第91話 祝賀会
その日の夜。
ウルラクラスの皆は、盛大に俺の優勝、そしてベルのベスト4進出を祝い、寮で祝賀会を開いてくれた。
もちろんそこには1年生以外にもホムラさんやアレックスさん、ビオさんなど、他にも先輩たちが何人か駆けつけてくれた。
新人戦を通してまた一段と結束は強くなり、ミサキも少しずつ変わって来て、以前にもまして活気が増したウルラクラス1年。ロキは相変わらずだが、レンもベルも、自分のことの様に祝福してくれた。
「いや~俺は信じてたぜ~ギル!! よく俺の仇を取ってくれた!! 祝杯だ!!」
そう言ってレンはドリンク片手に俺と肩を組む。
「うおっ! 騒がしいなお前は相変わらず‥‥‥ま、約束だったからな」
俺はレンと軽く乾杯する。
レンは嬉しそうにはにかむと、グイっと飲み物を一気に飲み干す。
その横で、ドロシーは少し不貞腐れながらむしゃむしゃとサラダを頬張る。
「一応、私もおめでとうと言っておくわ」
「おいおい、ドロシーよぉ、今日くらい素直になったらどうだ~? 俺たちがいくら序盤で負けたからってよお、嬉しいことじゃねえか、仲間が優勝したんだぞ?」
「うるさいわね! いいのよ、ギルは応援してくれる人が沢山いるんだから!! ユフィちゃんとか!! クロさんとか!! 後何故かアングイスのユンフェとか!!」
ドロシーはムキーっとレタスに齧りつく。
「あはは、やきもちだね~ドロシーちゃん」
と、唐突なミサキの突っ込みが入る。
ドロシーも、いつもなら噛みつくところだがその発言者がミサキという事実に一瞬硬直する。
しかし、ドロシーは少し嬉しそうに口角を上げると、すぐにムスッとした顔に戻り口を尖らせる。
「‥‥‥っるさいわね! もう、ミサキもこの男に負けたんだから嫌味の1つくらい言ってもばち当たんないわよ! あなたもベルもギルの犠牲者なんだから!」
「犠牲者っておい‥‥‥」
「そんな、全然私はそんな‥‥‥! 感謝してるくらいだよ」
そう言ってミサキは俺の方をちらっと見る。
「本音を言いなさいよ本音を~! ――はぁ、まあいいわ。とりあえず仕方ないからギルにはおめでとうと言っておくわ」
「おう、ありがとな」
俺のお礼に、ドロシーは何やら気恥ずかしそうに少し視線を逸らし、クリクリと髪をいじる。
「あぁもう調子狂うなぁ‥‥‥さあ行きましょ、ミサキ! あっちでベルと女子会よ、女子会! 語明かすわよ!!」
「あぁちょっと! ドロシーちゃん!」
ドロシーはミサキを引き連れ、やいのやいの言いながら席を離れていく。
俺たちは苦笑いしながらその人攫いを眺める。
「いや~ミサキちゃんも少し変わったなあ」
「そうか?」
「とぼけちゃってまた。‥‥‥まあ、突っ込むのは野暮だな。でも俺もギルと戦いたかったぜ」
「俺たちは同じクラスなんだまた戦う機会もあるだろ?」
「そうだけどよ~、やっぱ新人戦っつう舞台で真剣勝負できるのは1回きりだからな‥‥‥ま、終わっちまったもんはしょうがねえ!! 切り替えていくことにする!」
「レン‥‥‥」
「そうよ、若者たち!! 羅針盤は既に次の目的地を指し示しているわよ!!」
そう言って後ろからホムラさんが俺に抱き着いてくる。
「わっ、ちょっとホムラさん!? 酔っ払いじゃないんですから何やってんですか!」
「あはは~、いいじゃないのいいじゃないの! 無礼講よ、無礼講!」
「無礼講ってそう言うのじゃないと思うんですけど‥‥‥」
「くそ、毎回ギルだけおいしい思いしてるな‥‥‥やっぱり少しドロシーに同情してきたぜ‥‥‥」
ホムラさんは持ってるグラスをグイっと空けると、手で口を拭う。
「プハー! とりあえずギル君! 改めて優勝おめでとう!! 我がウルラクラスの威厳を保ってくれてありがとう!! ついでにサブミッションも達成したようだしね、いやーさすがギル君、私の見込んだ通りね!!」
「はあ‥‥‥まあ、ありがとうございます」
