第56話 全員倒すだけだ

 ミサキは筒を拾い上げる。


 カラス同様この筒にもロンドールの校章が金色に印字されている。


「いい、開けるよ?」


 ミサキが俺たちに確認を取る。


「頼むぜ‥‥‥!」


「いいから早く開けろ」


「本当あんたはすぐそういう言い方するんだから」


「ドロシーちゃんオカンっぽくなってきたな‥‥‥」


「う、五月蠅いわね! さっさと開けるわよ!」


 もはやウルラ1年の名物だな。

 ロキがぶっきら棒なことを言ってドロシーがうんざり苦言を呈する。


「それじゃあ開けるよ」


 ミサキが筒を開くと中から一枚の巻かれた紙が。

 それをゆっくりと開いていくと、そこにはトーナメント表が書かれていた。


 左と右の二つの山があり、それぞれのトップが優勝を争う形のようだ。


「見せてくれ!」


 皆が食い入るようにトーナメント表を見る。

 新人戦の命運が決まる組み合わせ‥‥‥!


 俺も皆に続いてトーナメント表を眺める。


「結構私達は散らばったわね」


 ミサキ、ベル、俺が左の山、ロキ、レン、ドロシーが右の山だ。

 良かった、ミサキとの闘いは決勝でという最悪の展開だけは避けられたみたいだ。


 18名からなる若干変則的なトーナメントは、基本的には1勝でベスト8、2勝でベスト4、3勝で決勝、そして4回勝利すれば優勝となる。ただし、4名だけが逆シードの様で他より1戦多く戦うことになっているみたいだ。 


 パッと見た感じどうやら1回戦は同じクラスとの戦闘は避けられているみたいだな。

 前評判の高い実力者もある程度散らばっている‥‥‥完全にただのランダムって訳でもなさそうだ。


 ただ、ミサキと戦うにはお互い1勝する必要がある。それもさっき優勝者候補に挙げられていたアングイスのユンフェ‥‥‥!! 


 きっついな‥‥‥。ミサキの相手は順調にいけばあの煽り野郎、リュークだし‥‥‥。お互い優勝候補を倒さないと戦えないか。


 ミサキをチラッと見ると、ミサキも同様の感想を抱いたのか若干顔を引きつらせている。


 本来の前評判通りなら、この組み合わせだとリュークとユンフェの準々決勝となるんだろうが‥‥‥。


 ――仕方ない、番狂わせを起こすしかねえ。


 するとレンが楽しそうに笑っている。


「おいどうしたレン――って、お前1回戦リオルかよ」


「そうみてえだぜ~? いきなり大本命と戦えるとかラッキーだよなあ!?」


 どうやら絶望とかを感じている訳では全くないようだ。めっちゃ悪そうな顔してる。

 ここで勝てば一気に優勝まで行ける! とか考えてそうだなあ。

 レンらしいと言うかなんというか。


「――というか、ドロシーちゃん逆シードかよ!! きっついな」


「別に私は気にしてないわ。――しかも私の1回戦の相手……このカエラ・ホーキンスって、きっとリュークの後ろにいた女よね」


 ドロシーは自分の1回戦の書かれている場所を指さす。

 ドロシー・ゴート、カエラ・ホーキンス‥‥‥。


「おいおい、大分敵視してんなあ」


「あんた達は男だからわかんないだけよ、あの感じは絶対こっちを舐め腐ってたわ。絶対こいつには負けない。そして2回戦も勝って、この山は私が制する。ロキ、レン、準決勝で会いましょう」


