第97話 親
ヴァルゴは俺達をジロジロと舐めまわすように見る。
その目は何かを疑っているような厳しさがある。
そりゃそうだ、こんな夜に倉庫に用なんて怪しいに決まっている。
くそ、クロのやつ絶対こいつが来るの察知してたよなあ!?
ちらっとクロを見るが、余裕に満ちた表情をしている。
‥‥‥あっそう、あくまで吸血鬼とバレないなら問題ないって訳ね‥‥‥。
まあやましいことは無いしそれで問題ないか。
でもなんでこんなところにゾディアックが‥‥‥奴らの目的は"アビス"の追跡じゃなかったのか?
箝口令を敷いていたのはこいつらの仕業なのか?
吸血鬼関連の事件は全て異形狩りの管轄かと思っていたが‥‥‥。
「あなたたち、何故ここに来たのかしら。一応目的を言ってもらえる?」
するとクロが率先して前に出る。
「いやあ何、たまたま帰り道でここを通っていただけでね。そしたら見かけない騎士が見張りをしていたもんだから、何かあったのかと気になってね。――なんせ私はこの町に暮らしているもんで、何か物騒なことがあったら知っておきたいと思うのは当然だろ?」
よくもまあそんな口から出まかせを‥‥‥。
ヴァルゴは少し怪訝な顔をしながらも、理解を示すような感じで軽くうなずく。
「その気持ちはわかるけれど‥‥‥ここには何もないわよ、あなた達が気にするようなことはね。そっちの君は? 見たところまだ子供のようだけど」
「あーっと俺も――」
すると、ヴァルゴの後ろから割って入る声が。
「彼はロンドール魔術学校の生徒さ、あなたの息子と同じでね。そして、あなた以外のゾディアックメンバーに既に会っているというなかなか珍しい体験をしている子ですよ」
どこかで聞いた声な上に、謎に詳しく俺を知っている。
そう話すのは、後から現れたローブを羽織った2人組のうちの1人だ。
2人は被っていたフードを取る。
金髪で少し幼めな顔立ちをした、お下げの女性と、青い短髪に薄ら笑いを浮かべる爽やか風な男。
男はいつも通りニコニコした様子でピッと片手をあげる。
「やっ、元気そうだね、ギル。それにクローディアさんも、お久しぶり」
「お前‥‥‥‥‥‥サイラス!? なんでこんなところに!?」
サイラス‥‥‥ということはこの2人は異形狩りか!
「酷いな、ギル。新人戦の時に言ったことをもう忘れたのかい?」
「新人戦‥‥‥」
そういえば、カリストで何かしてるとか言ってたっけか‥‥‥それがこの事件の調査だったってことか。
吸血鬼が絡んでいるんだ、当然と言えば当然だが‥‥‥。
でもその時サイラスは「専門家に任せるべきさ。"アビス"にはゾディアック、異形には異形狩り」‥‥‥そう言っていた。つまり、吸血鬼の事件に関してはゾディアックが関わってくるようなことは無いはずなんだ。
何か引っかかる‥‥‥。この事件、やはり"アビス"の連中も一枚噛んでいるのだろうか?
