第196話 キャンサーの嘆き

 学校祭は、無事幕を閉じた。


 ほとんどの参加者たちは何があったかもよく分からないまま、魔神信仰者達の妨害行為は騎士や教師、生徒たちにより無事に鎮圧された。


 首謀者、オースティン・メイアン。

 両腕欠損という大怪我で見つかり、俺とリンデさん、そしてユフィはその場に居合わせたとして騎士団からの事情聴取が行われた。


「結局君という人間は関わらずにはいられないようだね、ギルフォード君」


 茶髪の男は、椅子に腰かけながらそう吐き捨てる。


 その言葉には、どこか苛立たしさを感じる。

 恐らく、以前あった時に俺に警告していた件だろう。にもかかわらず……という訳だ。


「まあまあ、別にギルフォード君も好きで関わってる訳じゃないんスからいいじゃないッスか」


「わかっているさ……。ただ、一学生がやっていい範囲を超えていると思ってね。周りの騎士を……大人を頼るということは君の頭にはないのか?」


 チャラい顔をしたキャンサーとは思えない、いつになく真剣な顔付きで俺にそう語り掛ける。


「俺がたまたま解決するのに最適な立ち位置に居た……ただそれだけっすよ。それに――」


 俺は隣に座りめちゃくちゃ緊張して肩をいからせてるリンデさんの方をチラっと見る。


「今回はリンデさんも居ましたからね」


「お、おおおおいおいおい、少年! どういう状況だ!? 王直属騎士ゾディアックだあ!? 架空の存在じゃないの!? というか、何でそんな親しげ!?」


 リンデさんは小声でそう俺に捲し立てる。


「話せば長くなるというか……まあとにかく、リンデさんも居たんです、問題ないでしょ?」


 キャンサーは手元の資料をペラペラと捲る。


「――リンデ・アーロイ……ロンドール魔術学校を次席で卒業。卒業後は魔術院への推薦を蹴って世界を見る旅へ。その後、道化師と呼ばれ、魔術を使ったショーを各地で精力的に行う……。なるほど、なかなかの経歴の持ち主だ。私も一度見た事があるよ。なかなか非魔術師に寄り添った良いショーだ。独りよがりじゃないところに魅力を感じる」


「ほ、ほう! ゾディアック殿にも私の偉大さが知れ渡っているとは! は、はは、どうだ少年!」


「凄いっすね……」


 次席……一応この人凄い人だったのか。

 まああのサクリファイスは並大抵の魔術師が習得できる代物じゃない。才能と情熱がなきゃ無理だ。


「あなたは何故ここに?」


「え、ええ。学校長のユドモア・マーリン氏に呼ばれてね。是非学校祭でショーをして欲しいと」


「二大ゲスト……オースティン・メイアンとあなたと言う訳か。確かに実力も申し分ない」


 すると、キャンサーは俺の方を改めてみる。


「――だが、はなんだ? 回復術師が絶句していたぞ」


「確かに、あれはねえ……悪いっスけど、なかなかやっちまってるッスよ」


「たとえ腕がもげたとしても、脚がもげたとしても、回復魔術に精通した者であればくっつけて再生することが可能だ。オースティン・メイアンの右腕は再生出来たが……左腕は無理だ。も残さずに粉々にされちゃあ、幾ら高位の回復魔術でも再生は不可能だ」


「すまない……俺もギルフォード君を止めようとはしたんだがね……。レベルが違い過ぎた。あの戦いに僕の入る余地はなかったよ。面目ない。俺の責任だ」


 そう言い、リンデさんは頭を下げる。


「ちょ、リンデさん!?」


 この流れでリンデさんが入る余地のない戦いなんて表現はまずすぎる……!

 下手に俺の力を利用されることだけは……。


「――まったく、人が出来ているな、あなたは。わざわざギルフォード君をそうやって庇ってまで。次席のあなたが介入できない訳がない」


「いや、だから俺は――」


「いいんだ。気持ちはわかっている。幼馴染のユフィちゃんが人質に取られたんだ。ギルフォード君の怒りを抑えられたのに、敢えて好きにさせたんだろう? しょうがないさ、私がその場にいてもギルフォード君を止められたかどうか……私も同じことをしたかもしれない」


 ……何かよくわからないが上手く話がまとまりつつあるな。


「だから、そうじゃ――」


 と、リンデさんが弁明しようとしたところで、俺はリンデさんの脇腹を突く。


「だから言ってるじゃないですか。俺は強さをばらしたくないんスよ! 話し合わせといてくださいよ!」


 俺は小声でリンデさんにそう告げる。


「い、いやでもなあ。俺は不当な評価を受けるつもりは――」


「いいから! お願いします!」


「……はあ、わかったよ。オースティンを止めてくれた礼だ」


 リンデさんはキャンサーに向き直る。


「……まあとにかくそういうことだ。俺はオースティンを止めるため戦ったが……ギルフォード君の怒りに共感してしまってね。そこだけは止められなかった」


「でしょうね。……ただ、あの様子だとオースティン・メイアンは廃人だ。ショックで精神がイカレてしまった。ぼーっと一点だけを見つめているよ」


「「……」」


 キャンサーは大きくため息をつく。


「詳しい事情聴取がこれから始まるだろう。君たち二人にはしばらく付き合ってもらうことになる」


「わかってますよ……」


「ただ。一人の騎士として言っておこう。彼らの行為は非魔術師……一般市民を大いに巻き込む可能性のあったテロ行為だ。それを防いだのは君たちだ。その事実は誇っていい。私からも礼を言っておく。ありがとう」


「そ、そんな、別に俺は……」


「謙遜するな。ただまあ、腕を吹き飛ばすのはやり過ぎだがね。そこは反省したまえ。まだ子供がその領域に足を踏み入れる必要はない」


「は、はあ……」


「ま、君は以前も両腕を半壊させた前科があるからね。あれは威力を加減していたと言う事か……末恐ろしいというか。私は君が正しく成長してくれることを祈るよ。願わくば……私の敵として現れるということだけは辞めて欲しいがね」


「もちろんですよ……」

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