第38話:おっさんずドリーム

ここはどこだ?辺りはなにもなにもなく、真っ白な光景が広がっている。


それは俺が見ている夢だと気が付くのにそこまで時間はかからなかった。


「上手くやっているようだな」


その声には聞き覚えがあった。振り向くと前に見た時よりもかなりスマートな体形になった妖精の姿がそこにあった。


「お前の言う事を聞いたつもりはないんだがな。お前もだいぶ痩せたみたいだがどうかしたのか?」


「私達の姿は見る人間によって見え方が異なる」


どうやら妖精の姿が変わったのではなく俺の見る目が変わったということらしい。


「今日も時間があまりないんだろ?聞きたいことがいくつかある。お前から話すことがないなら質問をさせてもらう」


妖精は何も答えずにこちらが質問するのを待っている。


「お前は以前も今回も『私達』と言ったな。お前のような存在が複数いると言う事だよな?」


「その通りだ。私達は強い魔法使いの魂から成り立っている。この世界に分散するように存在している」


「何故この力を人に与える?」


「詳しい理由は私達にも解らない。私が妖精として自己存在を認識した時に、世界の均衡を保つためだと聞かされたが」


「聞かされた?誰にだ?」


「それも解らない。だが私達の中でも噂話が存在する。妖精はいずれ精霊となり、精霊はいずれ神になるのだ、と。我々が人を魔法使いにするように我々の上位に存在する者に命を受け妖精へと転生したのではないかと」


「出世したら神になれんのか・・・ホントかよ」


「私達もそれが事実であるのかは解らない。確認する方法が無いからだ」


本当に人々が信仰している神という存在が、魔法使いの魂の成れの果てだというのだろうか?


「まぁ俺は神なんて信じちゃいないからどーでもいいわ。他の魔法使いにはどこまで事情を話してるんだ?」


「魔法の使い方、魔法使いであるという事を一般の人間に知られてはいけないと言う事。基本的にはこの二つしか説明をしない」


「魔法使いになる条件やらなんやら、なぜ俺に話す?」


「君ならば魔法使いたちの均衡を保つことが出来ると判断したからだ。その為に必要になるであろう情報を与えた」


「他人を魔法使いにする力もか?」


「その通りだ。君は魔法に対する適応能力が高い。そしてそれを制御する理性を兼ね備えている」


「随分と買い被られたもんだな。・・・まぁいい、どのみち俺の出す結論は変わらないからな」


そこまで話すと妖精は光の塊へと姿を変える。


「またいずれ会おう」


光の塊は四散し、俺の周囲は黒く染まっていく。

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