第91話 夜の会議



「じゃあ、モニカさん、ソフィーさん、ユノ、食べようか。頂きます」

「そうね……お腹も減ったし、今日はいっぱい食べるわよ」

「うむ。動けなくなるまで食べようじゃないか!」

「ユノも食べるのー!」


 皆、テーブルについて運ばれて来た料理を食べ始める。

 でもソフィーさん、いつ魔物の襲撃があるかわからないんですから、動けなくなるまでは食べないで下さいね。

 ……運ばれて来る料理を残さず食べようとしたら、動けなくなるどころじゃないだろうけど。


「……エルサ様はこれで良いとして、リク達も遠慮しないようにいっぱい食べてね!」


 フィリーナはキューに飛びついたエルサに圧倒されていたけど、気を持ち直して俺達に料理を勧める。

 そうして、俺達はエルフ達が頑張って用意してくれた料理をたらふく食べた。

 もちろん、全部は食べ切れなかったけど……。

 ちなみにエルフの料理は、森に住んでるからなのか、野菜類が多かった。

 葉物、根菜等多種多様な種類でどれもおいしかった。

 けど……やっぱりちょっとは肉が欲しかったよね。

 肉料理はあるにはあったけど、種類も量も少なめだった。

 エルフはベジタリアンが多いのかなぁ……?

 健康的で良いけど……帰ったらマックスさんに頼んで獅子亭の料理をいっぱい食べよう!


「お腹いっぱいなのだわ。満足なのだわー」

「ユノもいっぱいなの。もう食べられないの!」


 エルサは皿に山となって積んであったキューを全部食べ尽くしたうえ、テーブルに運ばれて来た料理も食べていた。

 いつもよりかなり多く食べてるけど、大丈夫なのだろうか?

