第168話 被害を多く出さないために



「とにかく、さっさと魔物を倒すの!」

「そうだな。さっき使った魔法のおかげで、皆が大分押してるようだしな」


 今までは、拮抗している状況だった。

 魔物を倒しても、その後ろから魔物が襲い掛かって来る状況で、兵士達が何とか下がらずに持ち堪えてた。

 けど今は、城門に密集していた魔物がいなくなった事、戸惑き驚いていた魔物を大分倒した事で、兵士達が押し始めている。

 魔物達が掃討されるのも、時間の問題だろうな。


「じゃあ私は行くの!」

「疲れてるようだけど、大丈夫か?」

「残りの魔物を倒すくらいなら何とかなるの!」

「……そうか、無理はするなよ?」

「わかってるの!」


 そう言って、ユノはまた別の魔物が密集してる場所へ剣を持って突撃して行った。

 盾も持ってるんだけど、ほとんど魔物への打撃用に使われてるな、シールドバッシュってやつか。

 本当は、味方を守るために持たせたんだけど……まぁ、良いか。


「そろそろ城門に着くな……」


 俺の横で、魔物を斬りながら呟くソフィーさん。

 しばらく皆で協力して魔物を掃討していると、俺が魔法を使うまで魔物が密集していた城門付近まで押す事が出来た。

 足元の地面が、鋭い刃で切り裂かれたような跡があるけど……もしかしなくても、俺の魔法のせいだろう。


「町の方からも押し込めてるみたいよ!」

「残りは少ないな」


 魔法で散らした魔物達が、城側と町側の両方から押し込まれて、また城門で密集している。

 城門は、町と城を繋ぐ道。

 堀になってる場所に大きな橋が架かっている。

 城側の橋と、町側の橋の中央に大きな門を構えてるのが城門だ。

 皆が頑張って戦った成果か、今では魔物も橋の上に密集しているだけになった。


「味方が入り乱れて戦って無い状況だからな……存分に魔法が撃てる」

「場所を気にせず魔法を撃てるのは良いわね。結構気を使うのよね」

「逆に、剣だと味方が近すぎて気を使ってしまうな」

「リク様、どうされますか?」

「私が行こうか?」


 橋の上に魔法を撃てば良いだけのフィリーナとアルネは気楽そうだが、剣を使うソフィーさんはちょっとだけ戦いづらそうだ。

 ここまで魔物を押し込める途中で合流したハーロルトさんとユノが俺を窺うように聞いて来る。


「とりあえず、ユノは一人で突出しないように。ユノなら大丈夫かもしれないけど、魔法が使いにくくなるからな」

「わかったの」

「ハーロルトさん、俺はあまり戦術に詳しくないんですが……俺が決めて良いんですか?」

「問題ありません。陛下を救ってくれた事、先程の上空での戦闘を見た我々兵士は、リク様の指示に異を唱える事は無いでしょう」


 ユノには俺の隣でおとなしくしてるように言って、ハーロルトさんと話す。

 俺が兵士の指揮とか、出来るとは思えないけど……まぁ、反論されたりしないのなら良いか。


「それじゃあ、怪我をした兵士は全て下がらせて下さい」

「わかりました」


 ハーロルトさんに言って、怪我をしている様子の兵士達を城内へと下がらせる。

 邪魔と言うわけじゃないけど、命は粗末にして欲しくないからね。

 俺の指示を聞いたハーロルトさんが幾人かの兵士に指示を飛ばし、魔物と戦う怪我をしていない兵士を残して怪我人を城の中へと戻らせた。

 ある程度軽い怪我の兵士が、地面に倒れて動かない兵士も連れて行く。

 ……結構、死んだんだな……戦いだから、死者が出るのは仕方ない事だけど……。

 ヘルサルの時と違って、今回は兵士にも死人が出たようだ。

 この分だと、魔物達がいくら城にしか向かずに進撃して来たと言っても、町にもそれなりに被害が出てるんだろうな。

 俺一人で全て何とか出来るなんて考えちゃいないけど、出来る事なら死者を出さずに済ませたかった。


