葉だから悪気はないだろうしね。

 ちょっとむくれた様子のユノを連れて、依頼書を受け取ってギルドを出た。


 ヘルサルで依頼を受けた時は、ここまでの手続きや受諾書なんて貰わなかったけど……これは王都のギルドだからなのだろうか?

 もしかしたら、ランクが高いからかもしれない。

 それに、ヘルサルだとヤンさんがいてくれるから、ある程度の手続きは省略してくれていたのかもしれないな。



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