第59話 ガラスの後始末



「食事をしてる時から思ってたけど……随分見晴らしが良くなったわよね……」

「そうだな。ここらには林があってゴブリン達が木々の間から出て来てたのを見て覚えてるぞ」

「私は、ヘルサルで生まれ育ったからここにあった林を見慣れてたけど、今は見晴らしが良くなっていいんじゃないかしら」

「そうなのか? 木々が無くなって薪等に困ったりするんじゃないか?」

「薪はセンテの街との間にある森で取れるから大丈夫よ。ここはあっちの森よりも魔物が多かったみたいで、木を伐採する事が難しかったらしいわ。冒険者の人に頼んである程度は魔物討伐をしてもらってはいたけど、全滅させる事も出来なかったし減らしてもしばらく経つとまた増えてるって父さんから聞いたわ」

「成る程な。だからその林が無くなって魔物もいなくなったから農地に出来ないか、というわけか」

「ヘルサルは大きい街だけど、農業はしてないからね。近くにセンテがあって作物には困らないといっても、買ってばかりじゃなくヘルサルでも少しは農業を推奨したいみたい」

「代官……クラウスといったか……あの人辺りが考えて……いや、一緒にいた有能そうな秘書が考えたのかもしれんな」

「そうね、あの秘書さんは仕事が出来そうな人だったわね。……厳しそうで怖いけど」

「ははは、まあ代官さんがちょっといい加減な部分もありそうだったからちょうどいいんじゃないかと思うぞ。そういえば代官さんはリクのファンだとか言ってたな……」

「ちょっと、その話は辞めて下さい……」

「どうしてだ?」

「いえその……さすがにあの歳のおじさん? にファンって言われて目を輝かされても困るだけですよ……」

「まあ確かにな。ははは」

「ふふふ」


 仲良さそうにモニカさんとソフィーさんが話してるのを聞いてたけど、さすがにクラウスさんが言った俺のファンとかいうのは遮った。

 いやというわけじゃないけど、ほんとあの人に言われても嬉しいとかよりも困って苦笑いしか出来なくなるからね。

 そんな事より、この戦場跡での地質調査だ。


「この辺りでガラスが発見されたらしいけど」

「そうみたいね。でも見る限りガラスなんて見つからないわ」

「まあ、ガラスを軽く見渡しただけで見つけるのは難しいとは思うけど、依頼書には地面から出て来たって書いてあるから、誰かがこの辺りを掘った時に見つけたんじゃないかな?」


 あの時、一面ガラス化した地面をごまかすために魔法で砕いたけど、さすがに全部は粉々に出来ずに一部はある程度の大きさで残ったのかもしれない……。


「それじゃあその辺りを掘ってみるか?」

「んー、手あたり次第掘っても範囲が広いし、時間も掛かりそうだね」

「この範囲全部掘り起こすってのもねえ……」


 俺がガラス化した範囲は数キロ四方くらいの広さかな?

