第89話 案内された石造りの家で状況説明
家の中も石で造られていて、動いたら汗がにじむくらい熱さを感じていた外と違い、ひんやりとした空気に満たされていた。
「気持ちの良い空気ね」
「これは……私達の街にある家よりも考えられて造っているな」
「涼しいの!」
モニカさん、ソフィーさん、ユノはそれぞれ家の中に入って感心したように見回してる。
ユノだけは涼しい事にしか興味無さそうだったけど。
「この家はただ石を積み上げて造ったわけじゃないの。周りの民家の配置から、日当たりや風の通り道を計算して常に新鮮な空気を取り入れるようになってるわ」
「成る程、だから建築技術の結集なんですね」
「そうよ」
フィリーナは少し誇らしそうだ。
人間の街にある家は、確かに石やレンガで造られてる家も結構ある。
だけど風の通り道や新鮮な空気を取り入れる計算はされていないと思う。
日当たりくらいは考えてるかもしれないけどね。
ソフィーさんが感心するわけだね。
新鮮な空気とか風を考えるのがエルフらしい。
エルフのイメージにぴったりな気がするな。
「さて、まずはこっちよ」
「集落の状況を説明しないとな」
フィリーナとエヴァルトさんが家の中を案内してくれる。
入口から続く廊下を歩き、奥にある広い部屋に通された。
廊下の途中には何部屋かあり、その中に厨房のような場所があった事から、ここで生活できるようにちゃんと造られてるんだろう。
通された広い部屋には、真ん中に大きな丸いテーブルが置かれ、そのテーブルを囲むように椅子が配置されていた。
さながら、円卓の会議室のような雰囲気だね。
「さ、どこでも良いから座って頂戴」
「わかった」
「ええ」
「うむ」
「座るの!」
俺はこういう時の座り順の事はよく知らない。
上座とか下座とかあるらしいけど、わからないから適当に座ろう。
入口から右、時計で言うと3時の場所に座った。
そこから、右隣りがユノ、そのユノの向こうにモニカさんで、左隣がソフィーさんの順で座った。
フィリーナ、アルネ、エヴァルトさんは俺達が座ったのを確認した後、向かい合う形になる場所に座った。
エヴァルトさんを中心に、右がフィリーナで左がアルネだ
「さて、まずはこの村の今の状況ね。エヴァルト、頼めるかしら?」
「わかった。まずこの集落ですが、南半分が森の中。北半分が森の外で造られています」
「はい」
さっき見て来た通りだね。
森の方は太くて大きい木が沢山あった。
ツリーハウスのようにして木の中に住んでるんだろう。
北半分はここに来るまでに複雑な道を歩いて来る途中で見た。
木で造られた建物が法則を考えられずに建ち並んでいる。
「南の森からさらに南。森から出た所に古くからある洞窟があります。その洞窟は以前から魔物が住んでいたんですが、そこから溢れるように魔物達が出て来て森の木々を飲み込み始めました」
「洞窟の魔物は今まで放っておいたんですか?」
「いえ、定期的に狩りと称して集落の中で戦えるエルフ達が入っていました。その時には魔物が点在しているだけで、今回のように魔物が大量に溢れるような数の確認はされていません」
「……ゴブリン等は確認されましたか?」
モニカさんからの確認。
今回は洞窟の中からという限定的な条件だ。
ゴブリンジェネラルを発見した時のような……ヘルサルの街の時のような事は無いだろうけど、一応の確認だろう。
ウッドイーターがいるってユノが言ってたから、ゴブリンでは無い事はわかってるんだけどね。
「ゴブリン、ですか? ……普通のゴブリンは数体確認されていますが……それが何か?」
「いえ……私達のいた街でゴブリンが大量発生しまして……」
「ゴブリンが軍隊で人の街を襲うという事があったんだ」
それから、モニカさんとソフィーさんがエヴァルトさん、フィリーナ、アルネ達にヘルサルの街で起こったゴブリン軍団襲撃の顛末を語る。
最後の、俺がゴブリン達を魔法で全て消滅させたって所は特に三人は目を輝かせて聞いていた。
俺がやった事が大きく誇張されてるような気がするけど気のせいかな……?
