第137話 一緒なら
予想外の提案に、俺は一瞬戸惑う。
「そんな驚きかな?」
「だって、あんまり帰りたくねえんだろ? そんな感じだったし……」
「うーん……でもまあみんな一緒なら楽しいかもしれないし。その、嫌ならいいけど……」
「いや、俺はむしろ嬉しい限りなんだけど……」
どういうことだろうか。
一人だと色々両親や姉に構われるのが嫌なのだろうか?
まあ家が多少恋しくなるくらいの愛着はあるのだ、完全に嫌いと言う訳でもないのだろう。やはり前から引っ掛かっていたお姉ちゃん関連だろうか。
確かに、友達連れて帰れば、帰ってこいというノルマも達成できるし、長居もしなくて済むか。
――と、そこまで考えたところで、考えを少し改める。
ベルに限ってそんなことがあるのかどうか疑問を感じたのだ。
俺がそもそもひねくれてるからそういう風に考えてしまっているだけで、普通にベルが善意で呼んでくれている可能性の方がある。
俺の言葉に、ベルは両手を合わせ笑みを浮かべる。
「じゃあ、一緒に私のお家に行こう。他にも来たい人いる?」
ドロシーが眉間に皺を寄せ、腕を組みうんうんと唸った末、やっと言葉を発する。
「――ちょっとベルとギルを二人っきりにするのは危なっかしいから……私もついていくわ」
「本当お前俺を何だと思ってんだよ……」
「危険人物だけど?」
「そうですか……」
ったく、相変わらずドロシーの俺への認識はどうなってんだ。
するとレンも声を上げる。
「楽しそうだな! 俺も行くぜ」
「ミサキはどうする?」
するとミサキは遠慮気味に手を左右に振る。
「ごめんねえ、ちょっと私はロンドールで用があって行けないかな……行きたいのはやまやまなんだけどね」
「そっか、残念だけど仕方ないわね」
「じゃあ三人かな? 私連絡しておくね。多分明後日くらいに出発になると思うけど大丈夫? もう休み明けまで時間ないし」
「全然異論ねえよ。お邪魔するのは俺たちだからな」
これで、やっと俺が千年後に目覚めてやりたかったことができる。
エレナの墓参り……これだけは、俺の手でしっかりとやらないといけないと、ずっと思っていた。
それがやっと叶う。
「ギル、頼むからベルの家で無礼な行動は控えてよね。執事を殴るとか」
「だから俺を何だと思ってんだよ!!」
俺は突っ込み疲れてぜえぜえと肩で息をする。
ドロシーはそれを見てジト―っとした目を向けてくる。
こいつ、初めて会ったときから俺の印象変わってないのかおい。
自然とため息が出る。
いつになったらドロシーは俺の印象を変えてくれるのだろうか。
「――まあ冗談は置いておいて」
冗談なのかよ!
こいつ、最初の出会いを逆手にとって弄ってんのか俺を‥‥‥くそ、まんまと踊らされている‥‥‥。
「ベルの家って本当豪邸だから、無礼なことしたらたたき出されるわよ」
「……俺マナーとかあんま知らねえぞ……」
「右に同じだわ……」
ドロシーのデカいため息が聞こえる。
確かにドロシーも名家なのだから、ある程度のマナーは知っているのだろう。
だがそのドロシーが豪邸って言うほどだ、本当にすごい家なのだろう。
「せめて出発までには学んでおかないとだめね」
「そんなことしなくてもいいよ。私の友達なら大目に見てくれるきっと」
「友達は選びなさいとかなったら目も当てられないでしょ! 最低限は必要よ!」
「反論できる余地はねえ……」
こうして俺とレンは、軽く様々なマナーを叩き込まれるのだった。
それにしても、ベルの家か……。
なんか少し緊張するな。
どんな両親なのだろうか。
千年前、俺と最も親しかった女性……それがエレナだ。
本当にいろんなことがあった。
教えられることも、逆に教えることもあった。
共に旅をし、俺が小さい頃から戦場でもそれ以外でもほとんどずっと一緒にいた。
その遠い遠い子孫が今目の前に居て、そしてそれが顔がそっくりってんだから、笑ってしまう。
家族のみんながエレナのような性格や顔な、訳はないし、ベルが特別似ているだけらしいからほかの人はそんな似てはいないんだろうが……。
とりあえず、行ってみてからだな。
明後日が楽しみだ。
◇ ◇ ◇
その翌日、ベルからロア邸訪問の詳細を伝えられた。
出発は明日の朝、九時ごろ。
ベルの家はロンドール近郊にあるようで、ベル家がら馬車で迎えに来るらしい。
なんとも至れり尽くせりだ。
どうやらお姉ちゃんは家にいないらしいということで、ベルの表情は明るかった。
「ちなみに、エレナ……エレナ様の墓って……」
「あぁ、ちゃんとうちの敷地にあるよ。安心して。お願いもしておいたから」
そういってベルははにかむ。
「ありがとう!」
「どういてしまして。本当ギル君はエレナ様が好きだよね。初めて会った時も手を握って……」
とベルはその時のことを自分で思い出し、急に恥ずかしくなったのか顔を赤くする。
「あ、あれは悪かったよ……動揺してたっつうか、田舎から出てきて頭が酔っ払ってたんだよ」
俺は何となくもっともらしいことを言っておく。
もっともらしいか? まあいいや。
「気持ちはわからなくはないよ。でも良かったね、念願なんでしょ?」
「あぁ。ありがとな。本当は家に俺達呼ぶの嫌じゃねえのか? 帰るのも嫌なんじゃ……」
するとベルは少しうつむき気味にうーんっと唸った後、いつも通り優しい笑顔を浮かべる。
「そんなことないよ。みんながいてくれればきっと大丈夫だから。感謝してるのは私の方」
「?」
「どのみち帰らなきゃいけなかったからね……」
――そして、俺たちは翌日、一泊二日のベルの実家への旅に出発したのだった。
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