第37話 騒ぎ

「さあさあ騒いでくれ! 今夜は無礼講だ!!」


 レンは大量に買い込んだジュースやお菓子を振るいまい、上機嫌で踊っている。


 寮一階の応接間に集まり、テーブルを囲む。


 上級生がいない寮はいつもに増して静かだ。


「無礼講ったってよう‥‥‥いつものメンバーじゃねえか」


 俺にレン、それにミサキとベルとドロシー。


 ただのウルラ1年生組だ。相変わらずロキはいないけど。


「これじゃあいつもと変わらないわね」


 ドロシーは用意されたお菓子を摘まみながらレンを見る。


「せめてほかのクラスとか呼べなかったのかよ」


 レンははあっと溜息をつく。


「それがよう、他のクラスは他のクラスで楽しむっつって全然相手にされなかったんだよ」


「きっとお前の日頃の行いが悪いせいだな。お前についていくとろくなことがないと思われてるんだよ」


「それは言えてるわね」


「てめえらなあ‥‥‥」


 と、ベルが俺たちの間に入る。


「ま、まあまあ。楽しくやりましょうよ。誰もいない訳だし。レン君も頑張ってくれたんですよ!」


「ベルぅ~! いい奴だなあお前は! ほれ、くえくえ!」


 レンはベルにどさっと大量のお菓子を渡す。

 ベルは苦笑いをしながら受け取る。


「ま、それもそうね! いいじゃん、いつも通りのウルラ1年組で! もっと親睦を深めるにはいい機会よ」


 ミサキはそう言いながらジュースを美味しそうに飲み干す。

 そしてプハーっと一息。


「ま、そういうことよ!」


「わかってるよ、期待してるぜ」


 ま、結局のところ俺たちの仲が固まってきているのもレンによるところが大きい。

 こいつのコミュ強の部分は見習うべきところがあるのも事実だ。


 なんかいじり易くてつい強めに言ってしまうが‥‥‥。


「ところでロキ君はどこ行ったのかな?」


「さぁ……外に出て行ったのは知ってるけど場所まではわからんな」


「ほんとあいつ協調性ないし自分勝手で嫌いだわ! 放っておきなさいよあんなやつ」


 いや、お前もなかなか自分勝手だと思うぞドロシー……。


「まぁまぁ、まだ始まったばかりだしそのうち打ち解けるだろ」


「そうそう! あいつも実は可愛いところあるかもしれねえだろ~?」


 俺はぼんやりとロキを想像する。

 可愛いところ……可愛いところ……。


「ないわね」


「ないな」


「まあ無いわな‥‥‥。一人で出てったし何かしてるんだろ。俺たちは俺たちで楽しもうぜ~」


「いや、ちょっと私探してくるよ! ぼっちはかわいそうだし!」


 そう言ってミサキが走って外へ飛び出していく。


「あら……行っちゃった」


「呼びに来られてウザがるのはロキだろうなあ……てか自分でぼっちだと思ってないだろロキは」


「まあミサキらしいなあ! 学級委員長タイプというか……。俺たちが4年になったらクラス長はあいつかもな」


「十分にあり得るな」


◇ ◇ ◇


「――つう訳で、俺は結構独学なんよねえ」


「それで独学はヤバイわね……ギルもそうだけど。私とベルは幼少期からみっちりシゴかれてきたからねえ」


「2人はいつから知り合いなんだ?」


 ドロシーとベルは2人顔を見合わせていつだっけと声を揃える。


「確かお母さん同士がロンドールの先輩後輩の関係なのよね」


「そうそう」


「へー縁があるなあ。……そういえば、ベル前に姉ちゃんがこの学校にいるとか言ってなかったか?」


「へえ! それまたすごいな、姉妹揃ってロンドールか!」


 レンの盛り上がりと裏腹に、ベルは渋い顔をする。

 そう言えば前、姉ちゃんがすべてを持っていった見たいなこと言ってたような‥‥‥まずったか?


「いる……にはいるよ。仲は悪いけど……。ホムラさんと一緒に並んでたよ」


「つーことはベルの姉ちゃんも代表魔術師かあ、すげえな。じゃあよ、その姉ちゃんは――」


 と、レンが話を広げようとした時、不意にドロシーが立ち上がる。


「あのっ!!」


「ん……?」


「えっと……」


 ドロシーはまるで何を言おうとしたのか度忘れしたみたいにキョロキョロと視線を泳がす。


「どうしたんよ、ドロシー」


「そ、そういえばミサキ遅いわね。何やってるのかしら」


 言われてみれば確かに遅い。


 ロキを探しに行ってからかれこれ1時間近く経とうとしている。

 何やってんだ……?


「そんなロキ探しに血眼にならなくてもいいのに、見つからねえのか?」


「どうやろなあ。ミサキは一度決めたら曲げないからなあ、見つけるまで戻らなそうだぞ」


 うーん……ロキなんかに……と言っちゃ悪いが自分から参加しないと言ったロキを探して結局自分が参加出来ないなんて本末転倒だぞ。


「じゃあちょっと俺が――」


 とその時、激しい爆発音が鳴り響く。


「?!」


「んだよ一体!?」


「爆発だ……!!」


 何だ今の……魔術……か?!

 でも何でこんな夜中に。


「どっかのアホが練習でもしてるんじゃないの?」


「ああ、ありえる。上級生もいなくてはめを外せるか――」


 ドゴーーン!!


 さらに爆発音は続く。

 しかも、さっきよりかなり大きい。


「何だよ………なんか起こってるのか……?」


「ちょっと見てくる!」


 俺は勢いよく寮を飛び出す。


「ちょ……待ちなさい! 私もいくわよ!!」


 俺に続き他のみんなも寮を飛び出す。

 なんだ‥‥‥校内だよな‥‥‥これ。


「おい……あれ……」


 レンが遠くの方を指差す。


 黒い煙と定期的に発光する夜空‥‥‥魔術の反応だ。

 しかもよく目を凝らすと何かが飛んでるようにも見える。


「なんかやばい感じかこれ?!」


「何かが起きてるのは間違いないみたいだな……」


 とりあえずあそこに行ってみるしかねえ。

 もし何か事件でも起きてるなら俺が行かねえと!


 おれは勢いよく駆け出す。

 こんな生徒も先生も少ない日を狙って騒動……嫌な予感がする……!


「おいギル! 待てよ!!」


「私も行くって言ってるでしょうが!」


 ドロシーは半ギレで俺に張り合うように走り出す。


「危ないかもしれねえから待ってろよ!」


「舐められたもんだなあ……! 俺たちで学校の頂点取るんだろうが!」


「私を置いてくとかあり得ないから!」


「も、もちろん私も行くよ!」


 くそ、時間がない‥‥‥!

 説得する時間がもったいねえ!


 つーかこいつらも一応エリート魔術師だしな、心配ないか‥‥‥特にベルが。


「――さっさと行くぞ! 何かあっても無理はするなよ!!」

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