「……そんな事があったのですか……」
「やっぱりリクはすごいのね。いくらエルフでも話にあったような広範囲の魔法なんて使えないわ」
「そうだな。エルフは魔法が得意な種族だが……それでも無理な事だ」
「リクさんがいれば、やはりこの集落は魔物達から救われる事でしょうな。はっはっは」
エヴァルトさんが笑ってるけど、まだ俺はここで魔物と戦うどころか、姿すら見てない。
本当に救えるかどうかはわからないと思うんだけどなぁ。
「ねぇリク……その、ゴブリン達の時と同じように集落を襲ったり、森の木々を食べてる魔物を一掃できないかしら?」
フィリーナが、俺にそんな事を提案して来るが……それは難しいと思う。
「えっと……ゴブリン達を一掃した魔法って、火の魔法なんです。それをここで使ったら……」
「……森も無くなるわね……」
「そうなると、この集落も危ういな。それでは本末転倒だろう」
だよね。
今回、エルフの集落で半分が森というのを聞いて、火の魔法だけは使わないようにしようと決めてる。
小さい火でも、何かの拍子で木に燃え移ったりしたら大変だからね。
「ふむ……とりあえず、集落の状況の続きを話しますな」
「お願いします」
「では。数日前……1週間程前ですな。その頃に、集落のエルフが洞窟に近い森の木がおかしい事に気付きました。それを調べてみると、洞窟から出て来たウッドイーター達が森の木を食べていたとの事です」
「ウッドイーター……」
ユノが言ってた通りだね。
森の木を食べるウッドイーターがいるから、森が無くなるかもしれない。
「見つけたエルフ達を含め、戦える者達はウッドイーターを排除するべく動きました。幸い我らエルフは魔法が得意ですからな。ウッドイーターに近付く事無く数を減らす事が出来ました」
ウッドイーターはその腕を振り回す攻撃が恐い魔物だ。
ただし、腕が届かない場所まで離れて攻撃出来れば一方的に討伐出来るだろう。
「しかし……」
エヴァルトさんは、そこから深刻な顔になって重い雰囲気を出しながら話す。
「ウッドイーターだけかと思っていた魔物達なのですが、洞窟の中からさらに別の魔物達が大量に湧き出して来たのです」
「別の魔物……」
「はい……オーガ、オーク、ウルフ、コボルト……ゴブリンもいましたな。確認できたのはこれくらいですが、もっと種類がいたかもしれません。それらの魔物に、ウッドイーターを討伐していたエルフ達は襲われました」
「そのエルフさん達はどうなったんですか?」
「半分は何とか逃げ延びて生き残れましたが、もう半分は……」
「……」
魔物達にやられてしまったんだろう。
ウッドイーターだけかと思っていたところに魔物達の集団が襲って来たんだ、無理もない。
「それからすぐ、ウッドイーター以外の魔物達はこの集落を襲い始めました。何とか食い止めてはいるのですが、魔物を倒しても数が減る様子は無く、集落のエルフ達はこのままでは危険だと考えます」
「そこで、会議が開かれて、最終的に私とアルネが人間の冒険者、上手く行けば国に助けを求められるかと考えてこの集落を出たの」
「そうだな。だが、北に向かっていてオーガに襲われた時はもう駄目かと思ったが……リクに助けてもらえて良かった」
「ははは、たまたま見つけただけなんだけどね」
「……正直、フィリーナとアルネを送り出した時は多分、助けは間に合わないだろうと思っていました」
「そうなんですか?」
「ええ。北の人間が住む街まで数日、それを往復している間にこの集落はもう残っていないだろうと……」
「「……」」
エヴァルトさんの言葉に、フィリーナもアルネも黙り込んだ。
多分、二人共間に合わない可能性は考えていたんだろう。
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