第55話 前評判が知りたいっす
夜――。
俺たち一年は散々上級生にがんばれよともてはやされ、くたくたのまま夜を迎えた。
とりあえず、トーナメントの組み合わせは今夜くるということで、一年だけ残って暖炉の前で集まっていた。
「実際よ~、誰が強いんだろうなあ」
レンがぼそりと呟く。
「新人戦がそれを決めるための大会だろ?」
「まあそうだけどよ~、他のクラスって見た事ないだろ? 気にならねえか?」
するとミサキが言う。
「確かにねえ。魔術の闘いって本当に相性とか運も絡むし、一概に誰が最強っていうのは決められないと思うんだけど‥‥‥基礎的な力を見て誰がどれだけ強いかとか、特異魔術自体がどれだけ戦闘に特化したものかでも変わってくるからねえ。興味がなくはないわね」
「それはそうだけど、うちに特異魔術を見られるような授業なんて無いんだから、特異魔術云々なんて考えても無駄じゃない。よく分からない前評判に戦う前から踊らされるくらいなら、自分の努力だけを信じて本番を迎える方が有意義よ」
「相変わらずドロシーちゃんは考え方がしっかりしてるねえ。羨ましい」
まあドロシーの言い分も一理ある。
出たとこ勝負に慣れている俺はどちらかというとそっちの方がしっくりくるしな。
この時代はまたちょっと違う価値観があるから少数派みたいだが。
「ギルはどう思うよ? やっぱ誰がどういう評価受けてるか気になるよなあ?」
「あー俺は興味ないなあ。ドロシーと同じ意見だよ。それに前評判なんて勝負の場じゃ当てにならねえぜ? 実際に戦ってみないとさ」
「な、なによ別に意見合わせてくれなくてもいいわよ。‥‥‥まああんたも同じで困ることはないけど‥‥‥」
「なんだよ~ギル、お前もいい子ちゃんかよ? ――あ~つまんねえな~! トーナメントの組み合わせ来るまで暇だろう? そういう周りがどう見てるかってのを知るのも面白そうだろ? ――特に、前評判の高い優勝候補を倒す展開なんてそそるだろ?」
レンの顔が悪い顔になる。
なるほど、それが狙いか‥‥‥。
まあインパクトインパクト五月蠅いレンらしいと言えばらしいか。
「ようはダークホースになりたいわけか。まあそう言う意味じゃ誰が下馬評が高いのかは知っておくのも面白そうだな」
「だよなあ! あぁ~誰か情報持ってねえのかよ~」
「呼んだかしら~?」
と、ソファの裏から急ににょきっと人影が現れる。
「「きゃあああ!!」」
ドロシーとベルは叫び声を上げる。
幽霊――ではなく、姿を現したのはホムラさんとビオさんだ。
「うわっ、びっくりした‥‥‥ホムラさんいるなら言ってくださいよ‥‥‥」
「本当ですよ~、まじでびっくりしましたよ俺たち」
「あはは、ごめんごめん。君たちの悩める疑問に答えようと思って隠れていたのだよ」
「隠れる意味あるんですかそれ‥‥‥」
「まあまあ。はいちょっと開けてねえ~」
そう言ってホムラさんはぐいぐいとレンを押しのけると、俺の横にビオさんと一緒に座る。
「狭いんですけど‥‥‥」
「まあまあ! 君たち噂話してたよね! やっぱり気になるよね、みんなの評判!」
「! もちろんですよ~! なあみんな!」
「私はそうでもないけど‥‥‥」
「わ、私も‥‥‥なんか怖いしそういうの知っちゃうと‥‥‥」
案外乗り気ではない面々。
「ま、まあとにかく! そんな悩める君たちに、噂好きのビオちゃんを連れてきたよ!」
「どうもどうも! 新入生の情報もしっかり持ってきてるよ!」
そう言いながら、ビオさんは眼鏡をかちゃりと上げ直すと、メモを取り出す。
「何か知りたいことある?」
「前評判! 前評判が知りたいっす! 誰が優勝すると思ってる人が多いんですか?!」
