第202話 姉とマックスさん達との初対面
「まぁ、リクも実りがあったと思えばいいさ。我々も勉強になったしな」
「そうね。武器と魔法……織り交ぜて使う事で戦い方にも幅が出るのね……」
「そっちも、収穫はあったみたいで良かったよ」
フィリーナとアルネの二人は、魔法だけで戦うのではなく、武器も使いながら戦う事で幅を広げると言う事を考えられるようになったみたいだね。
俺にはまだ無理だろうけど、剣を振りながら、魔法も使って相手を翻弄するというのは戦闘において有効な手段になるんだろう。
……確か、マリーさんがモニカさんに叩きこんでた戦法だね。
「かと言って、武器を使う事にばかり比重を置く事はできないからな。我々はエルフだからな」
「そのバランスが難しいのよねぇ……武器を使う事に集中すると、魔法の事を忘れがちになるし……逆も同じ」
二人は頭を悩ませるように相談している。
まぁ、エルフだから人間より威力のある魔法が使えるんだ、武器を使う事にばか気を取られてしまったら本末転倒になってしまうだろう。
そういった点では、モニカさんと逆なのかな?
モニカさんは武器を使いながら、牽制に魔法を使うように特訓したらしい。
それとは逆に、武器を牽制に使って魔法を主に使う……という事だろう……二人には頑張ってもらいたい。
俺には、調整が難しくて無理そうだからね。
「お帰りなさいませ」
「帰りました、ヒルダさん」
「お帰りー、りっくん……あ……。ヴェンツェルもいたのか。ご苦労だった」
「ね……陛下。会議はもう済んだんですか?」
皆で一緒に部屋に戻ると、姉さんがまた昨日と同じようにくつろぎながら待っていた。
ヴェンツェルさんやマックスさん達も一緒にいる事に気付いて、すぐに姿勢を正してたけど……もう少し油断しないようにした方が良いんじゃないかな?
……思わず姉さんって言いかけた俺が言える事じゃないかもしれないけど。
「会議なら少し前に終わった。その報告も兼ねてな……少し匂うな……」
「あぁ……まぁ、体を動かしてたので……」
「リク様、湯浴みの準備はできております」
「ありがとうございます、ヒルダさん」
「ふむ、俺達はどうするか……陛下と初めて会うのに、このままでは恐れ多い……」
「そうねぇ……私はあまり動いてないけど……さすがに気になるわ……」
姉さんがこちらに近付きながらスンスンと鼻を鳴らして一言。
今までしっかり訓練をしていたんだから、汗をかいているのも当たり前だ。
一応、タオルで拭いたりはしているけど、着替えてたりはしないので、匂ってしまうのも仕方ないだろう。
気を利かせてくれたヒルダさんにお礼を言って、さっさと風呂に入ってしまおうと考えてる時に気付く。
そう言えば、マックスさんとマリーさんは、姉さんと会うのは初めてだっけ。
「陛下、私はこれで。今回の合同訓練、実り有る有意義なものでした」
「うむ、わかった。ご苦労」
「はっ。では」
姉さんに簡易的な報告をして、ヴェンツェルさんは帰って行った。
一応、不慣れな俺達を案内する役目があったからここまでついて来たけど、将軍という地位のある人だ、色々忙しいのだろう。
会議と聞いて一瞬体を硬直させたから、それが原因で逃げ出した……と言う事は無いよね……?
「……逃げたわね……」
ヴェンツェルさんを見送ってボソリと姉さんが呟く。
……やっぱり姉さんも逃げたと感じたようだ。
会議とか議論とか、ヴェンツェルさんには似合わないからなぁ……それで将軍という役職がよく務まってるとは思うけど。
「陛下、お初にお目にかかります」
「リク、モニカ達は粗相をしなかったでしょうか?」
「そなたらがモニカの父と母か。話は聞いているぞ」
ヴェンツェルさんが部屋を出て行くのを見送った後、マックスさんとマリーさんが姉さんの前に跪いた。
初めて会うから挨拶を、という事なんだろうけど……マリーさん、俺もモニカさんと同じ扱いなのかな……?
まぁ、お世話になっているし、この世界での保護者のような感じだから、むしろその扱いは俺にとって嬉しい事でもあるけどね。
「りっく……リクはもちろん、モニカも我を楽しませてくれているぞ」
「はっ……陛下に何か失礼が無いかと心配しておりましたが……」
「リクはまだしも、モニカは世間知らずな所がありますので……」
マリーさんからすると、俺よりもモニカさんの方が何かしでかさないかと心配だったらしい。
むしろ、この世界の事をよく知らない俺の方が、何かしそうだと自分では考えていたんだけどなぁ……。
マナーとか、未だによくわからないし。
でも姉さん、女王様モードが続いてるから良いけど、やっぱり俺の呼び方を間違えそうになるんだな。
……ちょっと練習が必要……かな……?
「父さん、母さん……私はちゃんとしてるわよ?」
「ヘルサルではそうなんだが……リクに付いて行くまで、ほとんど街を出た事が無かっただろう?」
「世間知らずな所があるのは間違いないわね」
「ははは、モニカは両親からしっかり愛されているんだな」
「陛下まで……」
モニカさんは、自分でしっかりしていると考えているから、マックスさん達の言い方に少し引っかかったようだ。
まぁ、本当にモニカさんがしっかりしていても、親としては心配は尽きないものなんだろうな。
「それで……だがな……」
姉さんが俺とヒルダさんへ視線をチラチラと向けながら、何かを言いたそうにしている。
何となく言いたいことはわかる。
姉さんにとって、俺という弟がお世話になってる二人だ、姉として何か言いたいんだろうけど……。
「陛下……」
「やはりか……仕方ない……」
ヒルダさんは、姉さんの視線を受けて首を横に振る。
姉さんはそれを受けて仕方ないと考えたようだ。
……これに関して、俺が何かを言う事はできないだろうけど……姉さんは一応この国の女王様……最高権力者だから、一介の元冒険者で今ではヘルサルで食べ物屋を営む国民である二人に、俺の姉として何かを言う事はできないんだろう。
事情を知るのは、授与式の様子や姉さんと俺を見ていた中で、近しい人に限る……という方針みたいだしね。
……俺も、これに関しては世話になってる二人に言えないのは、あまりいい気分じゃないけど……仕方ないよね……いつか言えるようになれれば良いと思う。
「それでは陛下、私共はこれで」
「もう帰るのか?」
「ええ。私達は明日ヘルサルに向けて王都を発ちます。その準備も必要ですから。……それにヘルサルの店を人に任せたままなので、そちらも心配ですし」
「そうか、わかった。また何かあれば王都を訪ねて来れば良い」
マックスさんとマリーさんは、明日王都からヘルサルに帰るようだ。
マリーさんが言う準備というのも、本当だろう。
この王都に来る時、エルサに乗って来たから、数日かかるヘルサルへの帰路は色々準備する事が必要なはずだからね。
冒険者をしていて旅慣れた二人だから、心配する必要はないんだろうな。
「じゃあな、モニカ、リク」
「また明日、見送りに行きますよ」
「そう。それじゃ、また明日ね」
「私はもう少しここにいるわね」
「あぁ、ゆっくり話すと良い。……陛下に失礼の無いようにな」
「大丈夫よ」
マックスさんとマリーさんが部屋から出るのを見送る。
軽く二人とも話をして、明日の昼過ぎに王都入り口辺りで待ち合わせする事になった。
初めて王都に来た時、入るために通った門のところだね。
明日はマックスさん達を見送る事に決まった。
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