「術の応酬戦と超能力同士の死闘」(前編)


 故ハーベスタン王国に二人の魔人族が襲来した。一人は巨漢の魔人ネルギガルド。

 そしてもう一人が、



 「ふぅ、災害レベルの同胞を倒せる鬼がこんなにも。ネルギガルドの方にも数人いるみたいね。道理でSランクが3体しかいない遊軍が滅んだわけだわ」


 魔人族序列3位の褐色肌セミショートの女性、ベロニカである。彼女の背後には災害レベルのモンストールがいくつも待機している。その勢力は五日前に現れた時以上に強いレベルになっている。数は今回のが少ないが強さは圧倒的に今が上である。


 「前回は返り討ちにあったみたいだけど、私が来た以上は鬼族も今度こそ終わることになるわ。奇跡は二度も起こらない」

 「あの時の戦いは奇跡は起こらなかったし、それでも難無く勝利したわ!そして今回も結果は同じ。お前たちは無惨に負けてここで終わる!里を滅ぼした根源がこうして来てくれたし、私たち鬼族にとってむしろ幸運ね。魔人族、お前をここで討ち滅ぼすわ...!」


 ピンクの長髪の女鬼...センが敵意を剥きだしてベロニカにそう宣言する。


 「そう、強気ね。どうでもいいけど。私はただ魔人族の新たな長による命令のままにここを滅ぼすだけだから―――やりなさい」


 ベロニカの号令を聞いたモンストールの群れが進撃を開始する。センの妹で同じ色の髪をしているガーデルが拳を構えて幻術をかける態勢に入る。

 だがその前に、


 “死霊操術ネクロマンシー


 「「「「「――――ッヅ......!?!?」」」」」


 全てのモンストールの動きがピタリと止まりセンたちへの進撃を中止した。次いで全モンストールがベロニカに向き直って敵意を向ける。


 「全員、私のコントロール下に置きました...!」


 黒のセミロングの少女、米田小夜による死霊魔術でモンストールを全て彼女の操り人形に変えた。


 「あの災害レベルを...しかも10数体全部も!凄いわねサヤ!」


 小夜と同じ黒髪の鬼...ルマンドが感嘆の声を出す。


 「この魔石による強化で魔術の質をさらに上げました。長くは持ちませんがしばらくはモンストール全てが私たち側になります」

 「何て頼りになる魔術なの!これで戦況は私たちに傾いたわね。ありがとうサヤちゃん!!」


 背後からセンが小夜の頭を撫でる。その感触がかつての美羽を思い出し、小夜は少し頬を赤らめて微笑んだ。


 「同胞を操る魔術...。ジースからそれをやってのける人族がいると聞いてたけど、よりによってその小娘がそうだったなんて、ついてないわね...」


 手駒であったはずのモンストールが敵に回ったことに、ベロニカは嘆息しながら状況を把握する。早々に孤立した彼女には焦燥感が一切無かった。


 「あなたたちを正気に戻す...なんて情けはかけないわ。敵に回ったのなら、遠慮なく力を発揮して巻き込んで殺しても構わないわよね?

 だから何もかも壊すことにするわ―――」


 “限定進化”


 ベロニカの髪が伸び、身長も少し伸びる。姿は進化前とあまり変わっていないが、彼女の戦気と魔力の質が数倍も上昇した。


 「なんて戦気...!魔力も、凄いわね...。これが序列上位の魔人族...」

 

 途方もない戦力にセンは思わずそう呟く。


 「今さら私との戦力差を理解したのかしら、愚かね。

 ところで、私はもう攻撃を始めているのだけれど?」


 「「「「......!?」」」」


 気付いた時には全員既にベロニカの「幻術」の中にいた。

 対象と目を合わせずとも幻術に嵌められるベロニカの幻術は、進化したことでその質はさらに上がる。彼女の幻術にかかった相手は為す術無し。完全に隙を晒すことになりあとは術者の思うがままである。