 ドロシーは不敵に笑う。

 完全にやる気だ‥‥‥。


「ふん、どうせ全員倒すんだ、誰が相手だろうが関係ない。――だが、レンが準決勝にくることはないだろう。何故ならその前に俺がいるからな」


 ロキはそう言い残すと、一足先に部屋へと去っていく。


「おいおい、言ってくれるねえ~」


 レンも闘志メラメラだ。


 ロキは1回戦からさっき名前の挙がっていたダイス・アイアン‥‥‥2回戦はリオルかレン‥‥‥。

 一番厳しい山かもしれない。それでもあの強気の発言ができるのはそうやって自分を追い込んでいるんだろうか。


「本当強気ねあのバカは」


「お前も似たようなもんだろ‥‥‥」


「う、うるさいわね!」


「でもあいつの言う通りだな。たまには正論言いやがる――いや、俺が準決勝に行かないってのはとんだ見当違いだが‥‥‥。誰が相手でも倒すだけよ」


「そ、そうだね、がんばろう‥‥‥あはは‥‥‥はぁ」


 ベルは小さくガッツポーズをとる。


 ポーズと表情があってない‥‥‥。

 ベルは完全にプレッシャーで青い顔しているが、まあ闘いが始まれば一気に集中するだろうし大丈夫だろ。

 そこはエレナ譲りの鋼の心臓だ。


 組み合わせに不満もあるだろうが、トーナメント表をみて皆やる気を上げたようだ。

 結局、ここに居るのは自分の魔術に自信があるやつだけなんだ。本番が楽しみだぜ、自分の闘いも、こいつらの闘いも。


 するとレンが俺に声を掛ける。


「良かったなあ、相棒」


「ん? 何がだよ」


「組み合わせみたろ? ギルは左の山。俺は右の山。俺たちが戦うのは決勝戦だぜ」


 そう言ってレンはニヤリと口角を上げる。

 こいつ、微塵も自分の負けを考えてねえな。


 ――まぁそうだよな。初めから諦める奴なんている訳がない。それこそ前評判何て関係ないっていったのは俺自身だ。レンなら、何かやってくれそうだ。


「‥‥‥そうだな、俺たちで決勝戦を戦おうぜ」


「おぉ!? ギルにしてはやる気だな~!」


「まあ、今回ばかりはな」


 ミサキの為にも、あいつを完膚なきまでに倒すと決めた。

 それはつまり、俺の今まで抑えていた魔術を開放することになる。


 それで誰にでも勝てるという訳ではないが、今までとは全く違ったものになるのは間違いない。


「――はっ、なんか知らねえけど良かったぜ~! 俺はお前はやるやつだと思ってたよ、試験の時からな。そうと決まれば俺も負けてらんねえな~。リオルに関しては手の内はわかってるからなあ、明日から特訓や! 今日は明日に向けて寝る! それじゃあな!」


「あ、私もそろそろ寝ようかな。作戦練らないと」


 そう言ってレンに続き、他の皆もぞろぞろと部屋へと帰っていく。


 俺は1人残された部屋で改めてトーナメント表を見る。

 2回戦でミサキと‥‥‥か。


「やあやあギル君、あのあと進展があったみたいだね」


 そう言ってホムラさんが俺に近寄る。

 進展‥‥‥ミサキのことか。


「狙い通りでしょ?」


「とんでもない! 私は所詮見てるだけしか出来ない人間だよ。君たちが‥‥‥というか君が何かしてくれるんじゃないかという期待を込めてちょっと場所と機会を提供してるだけだよ」


 そう言ってホムラさんははにかむ。

 怖い怖い。


 ――でも、事実何かをしようと思ったのは俺自身だ。決してホムラさんに誘導されたからじゃない。


「ま、本番期待しててくださいよ。ウルラクラスが大躍進しちゃうかもな~‥‥‥――ミサキも含めてね」


「ふふふ、もちろん期待しているとも! 私が長であるうちは、どんな大会でもウルラが最強でないといけないからねえ! 頼んだよ。それに君は私のお気に入りだからねえ。面白い試合が見れるのを期待しているよ」


 やってやるさ。

 ミサキの殻を破るのも、俺自身が魔術を開放するのも。


 この新人戦が、俺にとっての本当のスタートだ。

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