 ユノの方も、俺達の数倍は料理を食べていた。

 笑顔なので苦しかったり食べ過ぎたりはしていないのだろうけど、あまりの食べっぷりに料理を持って来たエルフ達が驚いてたよ。

 食事の後はいっぱいになったお腹を慣らすように少しだけ休憩した後、女性陣(フィリーナも一緒)がこぞってお風呂に入りに行った。

 この石の家、お風呂まで完備されていたのだ。

 しかも、獅子亭にあるお風呂のような物じゃなく、ちゃんとお湯に浸かれるような仕様。

 久々にお湯に浸かれると喜んだのも束の間、女性陣が先にお風呂に入るとの事で、俺はエルサと一緒に待たされて、寂しくお茶をすすってる。

 まぁ、後で入れるからいいんだけどね……。

 エルフは綺麗好きだとかで、お風呂は家の中でも基本的に広い場所を取るようにしているそうだ。

 だからこの石の家では、女性陣数人が一緒に入っても余るほどの広さらしい。

 ……やっぱり楽しみだ。

 しばらく……大体1時間以上待って、女性陣は満足気な表情をしてお風呂から上がって来た。

 それじゃ俺も、と立ち上がろうとすると……モニカさんとソフィーさん、ユノからドライヤーの催促。

 仕方なく、三人にドライヤーの魔法を使っていると、興味を示したフィリーナからも催促された。

 膝まで届きそうな長さのあるフィリーナの髪を乾かすのは時間がかかったけど、皆満足そうで、眠そうな顔をしながら部屋に向かった。

 ようやく落ち着いて、エルサとお風呂に入る事にする。

 お風呂は確かに大きかった。

 一軒の家に備え付ける広さじゃない。

 ちょっとした大きめの銭湯くらいあるかもなぁと考えながら、久しぶりにお湯に浸かる。


「ふぁー」

「あーだわ」


 エルサと一緒にお湯に浸かって息を漏らす。

 何でお湯に浸かるとこんな声が出るんだろうね。

 エルサとしっかり体が温まるまで浸かってお風呂から上がる。

 俺が寝る部屋へと帰ると、ユノが眠いのを我慢しながらベッドの端に座ってた。


「リク、お帰りなの」

「ただいま。さて、エルサの毛を乾かすぞー」

「お願いするのだわー」


 エルサのモフモフした毛をドライヤーの魔法で乾かしながら、夜の相談を始める。

 集落の状況を見て、ちょっと考えてた事があるんだよね。


「エルサ、ユノ、ちょっと相談があるんだが」

「あー気持ち良いのだわー……ん? 何なのだわ?」

「やっぱり何か考えてたんだね、リク」

「わかるか?」


 俺が何かを考えてた事はユノにはわかったらしい。

 そんなにわかりやすい態度はしてなかったと思うけどな。


「うん。だって、集落の広場に行ってエルフさん達を見た時に少しだけ様子がおかしかった気がしたから」

「そうか……」


 ユノは俺の事をよく見てるようだ。


「それで、何をしたいの?」

「それがだな……出来るかどうか、俺にはわからないんだが……治癒の魔法ってこの世界にあるのか?」

「治癒の魔法なのだわ?」


 俺が言った事に、エルサは首を傾げた。

 よくある異世界の魔法というものの中には、治癒……つまり怪我を治す魔法というのがあったはず。

 地球でのラノベや漫画の設定で、だけどね。


「治癒の魔法ならあるの。でも、人間には使えないの」

「人間には使えない……何でだ?」

「治癒の魔法というのは見た事が無いのだわ。本当にあるのだわ?」


 エルサが見た事がない……1000年以上生きてるドラゴンが見た事がない魔法って存在するのか?

 いや、ドラゴンより上の神様であるユノが言ってるんだから、あるんだろうとは思うけど。


「エルサが見た事が無いのも無理は無いの。人間には使う魔力が多すぎて使えないからなの。ずっと昔には使える種族がいたけど、もうその種族はいないの。だから存在自体が知られてないの」

「……使う魔力が多すぎるからか……」

「その魔法を使う種族がいないのなら、私が見た事無いのもわかるのだわ」

「魔力が多い種族……例えばエルフなんかは使えないのか?」

「使おうと思えば使えるの。エルフにはそれだけの魔力が備わってるの。だけど、治癒の魔法の存在が知られてない事と、使い方がわからないの」


 実質、使えないって事か……。

 治癒の魔法の事を教えて、研究がされれば使う方法なんかも考えられるんだろうけど、現状では知られていないために研究もされていない。

 だから魔力があったとしても、使う事が出来ないのか。


「エルフも人間も、リク以外は本来呪文書から魔法を覚えるの。だけど、研究がされてない以上呪文書なんかないの」

「成る程な」


 魔法を使うためには魔法屋で売ってる呪文書を買って読む事が必要だってマリーさんは言ってた。

 けど、その呪文書の開発が出来てないなら仕方ない。


「だったら……」

「リク?」

「どうしたのだわ?」


 ユノは俺以外と言った。

 俺以外は呪文書でしか魔法を覚えられないなら、俺はどうだろう?

 俺の魔法はエルサと同じドラゴンの魔法。

 ドラゴンの魔法はイメージをする事で、魔力を魔法に変換して発動させる。

 それなら、俺が治癒のイメージをしてそれを魔法に変換出来れば治癒の魔法が使えるという事だと思う。


「俺は呪文書が無くても魔法が使える。イメージするだけだからな。それなら、治癒の魔法が使える……違うか?」

「リクなら魔力も申し分ないから使えるはずなの、でも……」

「でも?」

「イメージが難しいの。治癒のイメージなんてどうするの?」

「爆発や凍らせるのとは違うイメージが必要なのだわ」

「イメージが出来ればリクもエルサも使えると思うの。でもそのイメージをしっかり出来なかったら、治癒は破壊の魔法になってしまうの」


 治す事に魔力を注いで変換する事に失敗したら、逆に体を破壊してしまうのか……怖いな。


「例えば、剣で切られた傷を治すイメージをするの。切られた傷だから、傷が塞がるようにイメージをすると良いのだけど、それに失敗するともっと大きい傷になってしまうかもしれないの」


 ユノの言いたい事はわかる。

 でも、俺には少し違うイメージの仕方を思い付いていた。



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