第197話 祭りの後

 様々な事情聴取をされ、解放されたのは翌日の昼過ぎだった。


 結局、リンデさんがオースティンの不審な動きを把握しており、その調査もかねて学校祭に姿を現した。そして実際に事件は起こり、俺と共にオースティン・メイアンを捕縛するに至った。というストーリーで丸く収まった。


 実際、リンデさんがオースティンに関して不信感を持っており、魔神信仰の模様を疑ってオースティンを問い詰めようとしていたのは事実だった。


 恐らくリンデさんはこれから俺と共に得た情報をゾディアックの連中と共有し、より具体的な話になっていくのだろう。アビスと魔神信仰……この繋がりはないとは言い切れない。


 むしろ、アビスの台頭が彼らを表舞台に引きずり出したのかもしれない。

 俺の知らないところで、水面下で未だに魔神信仰なんて下らない信仰が続いていたと思うと、俺は俄かには信じられなかった。


 あれが一体どれだけの災害を引き起こしたか……。


 だが、それをゾディアックたちはある程度は理解しているようでもあった。彼らの動向を探り、未然に阻止しようと動いてくれている。千年前の過ちを繰り返さないために。


 

 外は既に後片付けが終わり、いつも通りのロンドール魔術学校に戻っていた。

 結局、殆ど楽しめなかったな。


 外に出る途中に出会ったホムラ先輩は、「どうしたのよ浮かない顔をして。学校祭は来年もあるわ。……まあ私達がパレードにかまけている間にいろいろ大変な思いをしたみたいだけど……。ふふ、無事で良かったわ。ありがとね」と、俺に感謝を述べると去っていた。


 ホムラさんとしても思う所があったのだろう。俺はその感謝を素直に受け取った。

 少なくとも、ホムラさん達上級生や、一般の観客たちが楽しめたなら良しとしようじゃねえか。


 そう思いながら、俺はベンチに腰掛ける。


 今回の件は改めてクロに話を聞く必要があるな。絶対何か知ってるはずだ。伊達に長生きしちゃいないだろ。


 考えることが多すぎる……。ゾディアックに任せていいものか……。

 そろそろ……そろそろ俺が本格的に動き出さないといけないんじゃ――


「あ、こんなところにいた! 探したよギル!」

「おお?」


 と、眉間に皺をよせ考え込んでいた俺の元に、ユフィが駆け寄ってくる。


「あれ、ユフィお前もう帰ったんじゃないのか?」

「ううん。流石にさ……昨日の今日じゃ心配で帰れないよ」

「やっぱり怖かったか……悪いな巻き込んじまって」


 そりゃそうだ。ユフィにとってはあんな経験本来はする必要のなかったことだ。俺のせいで傷をつけられたと言っても過言ではない。


 申し訳なさすぎる。


 しかし、ユフィの返答は違っていた。


「違うよ! ま、まあ少しは怖かったけど……。そうじゃなくて、ギルだよ」

「俺?」

「うん。昨日のギル怖かったし……もしいつものギルに戻ってなかったらどうしようとか、ギルはちゃんと元気にしてるかなとか……いろいろ心配だったの」


 俺は思わずユフィの口からそんな言葉が出てくると思わず、反射的に茶化そうと口を開きかける。が、そう話すユフィの顔が本当に真剣で、心の底から俺を心配してくれていたのが伝わってきて、俺は開けかけた口を閉じる。


「……でも、やっぱりちょっと暗いね」

「……まあさっきまでは多少は暗かったかもな。でも、ユフィのおかげで少しスッキリしたよ」

「本当?」

「ああ、ありがとうな」


 そうだ、俺には……この時代にも守らなくてはならないものがあるんだ。

 それは背中合わせで戦ってきた六英雄の皆とは違う、ユフィや学校の皆や、ついでにリンデさんやユフィの工房の知り合いたちだったり……。とにかく、いつまでも平和を謳歌とか呑気な事言っていられねえかもしれねえな……。


「……どうだった、学校祭は」

「うーん、さいごはあれだったけど……」


 と、ユフィはあははっと苦笑いを浮かべる。


「でも、楽しかったよ。夢に一歩近づけたって感じ」

「そうか」

「うん! 魔道具技師として凄い勉強になったよ。お客さんと接するってのも楽しかったしね。まだ私は店じゃただの見習いだからね……また何かあったら誘ってよ!」


 そう言い、ユフィは満面の笑みを見せる。


 俺に気を使って――と言う訳じゃないな。本気で言ってるみたいだ。やっぱりユフィは素直な奴だ。


「――だな。また頼むぜ。今度はあんな事件起こさせねえからよ」

「うん! そこは任せた! 次もちゃんと私を守ってよ!」

「わかってるよ」


 こうして俺達の学校祭は終わりを告げたのだった。


 事件は結局、非魔術師たちの同時多発的な嫌がらせ程度の認識で終わった。直接オースティン・メイアンの犯行を見たのは俺とリンデ、ユフィ、そして学校長のみだからだ。ゾディアックお決まりの情報操作。臭い物には蓋をしろだ。


 だがそれも限界が近づいている。


 この学校祭で起きた小さな事件は、これから動き出す大きな流れの始まりにすぎないのかもしれないと、俺は僅かに胸騒ぎがした。

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完全無欠の新人魔術生 伝説の最強魔術師、千年後の世界で魔術学校に入学する 五月 蒼 @satuki_mail

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