 測ってないから実際の広さはわからないけど、ほぼ見渡す限りの範囲をひたすら掘り起こすのはちょっとね……。


「土が農業に適してるかどうかならわかるんだけど、ガラスがあるかどうかはさすがにね……」


 モニカさんが足で地面の土をつつきつつ悩んでるけど、土がどうこうってのはわかるんだ。

 じゃあガラスさえどうにかしてしまえば土質を調べるのは簡単って事かな。

 んー、出来るかどうかわかんないけど、やってみるか。


「モニカさん、俺がガラスだけ取り除くからその後の土が農業に適してるか調べてくれたらいいよ」

「ガラスだけ取り除く? そんな事出来るの?」

「まあ、多分ね」


 そう言っておいて俺は地面にしゃがんで両手を付ける。

 魔力探索のイメージ。

 以前使った探査は魔物の魔力を探るものだけど、ガラスは魔力を持って無い。

 なので探査で広げる魔力の密度を濃く練って、土の中に混ぜ、土にとって異物であるはずのガラスを探していく。

 上手く出来るかわからなかったけど、魔力を広げて数分でガラスと思われる物を土の中で発見した。


「ソフィーさん、そこを掘ってみて下さい。多分そこにガラスがあります」

「わかった、ここだな」


 ガラスを見つけた場所を指示してソフィーさんに掘ってもらう。

 さすがに素手で土を、しかもガラスが割れて混じってる可能性のある場所を掘るわけにはいかないので、小さいスコップを持って来てる。

 そのスコップでしばらく地面を掘っていたソフィーさんが何かを見つけたのか、布で穴から見つけた物を覆って取り出した。


「リクの言った通りガラスがあったぞ」


 ソフィーさんが穴から持って来た物を見ると確かにガラスだ。

 探査が上手く行って良かった。


「こんな透明度の高いガラスは見た事ないわ」

「私もだ」


 二人で見つけたガラスを珍しそうに見てるけど、俺は透明度の高いガラスなんて前の世界にいた時に見慣れてるから驚きはしなかった。

 それよりも、この世界にはガラスは珍しい物で、さらに透明度の高い物はほぼ無いと考えて良いのかもしれない。

 あの時何故かこのガラスをそのままにしておけないと思った事は正しかったのかも……。


「このガラスを加工して作られた物は高値になりそうだな」

「そうね。貴族なんかがガラスを好んで買ったりするって聞いた事あるわ。でも小さいからどうなのかしら……?」


 ガラスは10センチ程度の大きさ。

 あれだけだと何に使えるのか……何にも使えそうにないか。

 窓なんて絶対無理な大きさじゃないかな。

 ふむ、意識を失う直前に砕いたから塊はある程度残ってるけど、あまり大きな物は残ってないみたいだ。

 これなら発見されても大丈夫、かな?

 透明度の高いガラスを作り出す方法なんて知られてないだろうし、自然から産出されるガラスを扱うくらいがせいぜいなのかもしれない。

 あぁ、だからガラスがここから一定量以上出るならそれを街の特産に、量が少ない場合は林が無くなったから農地にって考えなのかな、多分だけど。


「リクさん、他にはガラスがあるかわかるの?」

「んー、もうちょっと調べてみるよ」


 そう言って俺はまた地面に手を付けて探査をする。

 しばらく探査をしてたけど、結構色々な場所に別れて埋まってるのがわかった。

 三人だけでこの数を掘ってガラスを見つけるのは時間がかかり過ぎるよな……。

 魔法で土をどうにか出来ないものか……。


「エルサ、魔法で土を動かしたり、ガラスだけを取り除くって出来ないか?」

「出来るのだわ」


 エルサに聞いたら出来るとの事。

 なので再びイメージ。

 土を動かして異物を排除する……硬い異物……ガラスを排除する……土が意志を持ってガラスを放り出すようなイメージ……。


「グラスエクスクリュージョン」


 俺が思い付いた魔法名を言うと同時、俺達が足ってる地面……いや見渡す限りの地面が脈動し始めた。


「え、ちょっとなんなのこれ?」

「リク、何かしたのか?」


 地震とは違うけど、ゆっくりと揺れる地面の上でバランスを取りながらも二人は急な出来事に戸惑ってるようだ。


「リクの魔法なのだわ。危険は無いのだわ」


 魔法に集中して離せない俺に代わってエルサが答えてくれた。

 その言葉に二人は安心して戸惑う表情は無くなったものの、地面は揺れ続けてるためバランスを取るのに必死なようだ。


「地面が揺れるとこんなに立ってるのが辛いなんて」

「これは良い訓練になりそうだ」


 二人にはしばらくの間バランスを取ってもらっておいて、こちらは土の操作。

 土に疑似的な意志を持つようにイメージしたおかげか、動いてる地面の表面に次々と埋まっていたガラスやガラスの粒が出て来た。

 しかもそこまでするイメージはしていないはずなのに、表面に出たガラスを全て俺達の近くへと集めてくれている。

 集める手間は省けたけど、俺が考えてる以上の効果が出るって成功と思っていいのかちょっと微妙だね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る