七章 学校祭 

第149話 プロローグ

 今年もこの季節がやってきた。


 ロンドールの街で、の人々も浮かれる季節。


 例年、ロンドールの街はこの時期が一番の書き入れ時だった。

 新人戦や、入試の時期は魔術師こそ多くこの街を訪れるが、非魔術師にとっては遠い世界の話で、経済的な効果が爆発的にある、という訳でもなかった。


 もちろん、宿や酒場などの一部の例外はあるが。


 逆にこの季節は、そのとある行事を見る人々で溢れかえる。


 彼らは魔術師に成るでもなく、既に魔術師である訳でもなく、その祭りを見るためにロンドールに押し寄せる。


 ロンドール学校祭――。


 それは長い伝統を持った学校であるロンドールだからこそ、その注目度は段違いであった。

 

 魔術を使ったパレードなどの催し物や、飾り付け。

 体験コーナーや、決闘など、毎年さまざまな趣向を凝らした出し物が、ロンドールの生徒たちの主催により開かれる。


 もちろん、それを見に来るのは魔術関係者だけではない。


 むしろこと学校祭においては、非魔術師の割合の方が圧倒的に多いだろう。


 非魔術師にとって、魔術とは現実から離れたところにあるファンタジーな代物で(千年前とは違うのだ)、それを身近に感じられる学校祭はいい機会だった。


 子供はみな魔術師に憧れを抱き、大人は幻想的な魔術に心を癒される。


「それってただの祭りなんじゃ……」


 談話室にて、金髪のロングヘアをした、身体は大人だが心に子供のような悪戯心を秘めた女性、ホムラ・エメリッヒは、懐疑的な視線を向ける今年の新人戦優勝者であり、ホムラのお気に入りであるギルフォード・エウラを前に、やれやれと肩を竦める。


「ただの祭りだからいいんじゃない。魔術師は基本神秘的な存在でしょ? それが間近で一般の人も見ることが出来る……素晴らしい催し物だと思うのよ」


 そう思わない? そうホムラ・エメリッヒは続ける。


 ギルフォード・エウラは、戦いの中で生きてきた男だ。

 いまいち戦闘以外で魔術を使うという事に慣れていないため、ホムラの言葉をすんなりとは受け入れられないでいた。


「毎年、この学校の上級生たちが素晴らしいロンドールの学校祭を開いてきたわ。もちろん、今年も盛大にやるわよ! そのためにはギル君、あなたの力もちゃんと借りるんだからね!」


 そう言って、ホムラはギルフォードの額を指で小突く。


 額を擦りながら、ギルフォードは「まあ」っと言葉を続ける。


「そういうのも……体験したいとは思ってましたから。いい機会かもしれないですね」


 青春を謳歌する。


 そう言って、少し他の生徒とは違う理由でこの名門ロンドール魔術学校に入学したこの少年にとって、学校祭という謎の催し物は、理解の及ばないものではあったが、興味がないということはなかった。


 むしろ、積極的に情報を収集しようとホムラを頼った辺り、新人戦なんかよりずっと興味があると言って良いだろう。


 ホムラはギルフォードのその言葉を聞き、ニヤーっと口角を上げる。


「そうこなくっちゃ!! さあ今年の学校祭も盛り上がっていくわよ!」


 ホムラさんの突き上げる拳に釣られるように、ギルフォードは小さく拳を突き上げた。

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