第146話 ギルVSリオン
リオンさんはヒューっと口笛を吹く。
「かっこいいねえ。お姉さんをどこまで追いつめられるかな~?」
「追い詰めすぎないようにしないと駄目ですね」
「……生意気だね、君」
リオンさんの顔がわずかに引きつる。
「君の戦いはホムラちゃんから聞いたのと、ベルちゃんと戦ってるのしか見た事ないけど、所詮一年生……」
リオンさんはゆらりと身体を起こす。
目がさっきまでのニコニコとは違う……ブちぎれてる……!
「私のベルちゃんへの愛を邪魔するっていうなら……。私はこんなに可愛がってるのに……!! 許さないわよいくらホムラちゃんのお気に入りでも……!!」
怒りを露わにするリオンさんの背後からは、さっきを上回る数……七本の鎖が同時に出現する。
「あくまでウォーミングアップ……だからね。殺しはしないよ」
そういってリオンさんは笑う。
――が、目は笑ってない!
そのすべてが俺を刺し殺さんと言わんばかりに一斉に俺を向く。
「お手柔らかに」
「余裕たっぷりだね、君……!!」
「お姉ちゃん……!」
それらの鎖すべてが、俺を目掛けて射出される。
この速度……ベルより操作する能力は上か……!
じゃあまあサッと避けて――。
――と次の瞬間、俺は一瞬にしてその鎖の射程距離から距離を取ることに成功する。
俺の居た場所には七本の鎖が次々と突き刺さり、地面がひび割れる。
防護結界に軽々とヒビを入れる威力……さすがに段違いだ。
「なかなか速いじゃない……肉体強化でも使ってる訳?」
「……どうかな。妹しか眼中にないんじゃわかりませんよ」
と強がって見たものの……なんだ今の感覚。
足に力が……。
自分でもよく分からない現象に、俺は少し戸惑う。
それになんだこの――この左眼の熱さは……!
まるで焼けきれそうな程の熱。
しかしそれとは裏腹にいろんなものが良く見える――気がする。
リオンさんの身体の微妙な体重移動。
汗の出方から、わずかな光の加減まで――っとそこで、俺は左目の痛みが極限に達し思わず目を覆う。
「はあ、はあ……何だ今の……」
そのよくわからない感覚は、ほんの一瞬で過ぎ去り、あっという間に俺の手から零れ落ちた。
残ったのは微妙な目の不快感のみ。
「どこ見てるのかなあ!?」
リオンさんは鎖を一本俺の足元に打ち込むと、それを伝って一気に距離を詰める。
今それを考えてる暇はねえか……!
駆け寄りざまにリオンさんが繰り出した鎖の槍とも呼ぶべき攻撃を何とか避ける。
俺の実力をある程度認識してるのか、狙いに容赦がないな……!
バッと顔を上げると、リオンさんはすでに至近距離まで近づいている。
その右手には、自分で出した鎖をぐるぐると拳に巻き付け、思い切り振りかぶっている。
まさかの――全力の右ストレート……!!
武闘派かよ!
俺はそれを掻い潜りざまに下から弾くようにして軽く受け流すと、鎖を逆に引き寄せリオンさんのバランスを崩し、"ブリザード"で一気に足場を凍らせる。
「くっ……魔術の初動が速い……! 見るとの受けるのじゃ違うってわけね……! まだまだ!」
リオンさんの周りの鎖のうちの一つがドリルのように回転し、足元の氷を砕いていく。
「凍らせても私の動きは止められないわよ! 今度はこっちの番!」
リオンさんがクイッと指を振り鎖を操る。
四本の鎖が同時に俺を襲う。
「芸がないな……ッ!」
俺はそのうちの二本を素手で捕まえると、"ブレイク"で破壊する。
パリン! っと爽快な音を立て、鎖はバラバラに砕け散る。
粉々に砕けた鎖は粉状になりサラサラと地面に落ちていく。
「甘いわよッ!」
右側から若干俺の死角ギリギリのラインをカーブを描くようにして二本の鎖が俺を襲う。
――が、同時に俺は後方に魔術の反応があるのを察知する。
これは……ベルが使っていた見えない鎖!
上手いな、死角ギリギリを狙ったと見せかけてそれにあえて気付かせ、油断したところを後ろの見えない鎖で一刺しか。
確かに戦い慣れている。
しかもこの感じ……エレナの"六の型"!
触れるのはマズイ、瞬間的に麻痺させられる!
俺は手でキャッチするのをやめ、魔力を一気に練り込む。
触れられないなら、一気にぶっ壊す。
「――"展開"!」
一気に拡大した俺の破壊領域が、防護結界を張った部屋の地面ごと破壊する。
リオンさんの顔がさすがに歪む。
「読まれた……!? 威力が段違い過ぎる……なによその破壊力……!」
一瞬動揺したリオンさんの隙を俺は見逃さなかった。
刹那、"サンダー"を放ち、リオンさんの動きを止める。
「ぐっ……!」
直撃したリオンさんは痺れ、硬直する。
だが、まだ鎖の防御が生きている。
俺は"ファイア"を地面に向けて放ち、煙幕を張る。
「どこっ……!?」
リオンさんは煙の中で俺を探る
俺には見えてるぜ……その光る鎖が道しるべだ。
俺は一気に距離を詰めると、鎖を掻い潜り、煙の隙間からリオンさんの両方の手首を掴んで地面に押し倒す。
リオンさんは俺に馬乗りされる形で地面に仰向けに倒れる。
はあはあと息を荒げ、目を見開いている。
額に汗で髪が張り付き、激しい動きで顔が紅潮している。
「終わりですかね……ウォーミングアップは」
「はあ、はあ、はあ……そう……みたいね。――降参よ……ちょっと信じらんないんだけど、何それ反則でしょ……仮にも私三校戦メンバーなんだけど」
「ベルの代わりが出来たようで何よりです」
ちょっと大人げなかったかなと思いつつも……。
この程度か、という感想だ。
蓋を開ければ無傷での完封勝利。
普通の魔術師なら初手の鎖の攻撃で致命傷を負っているんだろうが……。
それに、俺の"ブレイク"と物理的な鎖での攻撃魔術は相性が悪すぎる。
ベルの姉ちゃんへの魔術に対する劣等感……それに家族からの期待の差。
実力が離れると難しい――リオンさんの言葉だが、まさにその通りの結果だ。
俺にはベルとリオンさんの差なんて感じられなかった。
リオンさんは諦めたように少し目を瞑ると、そっと横を向く。
そして、少し伏し目がちに言う。
「あの……そんな顔近いと恥ずかしいんだけど……。――あと、手……放して」
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