第67話 昼休憩

「ただいまを持ちまして、1日目前半を終了致します! 午後の試合再開まで今しばらくお待ちください」


 アナウンスが流れると、会場がざわざわとざわめき出す。

 座って観戦していた人たちが立ち上がり、それぞれ自由に動き出す。


 午前の部が終了し、昼休憩の時間だ。


 俺たちはウルラの寮へと戻ることに。

 ウルラの先輩達は、2回戦進出おめでとう! と会うたびに声を掛けてくれた。



 レンは肉を頬張りながら口を開く。


「本当ベルちゃん強すぎるよ。びっくりしたぜ」


「そ、そんなことないよ‥‥‥」

 

 観客席に戻ってきたベルは、さっきまで下のフィールドで薄ら笑いを浮かべて意気揚々と戦っていたエレナの生き写しのうような少女ではなく、元の自信の無い女の子に戻っていた。


 この変わりっぷりも何度見ても凄いな。


「まあベルちゃんもドロシーちゃんも凄かったんだが、それよりも――おいおいおい! ギル!」


 レンがグイっと俺に肩を組む。


「ぐえっ」


「何だよさっきのよ~! 初めて見たぞお前が魔術使うの!」


「やっぱり魔術使ってたのね。‥‥‥正直私あんまり良く分からなかったわ‥‥‥」


 ドロシーが軽くため息をつく。


「そ、そりゃ使ってないからな今まで。‥‥‥つうか放せ、暑い!」


 俺は無理やりレンの拘束から抜け出す。


「そうだけどよ~まさか優勝候補を完封するような魔術を繰り出すとは思わねえだろ! あれどんな魔術なんだ? 正直俺も細かくはわかんなかったんだよ」


 くそ、めんどくせえな‥‥‥!


「誰が言うかよ! あんま大っぴらにしたくねえんだよあれは」


「水くせえな~! 俺より先に目立ちやがって! 頑なに最後まで汎用魔術は使わなかったしよ~、何か目的でもあったのか? どういう心境の変化だ?」


 まあそこは気になるよな‥‥‥。

 今まで使うことはおろか、使えることすら言わなかったわけだし。あの事件の時も使わなかった。


 さっきの戦いでもいくらでも他の魔術で戦うこともできた。それでもミサキに俺の覚悟を伝えるためには俺が本気だという事を見せる必要があったから、特異魔術だけで戦ったわけだが‥‥‥。


 下手にミサキを刺激したくないしこの理由は言いたくはねえけど‥‥‥。


 と、俺の気持ちを察したのかミサキが割って入る。


「あはは、まあまあレン君。私達だって今後戦うかもしれないんだし、どんな魔術か聞くのはアンフェアでしょ? そりゃみんなわざわざ自分から自分の魔術をふれてまわらないわよ」


「ぐぬ‥‥‥まあミサキちゃんの言う通りだが‥‥‥あーこりゃギルも予想以上に強敵だぜ~。まさかギルが最初の2回戦進出者になるとはなあ。ベルちゃんは予想通りだが、ギルは予想外だぜ」


「おいおいなんだよ、あれだけ決勝で会おうとか言ってたくせに信じてなかったのか?」


 するとレンはどんどんと俺の背中を叩いて笑う。


「かっかっか、冗談だよ冗談、もちろん信じてたさ。‥‥‥だが、あの戦い‥‥‥正直俺はお前の力を見誤ってたと思ったぜ。もちろん俺はお前と試験で一緒だった時からある程度は目をつけていた訳だが‥‥‥今やお前の底が見えん。なあドロシー」


 ドロシーはツーンとした顔で食事を口に運ぶ。


「ふん、特異魔術がなによ! 1回戦くらい勝ってもらわなきゃ困るのよ! ‥‥‥ま、まあ実力がどうあれ、ギルが1回戦突破出来たことはウルラとしては喜ばしいことだけどね」


