第172話 交代

「だああああ疲れた! もう限界だぜ」


 レンは倒れこむようにしてステージ裏に飛び込んでくる。


「私も大分疲れたかも……」


 ベルもくたくたな様子でフラフラと揺れる。


「お疲れ様、ベルちゃん!」


「あ、ユフィちゃんもお疲れ様……! 助かったよーすぐ直してくれて」


「えへへ、そのためにここに居るからね」


「俺も見直したぜユフィ、いつの間にあんなスムーズに魔道人形修理できるようになったんだよ」


 午前の中盤頃、ベルが操作していた魔道人形の右肩が上がらない不具合が発生し、一瞬場が止まったのだが、ユフィがすぐさまその場で修理して見せたのだ。


 会場からはお~っと歓声があがり、パチパチと拍手が送られていた。


「そりゃちゃんと訓練してきたからね! でも本当役に立てて良かったよ」


「本当助かったぜユフィ」


 俺はポンとユフィの肩を軽く叩く。


 それに反応したユフィはニィっと笑うと同じく俺の肩を叩く。


「おうおう、幼馴染ってのはいいね~通じ合ってるねえ」


「ふふふ、そりゃずっと一緒だったからね」


 と、素直に答えるとはレンも想定していなかったのか、地面に転がりながらきょとんとした顔をして俺たちを見る。


「――はは、いいねえ。なあ、ベル?」


「う、うん」


 ベルは少し俯き気味に返事をする。


 相当疲れたのだろうか。

 そりゃそうだ、魔力をずっと出しっぱなしにしてたんだ。疲れない訳がない。


「さて、そろそろ時間だが――」


「お待たせ!」


 丁度俺が口を開くと同時にドロシー達が元気よく飛び出してくる。


「――って、うわ何!? なんでレンが転がってるの……?」


「これ想像以上に疲れるぜ……気を付けろよドロシー」


「あぁ、そうか。ギルもベルもそこまでヘロヘロじゃないし、あんたが魔力のコントロール下手なだけでしょ」


「うっ、それは否定しきれねえ……」


 若干気まずそうに苦笑いを浮かべるレンをドロシーはバシバシと叩く。


「いてえ!」


「まあまあ、がんばったじゃない。午後からは私達よ、皆休んで」


「あれ、ドロシーなんか機嫌いいね?」


 ベルがドロシーの顔を覗き込みながらそんな言葉を投げかける。


「ふふふ、わかる?」


「そりゃわかるよ、何かあった?」


 するとドロシーはガシっとベルの肩を掴む。


「オースティン・メイアンのショー見ちゃったのよ!」


「わあ! どうだった?」


 ドロシーはムフっと笑みを浮かべる。


「本っっっ当よかったわよ!! あ~さすが有名魔術師って感じだったわ……!」


「えーそうなんだ! 楽しみになってきたなあ」


 オースティン・メイアンか。

 あの本を見た感じそんな凄い奴に感じなかったが……人を乗せるのが上手い魔術師なのかな。


 ――というかドロシーがミーハーなだけな気がしないでもない。


「リンデ・アーロイの方は見なかったのか?」


「リンデ……?」


 ドロシーはきょとんとした顔で俺の方を見る。


 ぼーっと宙を眺めた後、あっと声を上げる。


「あーマジシャンの人?」


「忘れてやるなよ可哀想だろ……で、どうだった?」


「あの人は見てないのよ。オースティン・メイアンで満足しちゃってね。その後他の出し物見に行っちゃったわ」


 俺とベルは顔を見合わせる。


 もしかすると、リンデが心配していた事態になっていそうで、お互いに苦笑いを浮かべる。


「……やっぱ俺たちが見に行ってやらねえと可哀想だな……」


「そ、そうみたいだね……さすがに落ち込んでそうだしね……」


「それより、他の出し物はどうだった?」


「ああ、結構賑わってたわよ。思ってたより色々あったし、結構楽しめるかも」


「へえー楽しみだな」


「まあ例の如くロキは出し物には目もくれずずっと警備してたけどね」


 そう言ってドロシーは溜息をつく。


「協調性無いんだからこんな日まで」


「警備って、そんな騒動みたいになってるのか?」


「うーん、別にそこまで酷くはないんだけどね。あんまり出番ないわよ? ――あぁ、でも何人か不審な一般人はいたわね、私達が抑え込むまでじゃなかったから放っておいたけど」


「まあ祭りだしな、グレた奴もそりゃ来てるか」


「そうそう、それにわざわざ魔術師の学校まできて暴れるバカはいないでしょ。――ただ他の学校も来てるみたいだからそこは気を付けなさいよ」


「他の学校?」


「うん。ノースとかアマルフィスとかの制服ちらほら見かけたわよ」


「ほう……」


 他の学校の魔術師か……少し気になるな。

 ロンドールが名門と呼ばれているのは知っているが、三大魔術学校と呼ばれる残りの二校も興味がある。


 戦闘特化と学問重視……特に戦闘特化のアマルフィスの方がどんなレベルなのかは非常に気になる。


 上手い具合に出会わないものか。


 ――と考えを巡らせていると、ドロシーがジトっとした目でこちらを見る。


「……なんだよ」


「あんたねえ、あわよくば戦おうとか考えないでよね」


 ぬ、鋭い……。


「そ、そんなことする訳ないだろ!」


「顔が怪しいのよねえ……。まあとにかく問題は起こさないでよね、連帯責任になりそうだし」


「へいへい……」


「みんな!」


 その時、ステージの前に出ていたユフィが裏に顔を出す。


「そろそろ午後始まるよ!」


「はーい! ……じゃあ交代ね、ベル。楽しんできて」


「うん! ドロシーも頑張ってね」


「うし、行こうぜ、ベル、レン」


 すると、未だに横たわるレンが唸り声を上げる。


「わ、わりい、もう少し力戻ったらいくわ……先行っててくれ」


「大丈夫か?」


「おう、休んでれば大丈夫だぜ~」


 そう言ってレンは手のひらをヒラヒラとふる。


「そうか。……うし、じゃあ行きますかベル」


「うん! じゃあドロシーもミサキちゃんもロキ君もがんばってね!」


「「はーい!」」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る