「のり悪いな~! ま、最後は確かに後味悪かったけど‥‥‥私はだからこそ称賛したい!! 良く戦った! 私は感動したよ‥‥‥グスン」
ホムラさんはおよおよと泣きまねをしながら俺に拍手を送る。
「そうだぜ~ギル! あれはいい戦いだった! リオルの奴も俺はちょっと見直しちまったよ」
「2人とも‥‥‥。――まあ、でも俺は実際そこまで気にしてませんけどね。ああいう風になるのは何となく想像できてましたし」
「なかなか図太いわね‥‥‥。まあいいわ、とにかく! 今回の活躍は誰が見ても一目瞭然! 既に動き出してるはずよ」
「動き出してる?」
ホムラは頷く。
「去年、くしくもギル君と同じような形で圧倒的力で優勝を掻っ攫っていった2年カース君も、その年の三校戦で即学校代表デビュー‥‥‥! 学校側もギル君の選考に動き出しているはずよ! リオル君を圧倒するなんて大騒ぎになってるはず」
三校戦‥‥‥春と秋に2回あるっていってたあれか。
「うお~羨ましすぎるぜ、ギル‥‥‥! お、俺は!?」
「レン君は残念ながらないかな~‥‥‥もう少し活躍すれば可能性はあったかもね」
「くそ‥‥‥そうですよね‥‥‥」
レンは本当に悔しそうに拳を握りしめる。
レンはかなりやる気に満ちてたからなあ。
陽気に俺を祝ってくれてはいるが、きっとそれ以上に悔しい思いがあるはずだ。
「他にもベルちゃんとかも可能性としてはあるかもね。優勝候補筆頭を倒してきたミサキちゃんもきっと要チェックされてるはず。いやー今年も我らがウルラクラスは優秀で大変よろしい!!」
ホムラさんは楽しそうに笑う。
「三校戦っすか‥‥‥。なんというかよく知らないんでいまいち想像つかないですよねえ」
「ま、追々わかるわよ。春までは時間があるし焦る必要はないわ。その間にもいろいろイベントは目白押しなんだから、清く正しく学校生活を楽しむことよ! 長期休暇もあるしね」
「長期休暇?」
するとホムラさんとレンはげんなりとした顔で俺を見る。
「イベント事ならまだしも休みの予定も把握してないのね、君は‥‥‥」
「ギルよ、流石に嘘だと言ってくれ‥‥‥」
「あ、いや‥‥‥」
「ま、そういうところもギル君のチャームポイントの1つね。無知も可愛いものよ。これからはじっくりみっちり付きっきりでいろいろ教え込む必要が――」
「俺が悪かったんで許してください!!」
ホムラさんはクスクスと笑う。
「あはは、面白いわね相変わらず。――毎年新人戦が終わったこの時期は一か月くらい長期休暇があるのよ。もう何週間か先だけどね」
「へえ、そうなんですか」
知らなかった‥‥‥。
てことはその間学校に居る意味ねえってことだよな?
どうすっかな。
「今のうちに何するか考えておいた方がいいわよ~、ぼーっとしてたら休暇なんてあっという間に終わっちゃうからね」
「そうですね‥‥‥何か考えておきます」
ホムラさんはウンウンと頷く。
「青春は短いんだからね。――とりあえず、改めておめでとう、ギル君!! じゃあ私はベルちゃんも祝ってくるから、またね!」
そう言ってホムラさんは颯爽とその場を後にする。
「相変わらず騒がしい人だな、ホムラさんは。ギルは大分気に入られてるみたいだし」
「そうだな‥‥‥。まあでもいい先輩だよ。ウルラのことを考えてるし‥‥‥いややっぱ自分が楽しむことを考えてるだけかも‥‥‥」
「かっかっか! それはその通りかもな! まあ、ああいう人が1人居ると退屈しなくて済むだろ」
「それは言えてる」
相変わらず、ホムラさんは何を考えているか分からず、そしていつも楽しそうだ。
「おいギル! こっちこいよ、肉だぞ肉!!」
「お前もどこでも楽しそうだなあまったく。――今行くよ」
そんなこんなで、俺たちは新人戦で上がりきったテンションが冷めないまま、祝賀会を夜通し楽しんだ。
やっぱり、皆んなに祝われるのは悪くねえもんだな。
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