「まったく、素直じゃないねえ~。――ドロシーちゃんもシード1回戦勝ち上がったし、ベルちゃんもあっさり1回戦突破‥‥‥こりゃウルラの時代が来たって感じだな」


「とりあえず現時点でベスト8確定したのが俺とベル、ドロシーはもう1回勝てば確定か」


「本当羨ましいわ、あんたたちは1回戦って今日は終わりなんだから。私なんてまた次も試合があるのよ? はぁ、億劫だわ」


「くじ運がなかったとしか言えねえな‥‥‥まあ頑張れよ、応援してるぜ」


「わ、わかってるわよ! 念のため私のことは応援しときなさい!」


「あはは、その意気だぜ」


 もうこの時点で大分大番狂わせが起こっている。

 ドロシーの相手も決して格下じゃなかった。むしろ格上まであった。本当よく戦ったと思うぜ。


 レンじゃねえが、面白くなってきたじゃねえか。


「羨ましいな~。私と変わってよギル君」


 ミサキが意地悪そうな顔で俺を見る。

 どの口が言ってやがるまったく。


「やだよ。ミサキにも期待してるぜ」


 ミサキは俺の目を見る。

 あれは、覚悟を持ってくれた‥‥‥と言っていいんだろうか。

 俺は約束を守ったぜ? 次はお前の番だミサキ。


「そうそう、やっぱ自分で戦ってドーンと目立って前評判を覆してやらねえとなあ。俺は負ける気はサラサラねえぜ?」


 レンの顔が、いつになく真剣だ。

 レンの相手はリオル‥‥‥お世辞にも絶対勝てるとは言える相手ではない。

 何か作戦があるみたいだったが‥‥‥どうなることやら。


 だが不思議とレンの表情は明るい。本当に何か活路を見出しているのかもしれない。


「それはそうと、俺たちは何となくギルならやってくれるかなと思ってたけどよ、他のクラスにしたら晴天の霹靂だよなあ、ユンフェがギルに負けるなんて」


「それはそうね。観客もいまいち盛り上がりに欠けてたし‥‥‥いっそあんたが負けた方が盛り上がったんじゃないの?」


「相変わらず手厳しいなドロシー‥‥‥。別に勝ったんだからいいじゃねえかよ観客が盛り上がろうがどうしようがよ」


「まあ優勝候補だった訳だからな、ユンフェちゃんは。それを倒したギルの評価は今頃再考されてるんじゃねえか? まさに俺たちが妄想してた通りの展開になりつつあるな~今大会のダークホースだぜギルはよお」


「そうね。今頃ユンフェが負けたって事実で右往左往してるでしょうね。‥‥‥私達ウルラが全員ベスト8に残ろうものなら快挙よ快挙」


 レンがニヤリと笑う。


「目指そうぜ、その状況を‥‥‥! 優勝候補の一角は落としたんだ、見えるぜ、全員が驚く顔がよ~!」


 その言葉に、ミサキは苦笑いする。


「そ、それは厳しいんじゃないかなあ‥‥‥さすがに」


「何言ってんだよミサキちゃん、ミサキちゃんも頼むぜ~! 次リュークの野郎だろ? ミサキちゃんならいける! 俺たちを煽った張本人をぶっ飛ばしてくれ」


「あはは‥‥‥善処はするよ」




 そんなこんなで昼の休みはあっという間に終わろうとしてた。


 午後の最初の試合はいきなり我らがロキの試合だ。

 あいつは応援なんかされたくないだろうが‥‥‥せっかくだ、しっかり応援してやろう。


 めっちゃ恥ずかしがれ!!


 午前までで確定したベスト8は、俺、アングイスのリリエール・エンジェル、そしてベル。

 リリエールってのは多分ユンフェと話してたリリちゃんって呼ばれてたやつだよな。


 まさかあのユンフェの脅しから立て直して勝ちを収めるとはな‥‥‥。


 そして、午後の目玉は何といっても最後の試合‥‥‥ミサキVSリューク。

 頼むぜミサキ‥‥‥俺は約束を守ったぞ。


 この会場で、真剣にぶつかり合おうぜ。

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