レンはぐいぐいと前に出る。
「そうだね~‥‥‥。一番人気はやっぱりコルニクスのリオル君だねえ、実力も申し分ないし。他にはベルちゃんも良く名前が挙がるね」
「えぇ‥‥‥あまり注目されたくないのに‥‥‥」
ベルは悲しそうな顔でドロシーにもたれ掛かる。
「それ一体誰に聞いてるんですか‥‥‥」
「ふふふ、秘密。まあ関係者とかいろいろよね。ざっくり優勝候補は四人! ウルラからはベルちゃん。コルニクスからリオル君、リューク君。アングイスからユンフェちゃん。ここら辺は鉄板だねえ、入学前から名前が知れてる組ね」
まあ誰の血筋だとかどうとかである程度評価を決める傾向にある魔術師の世界だからなあ。
知名度が高いほど注目されるのは当然か。
まあもちろん実力があるからこそ家の名前に価値があるというのは間違ってはいないんだが。
「――でそれ以外で言うと‥‥‥アングイスだとダイス君も要注目だねえ‥‥‥ロキ君の名前を挙げる人もちらほらいるよ」
「ふん‥‥‥前評判など下らん」
とは言いつつ、名前が上がったとたん少し発言するあたりやっぱり少し嬉しかったりするんだろうか。
「まあねえ。結局本番でどうなるかだからね。でも名前が挙がるってことはこれまでの実力を認められているってことでもあるんだから十分価値のあることよ。――まあ、本番前に全然力を出してない人だっているかもしれないけどね」
そう言ってホムラさんは俺とミサキをチラッと見る。
ミサキは少し苦い顔をしながらも無理やり笑顔を作る。
それにしても、俺たちを煽りに来ていたリューク‥‥‥あいつは口だけって訳じゃなかったのか。
一応名前が知れてる訳ね。
「結構今年は各クラス、力関係がバランス取れてるのよ、去年と違ってね。私たちの時はカース君が圧倒的だったから‥‥‥」
ビオさんは今にも崩れ去りそうな程悲し気な表情を浮かべる。
そんなに強いのか、二年のカース‥‥‥。破壊神だったか?
「ホムラさんも言ってましたねそう言えば」
「そうそう。でも今年は、うちならレン君やドロシーちゃんみたいに名前が上がらなくても十分渡り合える力を持った魔術師がいるし、いい戦いになると思うわよ。ま、前評判なんて周囲の人間が盛り上がるために勝手に評価してるだけなんだから、本人たちが気にしてもしょうがないんだけどねえ」
するとドロシーがそれに激しく同意する。
「そうよ! こんな情報で左右されるようじゃ魔術師として駄目よ。それに戦いがすべてじゃないんだから」
「その通り! 魔術師とは探求者! 戦いがすべてではない! ――だが、私がクラス長である限り、どんな些細な大会でもウルラから優勝者を出すことは決定事項なのだ!! だから、頼むよ君たち」
そう言ってホムラさんは俺たちにウィンクする。
でた、強制力を持った魔術、ウィンク。――ただし男子に限る。
案の定、レンはやる気に満ちている。
「任せてくださいよ~! 俺たちが見事その名前の挙がってる奴らをぶっ倒して、ダークホースとして優勝しますから!」
「期待してるぞ、少年たち!」
――と、その時、一匹のカラスが寮に入ってくる。
カラスはバサバサと室内を旋回し、筒のような物を落としていく。
「ロンドールの紋章を付けた使いガラス‥‥‥!」
「来たわね‥‥‥組み合わせが!!」
18人総当たりの新人戦。
負けたら敗退の一発勝負。
果たしてどういう組み合わせになっているのか。
――とりあえず、俺とミサキが決勝にならないと当たらないなんて言う組み合わせだけは頼むから避けてくれ‥‥‥!!
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