 「こちらの手駒を奪おうと意味なんて無いのよ。私とあなたたちにはそれだけの戦力差があるのだから。じゃあ...後は潰してお終いに――」


 「「「幻術解除!!」」」


 ベロニカが魔術を放とうとしたその時、小夜とセンとガーデルがベロニカの幻術を打ち破って解いてみせた。


 「な...っ!?」


 自分の幻術が破られたことに驚きの反応をするベロニカ。小夜たちに精神汚染された様子はない。全員正常でいる。


 「残念だったわね。幻術が使える私たちが幻術の対策を怠ってるわけないじゃない」

 「あんたがどれだけ強い幻術を使おうが、私たちがいる限りは幻術は通用しない!」 

 「センとガーデルはともかく、サヤちゃんにも幻術の耐性があったんだね」

 「は、はい!私だけの、特殊技能だそうです」




ヨネダサヤ 18才 人族 レベル80

職業 呪術師

体力 5000

攻撃 300

防御 6000

魔力 6300

魔防 6000

速さ 2000

固有技能 全言語翻訳可能 危機感知 気配遮断 魔力防障壁 暗黒魔法レベル7 炎熱魔法レベル6 幻術レベル3 召喚魔術 死霊魔術 限定強化




 小夜もセン姉妹程ではないが幻術の心得がある為、ベロニカの幻術を防ぐことができる。さらに固有技能もベロニカと似た要素がある為色々対策が講じられる可能性がある。皇雅たちが小夜をこちらに送った理由はここにあった。


 「まずは幻術潰し成功...ね。まぁ相手にも私たちの幻術は通用しないだろうけど」

 「問題無いわ。私たちには武術という武器がまだあるでしょ。それよりも、サヤちゃん、お願い」

 「はい!攻撃させます...!」


 センの指示に従い小夜はモンストールたちを動かす。うさぎの耳を生やした狼の化け物が前足の爪をベロニカに振り下ろす。

 しかしその攻撃はガキンと音を立てて止められる。


 「え......あれは!?」


 操られたモンストールと瓜二つの化け物によって止められていた。


 「私の“召喚術は災害レベルの同胞や魔獣をいくらでも創り出すことができるわ。だから手駒をいくら寝返らせようが意味なんて無いのよっ」


 ベロニカの召喚魔獣がモンストールを苛烈に攻めていく。戦力は召喚魔獣がやや上回っているといったところだ。その間にベロニカはさらに魔獣を召喚して新たな駒を創り出す。操られたモンストールとほぼ同数の魔獣が戦場に現れる。


 「同胞たちの相手は駒たちに任せるとして、後は私が直接あなたたちを消してあげる」


 モンストールと魔獣が激突する中ベロニカが両手に魔力を込めながら小夜たちに近づく。そして、彼女たちの戦いが始まった...!


 「魔力多光線」

 

 ベロニカが両手から炎、水、嵐、雷電、暗黒といった多くの属性の魔力光線をいくつも放つ。


 「魔力多光線」


 が、ベロニカが光線を放ったと同時にルマンドも同じ技を放っていた。ベロニカと同じくいくつもの属性の魔力光線をたくさん放ち相手の技を相殺する。


 「進化した私の魔力光線を...。あなたが、高い魔力を宿している鬼...神鬼種のようね?それに私と似た特殊技能も持っているのもあなたね?鬼族の中にこんなに高い魔力を持ってるのがいたなんて...危険ね、ここで確実に消しましょう」


 ルマンドを注視しながらベロニカは続いて魔法をいくつも放つ。


 “暗き雷光”

 “黒き厄水”

 “魔刃烈風まじんれっぷう


 どの魔法にも暗黒属性を複合させて放たれた魔法は強力だ。ベロニカもヴェルドと同じ暗黒属性に非常に適応している。

 

 “雷迸る閃光ライトピアス

 “流氷瀑布りゅうひょうばくふ

 “螺旋炎嵐砲トルネードフレイム


 対するルマンドも「限定進化」を発動してより強力な魔法を放って対抗する。その間にセンとガーデルがベロニカの横に回り込んで拳闘術を放つ。


 (一気に終わらせる――!)