「……魔物を簡単に倒して来た、驕り……なのかな……」

「? 何か?」

「いえ、何でもありません」


 城へと連れて行かれる死者を見送りながら、小さく呟く俺。

 その声を聞いたハーロルトさんが首を傾げるけど、何でもないと伝えておく。


「残りは城門、そこから続く橋にいる魔物達ですが……」

「総攻撃で殲滅しましょう」

「……普通ならそうなのかもしれませんね」

「リク様の考えは違うのですか?」


 ハーロルトさんは、無事な兵士を総動員して魔物の殲滅を考えているようだ。

 けど、俺はそれに対して躊躇してしまう。

 地面に転がっている兵士達の亡骸を見たからかもしれない……出来るだけこれ以上の被害を出したくなかった。

 ……俺にならそれが出来るって考えてるのが、一番の驕りなのかもしれないな……。


「ハーロルトさん、どうにかして町側の人達に指示を伝える事は出来ますか?」

「……可能です。声を増幅して届けるか、少し時間を頂ければ別の道から街へ行く事が可能ですので」

「そうですか……なら、少しの間魔物の相手をしておきますので、町へ伝令をお願いします」

「わかりました。伝令の内容はどう致しましょう?」


 増幅すれば、町の方へ声を届ける事が出来るだろう。

 でも、俺は確実に指示が伝わるよう伝令を向かわせる方を選ぶ。

 魔物の中に人の言葉が理解出来る奴がいるかもしれないからね。

 ……まぁ、理解出来ても防いだりはさせない。

 城門は魔物で埋まっているけど、ハーロルトさんは城門を通らなくても町に行く方法をしっているんだろう。

 裏門は無さそうだったけど……どうやって行くのかは疑問だが、ここはハーロルトさんを信じて任せる事にする。


「町の人達、こちら側の人達には大きな盾を持って城門から続く道を開けてくれと伝えて下さい。」

「……ですがそれだと、魔物を逃がす事になるのでは?」

「道の両側に盾を構えて、魔物達を挟むんです。そうして、魔物達が一直線に並ぶように仕向けて欲しいんです……後は俺がやります」

「……わかりました。他ならぬ英雄リク様の事です。信じましょう。……迅速に皆へ伝えます」

「お願いしますね。時間は稼いでおきますから」


 ハーロルトさんが俺からの指示を伝えに行くため、離れて行くのを見送った。

 伝令を走らせても、盾の用意とかでしばらく時間がかかるだろう。


「さて、しばらく時間を稼ぐかな」

「私もやるの」

「疲れは大丈夫か?」

「全然平気なの。後でしっかり休むの!」


 ずっと戦っていてくれたユノは、小さな体に見合わず相当な体力があるようだ。

 やる気を見せているユノを連れて、魔物達と戦っている兵士達の後ろに来た。


「リクか、狭いからあまり私達の活躍の場は無さそうだぞ?」

「ちょっと考えてる事がありまして……なので怪我人が増えないよう少し時間稼ぎをします」

「何をする気なの?」

「今は魔物達が密集してるからね。一掃するために少し工夫するだけだよ」

「リクがこう言うと、どうにかしてくれそうな安心感はあるんだが……どうしても巻き込まれないか心配になるな……」


 魔物達と戦ってる兵士達の後ろで、休憩していたソフィーさん達と話す。

 アルネは巻き込まれないかを考えてるようだけど、今回は出来るだけ巻き込まないようにするための事だからね。

 さっきの風の球を使った魔法を使っても良いんだけど、あれは範囲を限定して使う物というイメージにしたから、全ての魔物を掃討するのには向かない。


「リク様が来て下さったぞ!」


 俺が兵士達に近寄ると、気付いた人が声を上げ道を開けてくれる。

 さっきまでは魔物も人も入り乱れて戦ってたけど、魔物達が密集してる今、数を減らす事しか出来ていないみたいだ。



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