第46話 事件の後

 ロンドール魔術学校の襲撃事件……。


 犯人はキース・クリフト。私的に学校に恨みのあった容疑者は校内に魔獣を放ち、図書館を焼き払った。犠牲者はなく、自責の念に駆られた容疑者は図書館にて自死――。


 それが騎士団が発表した事件の全容だった。


 校内のほとんどのものがそんなものを信じてはおらず、キース先生の死をただ嘆いた。


「私たちだけが真相をしっているというのも酷なものよね。いっそのことすべて教えてあげたいわ」


「……キース先生って結構好かれてたんだよな」


「え?」


 些細なキース先生の異変に気付くほど、生徒から愛されていた先生の死――。

 それも自死という惨い真相。


 本当のところは『アビス』の連中……おそらくはあの女――エリー・ドルドリスの手による殺人なのだろう。

 何の根拠もありはしないが。


 『アビス』の存在を一般に知らせるわけにはいかないという配慮はわからないではないが――。


「学校の地下にある禁書を盗み出すために、利用されて殺された……どっちの方がキース先生の名誉は守られるのかな」


「そんなの、後者に決まってるでしょ。自死なんて……」


「そうかもな……。俺はもう二度と会いたくねえよ、あんなやつらとは」


「私もよ。……でももし、次会うことがあるとすれば、私は絶対今より強くならなきゃ」


 ドロシーの決意は固い。

 あの魔力探知を自分のものにしたんだ、彼女ならやってのけるだろう。


 アビス……キース先生の件もあるが、もっと気になるのは魔神……。


 俺たちが死ぬ思いで倒したあの最強最悪の存在を再び信仰しようとしているのなら、絶対に止める。止めなくてはならない。


 千年前、俺と仲間たちが繋いだ思いは絶対に途切れさせない。


 確かにエリー・ドルドリスは実行犯ではあったが、奴以外にリーダーは確実にいる。

 そいつが俺を知っているのか……あるいは死霊魔術師や魔獣を呼んだ奴が知っているのか、それは定かではないが、アビスはそれだけ豊富な人材を集めているというのは脅威だ。


 もしまた俺が会う時があれば、その時はーー。


 今日は三校戦に行っていた先輩たちが帰ってくる日だ。


 きっと昨日の事件はじきに風化し、三校戦の話題で持ちきりになるだろう。

 今はその方がいい。


 今回の事件が俺達に与えた影響は大きい。

 千年もたてば、人々の恐怖や悲劇は忘れられるのかもしれない。


 歴史は繰り返す。

 なんどもこの言葉を歴史の中で聞いてきた。それはもう、これが真理だからと割り切るしかないのかもしれない。

 だが繰り返すのだとしても、今回は違う。何故なら、俺もまた繰り返しているからだ。


 それでも俺は、この第二の生を謳歌してみせよう。

 エレナやクロが願ってくれたように。


 まだ俺の学生生活は始まったばかりだ。

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