 「「羅刹撃」」


 左右同時から放たれる武撃は、


 「「っ!?体が...!」」


 ベロニカの体に触れる寸前で止められ、二人は突然宙に浮かび上がる。その直後二人とも勢いよく地面に叩きつけられた。


 「「がは...っ」」

 「幻術、召喚術、魔法...それだけが私の武器ではないわ。それらはむしろ児戯みたいなもの。私の真の武器は、この“超能力サイコキネシス”にある...!」


 そう宣言するベロニカの体からは今までと違う色の魔力が漲っている。まるで激しい嵐が起こっているかのような荒々しい魔力は、彼女の髪を逆立たせてさらに威圧感を増幅させる。


 「魔人族の魔力の質がまた上がった...!超能力?それってもしかしてルマンドと似た...」

 「...みたいだね。三人とも、ここは尚更私が出る番よ。援護をお願い、くれぐれもあの超能力には気を付けて...くらいしか言えないけど、行きましょう!!」


 ルマンドの言葉に全員が頷く。そしてルマンドとベロニカによる特殊能力の応戦が始まった。

 

 “神通力” “超能力”


 互いの力がぶつかった瞬間、大気が震え地面に皹が入り、魔力でできた巨大渦が発生した。


 「きゃあ!?」

 「なんて超高密度の魔力...!あそこに入ったら一瞬でバラバラになりそう」

 「ルマンドは本気ね。けどルマンドの本気の神通力に拮抗しているあの魔人族の超能力も常軌を逸している...」

 

 三人が力の余波に踏ん張って耐える中、上空に跳びあがった二人がさらに力をぶつけ合う。

 魔力の波動が、兵器と化した砂粒の嵐が、雷のように迸る念力が、広範囲にわたってぶつかり合う。何度か力を互いに使って両方ともに距離を取る。


 「......まさか、私の“超能力”にここまで食い下がるなんて。いえ......神鬼種のみが発現すると言われる“神通力”こそが、世界でいちばん強い超能力だったわね。特殊技能の質としてはあなたの方が上だと、認めるわ。

 だけど―――」

 「――――っ......!!」

 「能力値の差で私が上だということを教えてあげる」

 

 ベロニカの力に対抗するルマンドだが、わずかに押され、負傷していく。同時にかなり疲弊していった。


 「はぁ...はぁ...!」

 「ふふっ。その力は相当魔力を消費するようね。私もそうだけど対策はある程度しているわ。このまま長期戦に持ち込めば...あなたは勝手に滅んでくれるかしら...

 まぁその前に私の圧倒的力で消してあげるけど!」


 “滅念めつねん


 再び上空へ上がったベロニカが下方へ魔力で練り上げた重力の塊を放つ。ルマンドはどうにか念力でそれを止めるが、不利に変わりはない。このままではベロニカの言う通り消耗し切って自滅してしまう。


 “篠嵐しのあらし

 “剛蹴突ごうしゅうとつ


 再びセン姉妹がベロニカに奇襲を仕掛ける。先程と同じように念力で対処しようとするが、


 「「波っっ!!」」


 二人の裂帛の武撃で念力を吹き飛ばした。そしてそのままベロニカに災害レベルの敵を屠る拳と蹴りを放つ――


 超能力“念武装ねんぶそう


 彼女たちの武撃を、念力で強化された肉体で放たれた拳止めてみせた。


 「まさか、超能力で武術まで...!?」

 「何も魔術ばかりじゃないわ。こうして己の肉体の活性化にも使える。物理面でもそこそこ戦える私には武術の経験もあるから、肉弾戦もできるわよ」

 

 そして姉妹相手に何度も互角に打ち合う。超能力で肉体をより強化している分、威力がベロニカの方が少し上だった。が、武術の腕は姉妹が上であり二人ともベロニカにある程度攻撃を入れることに成功する。


 「ふ......やはり近接戦はあなたたちの方が上手ね。能力値が上でも技術では及ばないか...。なら、近接戦はもう終わりにさせてもらうわ」


 “魔波動まはどう


 「「きゃ......っ!!」」


 「瞬神速」で後方へ跳んだベロニカが再び遠距離型の超能力で反撃する。モロにくらった二人は内臓に大ダメージを負って墜落する。


 「さて...あなたたちを完全に消すとしましょうか」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る