第39話 春

 春。

 お花見をしよーって号令をかけたのは私だ。だからこうして星見ヶ丘公園の広場で早朝から場所取りをしてる。今日はマウンテンバイク用のコース解放日だから屋台の準備を始めてる人たちでなんだかざわついてるね。はなさんとネル・ミラクルも焼きそば屋の準備に忙しそうだ。

「ほかに誰がくんの?」

 店長はござの上で寝転がってる。モヒカンが変な感じに折れちゃってるけど言わないでおいた。

「おばあちゃんと、そのご家族すね。あとうちの常連さんとか――」

「うすうす勘づいてたけど、お前あんまり友達いないんじゃねぇの」

「は? 商店街の人だいたい友達なんで? っていうかこれからもっと作ればいいんで! 宇宙規模で!」

「さすが、マイトガール画伯ちゃんはいうことが壮大」

 星見ヶ丘商店街イラストコンクールの結果は、なんと! 特別賞だった! 最優秀賞、金賞、銀賞その次みたいな感じ。それでもほんと上出来だし、アーケードに掲示されたときはすごく嬉しかったけど、それから店長はやたらと画伯ちゃん呼びでからかってくるから大人げなかった。

「UFOの話もう聞いたっすか?」

「なにそれ」

「はなさんとネルが四人乗りの宇宙船タイムマシンを作るから、近いうちに母星に遊びにおいでって。あと未来の地球もめっちゃいい感じらしいんで、観光的な」

「いや、ダメだろ。俺たちが干渉して歴史が変わりでもしたらどうすんだよ」

「そんなしょうもないことをいう男に惚れた覚えはないんで」

「……」

「無視かよ!?」

「いや、見惚れてただけだから」

「それほんとにやめてもらっていいすか、なんかそうやって無視を正当化するのずるいっすよ!」

 やいやい言いあってるうちにみんな集まってきて飲み物とか作り立てのお料理を並べていく。おばあちゃんたちももうすぐ着くみたい。いい感じだね。

 見上げると、桜がもこもこって咲いてて日差しもたっぷりで体がだるーくなってきてすこし眠たいかも。

 今この瞬間がちょっとずつ変化してずっと連続してくれたらいいなって思う。レコードみたく回転しながらすこしずつ進んでいくみたいに、同じ瞬間は二度とないけどいい流れを自分で作っていけたらいいな。あぁー、もしかしてこれがあれかな店長の言ってた、そのうちわかる的なやつだったのかな。やるじゃん。

 その店長はすぐ側で私の推測を打ち消すみたいな呑気な顔であくびをしてた。

「UFOってヘルメットいるんじゃねぇの」

「その髪型で行くつもりなんすか、バカなんすか」

「……」

「だからなんで無視なんすか!」

 だって、ほら、ダイナマイトがなくたって私の胸元はこんなに温かいんだよ。きっとこれはいい予感。明日も明後日もずっと続くいい流れ。私の頭にも水色の何かがそろそろ生えてくるかも。楽しみ。


 (了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

胸中ダイナマイト げえる @gale-chan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