「――そういやカリストで何かしてるって話してたな」
「そういうこと」
すると、サイラスの隣に立つもう1人のフードの女性が声を張る。
「ちょっとサイラスさん!? なんで勝手に一般人に自分の任務教えちゃってるんですか!?」
「まぁまぁ、そう怒るなよリザ。別にいいじゃないか、詳細は言ってなかったんだし。僕の居場所だけさ」
「それでもだめですよ普通は!! もう、上が聞いたら怒りますよ‥‥‥」
「ははは、これくらいは僕なら許してもらえるさ」
「本当勝手なんですから‥‥‥」
リザという女性。結構しっかりした性格みたいだな。
自由なサイラスのお目付け役って感じか。歳はそこそこ若そうだが。
するとヴァルゴが割って入る。
「ちょ、ちょっと待ってサイラス君。私以外のゾディアックに会ったって‥‥‥? この子が?!」
「そうですよ。ロンドールの事件について何か聞いてないですか?」
「じゃあこの子がキャンサーとサジタリウスが言っていた‥‥‥」
ヴァルゴは俺を食い入るように見つめる。
キャンサーとサジタリウス‥‥‥そう言えば新人戦にも来てたな。
あれ、そう言えば新人戦の時何か言ってたような。
‥‥‥そうだ、リーダーの代わりにグリム・リオルの応援に来たって言ってたな。
――あれ、これまずくね? リオルの母親だよなこの人。
案の定、ヴァルゴの顔が徐々に険しくなる。
「ということは君がギルフォード君‥‥‥ウルラクラスで今年新人戦優勝者の‥‥‥」
「そ、そうですけど‥‥‥」
「――そして私の息子を殺そうとした‥‥‥!!」
ヴァルゴが鬼の形相で俺を睨みつける。
ひええこわっ!! 親バカこわ!!
サジタリウスの言ってた通りの親バカだよこの人‥‥‥!
俺は恐る恐る訂正する。
「あのですね、殺そうってのは語弊でしてね、お母さん――」
「語弊って何よ! 両腕をボロボロにされたって報告受けてるのよ!?」
「‥‥‥あ、はい、その節は本当すいません‥‥‥」
するとクロが楽しそうに口を挟む。
「まあまあ、うちのギルに息子が負けたからってそう目くじらを立てなくてもいいじゃないか、ヴァルゴさん。ただ純粋にお宅の息子さんよりうちのギルの方が強かったと言うただそれだけの話でね。怪我なんて子供ならいくらでもするもんさ、成長する過程でね」
そう言ってクロは楽しそうに笑う。
「はぁ?! 何言ってんのこの人‥‥‥!! うちのグリム舐めるんじゃないわよ!!」
ああもうバカだよこの吸血鬼‥‥‥何敢えて怒らせるようなこと言うんだよ‥‥‥。
ちらっとクロの顔を見ると、クロはこれまでにない以上に生き生きとした表情をしている。
めっちゃこの状況を楽しんでるよこいつ‥‥‥もうどうにでもなれ‥‥‥。
すると、サイラスがパンパンと手を叩く。
「まあまあ2人とも、落ち着いて落ち着いて。あはは、まったくどっちも親バカなんだから」
「うう、うるさいわね!」
「あはは、怖い怖い‥‥‥。それより、僕も気になるな。ギルとクローディアさんは何でこんなところへ? 何か用事かい?」
俺とクロは顔を見合わせる。
さてどうしたものか‥‥‥。
下手に誤魔化すより真実を行ったほうが吉か。
サイラスは俺たちのことをある程度知っている。疑いの目が向くことはないだろう。
無難に答えれば問題ないはずだ。もしかすると何か情報を得られるかもしれない‥‥‥これはある意味チャンスだ。
クロも同じ考えのようで、俺に頷くと口を開く。
「サイラスさんが居るのならちょうどいい。実は私はディアナ・シュトロームの古い友人でね‥‥‥。それで久しぶりにカリストに会いに来たら、彼女が死んだと言うじゃないか。あんなにいつも若々しくて死にそうにない人だったのに‥‥‥。それでいろいろ情報を集めると、どうやらこの倉庫近くで死んだと言う話を聞いてね。居てもたってもいられなくて現場を見に来たのさ。――1人じゃ怖いから、私のかわいい護衛を連れてね」
そう言ってクロは俺の頭をぐりぐり撫でる。
「なるほど‥‥‥ディアナ・シュトロームの知り合いでしたか‥‥‥。箝口令をしていたつもりでしたが‥‥‥」
サイラスとヴァルゴは顔を見合わせる。
ヴァルゴは冷静さを取り戻すためか、ごほんと一回咳払いをする。
「あー‥‥‥悪いことは言わないわ、あなた達。友人を失くされたのは残念だけれど、この件には関わらない方がいいわ。これは警告よ」
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