第166話 さらに新しい魔法



 頭の中で、状況を整理しながら考える。

 城門の魔物を倒せば、こちらがやりやすくなるのは間違いない。

 そうすれば、直に魔物達を掃討し終えるだろうと思う……怪我人も少なくなるだろうしね。

 さっきフィリーナが言ったように、火の球を放り投げるようにして……いや、それだと城門ごと焼き付きしてしまいかねない。

 氷の槍は……それはそれで城門の周囲に被害が出そうだ。

 それなら……さっき使った風の魔法はどうだ……?


「GUOOOO!」

「……邪魔!」


 考えてる途中で、オーガが2体襲い掛かって来た。

 ようやく考えがまとまりそうだったのに、邪魔をされそうだったので力いっぱい剣を振った。

 俺の剣は、オーガ2体をまとめてバターのように切り裂きながら吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたオーガの巨体に巻き込まれて、複数の魔物も飛んで行ったおかげで、少し余裕が出来た。


「……今のうちに考えるか」

「オーガをやすやすと斬ったあげく、あの勢いで飛ばすとはな」

「リクの事は、集落で見て知ってるけど……やっぱりどこかおかしいわよね」

「こればかりは、慣れるしかないんだろうな」


 俺がまた思考を続けてると、飛ばされたオーガを見ながら皆が何やら話してたけど、今はそれを気にしてる余裕は無い。


「フィリーナ、アルネ。風の魔法を使う時、気を付ける事ってある?」

「……エルフは元々風の魔法が得意だから、特に気を使った事はないけど……そうね、強いて言うなら有効範囲を把握する事ね」

「有効範囲……」

「風は目に見えないからな。魔法を使った時それがどれだけの距離、どれだけの広さで効果を及ぼすかを考えるんだ。……そう考えると、さっき見たリクの魔法は、その範囲があまり考えられてなかったな」

「まぁ、風の魔法を使うのは初めてだからね」

「確か、イメージするだけで使えるのよね? ほんと、契約者って規格外だわぁ……この場合、ドラゴンの魔法は、というべきかしら」


 風の魔法をよく使ってるエルフの二人に、コツのようなものを聞く。

 言われて気付いたけど、さっきワイバーンに対して使った魔法は、とにかくワイバーンを切り裂いて飛ばす事しか考えて無かった。

 有効範囲か……これは他の魔法をイメージする時にも使えるかもね。


「ありがとう、参考になったよ」

「風の魔法を使うの? さっきのような規模だと、味方も含めて全滅するわよ?」

「上空で切り裂かれながら飛ばされるワイバーンを見るとな……」

「リクの魔法は鎧程度じゃ防ぎようがないだろうな。ワイバーンの皮をやすやすと切り裂いていたのだし」

「ははは、さっきのような魔法は使わないよ。皆を巻き込まないようにするために、魔法の事を聞いたんだしね」


 フィリーナ達も、ほとんど冗談でそう言ってるんだろう。

 さすがに、俺が皆を巻き込むことがわかってて魔法を使うとは思ってない……と思いたい。


「それじゃ、ちょっとイメージしてみるかな」

「気軽に言うわねぇ。本当は、魔法一つ使いこなせるようになるにも、結構苦労するもんなんだけど……」

「呪文から始まって、効果や使用魔力、範囲だとか色々と考える事があるからな。それを考えるとイメージ一つで思った通りの魔法が作り出せるというのは、異常だな」


 魔法に詳しいエルフがそう言うんだから、俺の魔法はやっぱり特別なんだろう。

 ドラゴンの魔法だからというのが大きいはずだけど。

 魔法のイメージを固めながら、剣を振って魔物を倒す。

 ヘルサルの時よりは数が少ないはずだけど、エルフの集落よりは多いように見えるから、後から後から魔物が襲い掛かってきてキリがない。

 とにかく今は、イメージだ。


「リクが黙り込んだわね」

「イメージとやらを作っているんだろう。その間、俺達が魔物を相手にするぞ」

「リクも剣を振って魔物を倒してるがな」

「戦う事に集中してなくても、私達よりよっぽど戦果を挙げてるわね」

「……とにかく、リクにあまり魔物を近づけないように戦おう」


 皆の会話を聞き流しつつ、イメージを固める。

 ワイバーンの時みたいに遠くへ飛ばすのはダメだな……味方や建物に当たってしまうだろうから。

 風の刃を使うのは当然として……さっきほど吹き荒れないように気を付ける……範囲は城門の周囲数十メートル程度……魔物だけが密集していそうな範囲に限定する……そうだな……城門の上部に当たらないように……球体が良いかな……あとは、これをどうやって目的の場所だけで発動させるか……。


「んー……そうだ、空からなら……」


 とは言えエルサは姉さんの所にいる。

 空から投げ込むように発動させれば良いのなら……遠投?

 遠投するように投げて、目的の場所に到達させてその場所で破裂させる……そうだ、風の球が良いね……それを投げて、何かに当たったら破裂後魔法の発動とすれば……風の爆弾、と言ったところかな。


「イメージは出来た……フィリーナ、アルネ」

「どうしたの?」

「なんだ?」

「弓とか得意かな? あと、石とかを投げて何かに当てたりとか」


 日本にいた頃からの想像で、エルフは弓が得意そうなイメージがある。


「弓は得意よ、狩りに使うからね。でも、物を投げるのはあまり出来ないわね」

「俺はどちらも出来るぞ。獣の気を引いたりと、投撃は何かと役に立つからな」


 フィリーナの方は、由美は出来るけど何かを投げるのは不得意なようだ。

 アルネの方はどちらも出来るようで、自信に満ちた表情をしている。

 それなら、アルネに頼もうかな。


「それじゃアルネ、今から魔法の球……風の球を出すから、それを城門にいる魔物に向かって投げて」

「魔法の球だと? それはどういう……」

「……説明してる時間はあまりないかな……っと」


 魔法の球というのがどういうものか説明したいけど、それを邪魔するように遠くから矢が飛んで来た。

 挟撃されて、魔物達も焦っているのか、さっきまでよりも矢や魔法が飛んで来る頻度が高くなってる気がする。

 時間が経つごとに、怪我人が増えるかもしれない……疲労すると避けにくくなるからね。


「……わかった。リクを信じよう」

「ありがとう。それじゃ、投げる方の手を出して」


 フィリーナとソフィーさんに、俺達に向かって来る魔物を倒す事に集中してもらう。

 アルネが差し出して来た左手に乗るように、魔法を発動させる。

 アルネって左利きなのかな?


「テンペストボール」


 適当に付けた魔法名を呟いて、魔力を開放。

 変換された魔力が魔法となってアルネの左手に集まる。

 数秒後、アルネの左手の平には緑色のソフトボール大の球が乗っていた。


「本当に球なんだな……」

「それを、城門にいる魔物達の方に投げて欲しいんだ。あ、間違っても人に当てないようにね」

「わかった……リクの魔法だからな、味方に当たったら大変な事になるんだろう……しかし、何故自分で投げないんだ?」

「……遠投は苦手なんだ」


 今はエルサとの契約で、身体能力も上がってるみたいだから、遠くまで届くように投げられるんだろうけど……いかんせん俺はノーコンなんだ……。

 小さいころ、同級生と野球をした時、どう投げても狙ったところに行かなかったのは……今となっては笑い話……なんだろうね。


「……そうか……だから俺なんだな」

「うん」


 何かを察したようなアルネに、俺は頷くだけで答える。

 それを見た後、ちょっとだけ顔を強張らせながらアルネが振りかぶり、風の球を城門方面に向かって投げた。



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