「鬼に軍略」(前編)


 オリバー大陸にかつて繁栄していた人族の大国、ハーベスタン王国。しかしその国は半年前に災害レベルのモンストールの群れによって滅ぼされてしまい今や跡地となっている。

 ではそこは無法地帯なのか?否。一応この領域には集落規模の組織が形成されている。 ハーベスタン王国が滅んでから数日後に、絶滅寸前のオルゴ族たちがここを鬼族の仮の里として、今も彼らが住んでいる。ここには彼ら以外にも何人かの人族も住んでいる。全員元はハーベスタンの民だった者たちだ。

 そして鬼族たちが今住んでいる屋敷は、この国の軍略家だった女性、カミラ・グレッドのものでもある。彼女本人も含め、鬼族たちはここで僅かに残った人族たちと共存している。

 カミラと鬼族たち、そして日本というこの世界とは別のところからやってきた人族...だったゾンビ、甲斐田皇雅は、ここでしばらく生活を営んでいた。

 ここで生活を送り始めてから半年後、この地に敵が侵攻してくることが明らかになったところから、このストーリーは始まる――





アレン視点


 魔人族勢力と人族連合国軍が戦争をするという情報がカミラから聞いた私たちは彼女から詳しい事とこれから予想される事について説明を受ける。全てを聞き終えてから私たちはどう動くかについて話し合うことにしたけど、そこにコウガがびっくりする提案をした。

 なんとコウガ一人で第三勢力として戦争に乱入するということだった。

 コウガは自分の復讐の為に戦へ行くと主張し、私的な戦いになるということで一人で行くとのこと。それでも私が一緒に行くと言ってもその意思は変えなかった。



 (これから起こる戦争は、人族と魔人族との争いになる。お前らには、無関係な争いだ。だけど魔人族はそうは思ってはいない。人族だけじゃない、この世界そのものを潰す気でいる。つまり魔族の国もターゲットに入れているはずだ)

 (だから今回は、俺一人と鬼族全員で分かれて戦争に介入する。アレンたちは、この国を守れ。今度は、全員団結してあいつらを返り討ちにしてやれ。復讐、してやれ...!)


 

 コウガは私と仲間たちに、この地を守るとともに侵攻してくるモンストールどもに返り討ちという名の復讐をしてやれと言った。それが私たちが今回できるすべき事であると教えてくれた。

 だから私たちはコウガの提案に素直に従った。無事に帰って来る約束を条件に...!


 (カミラはアレンたちの頭脳となってくれ。お前の戦略・知恵があればどんな状況にも対応できる。今度は頼もし過ぎる仲間がいっぱいいるからな)

 

 カミラもここに残ることになり、私たち鬼族戦士たちのブレーンを務めてくれた。敵の行動を予測して最適な迎撃を指示する役目を担うとのこと。半年前この国の軍と戦った時に、カミラの軍略能力を十分思い知ってるので頼もしいと思える。


 (鬼族のお前らにとってはこれは防衛線であるとともに復讐にもなる!数年前にあいつらの襲撃で仲間と里を滅ぼされたというデカ過ぎる因縁があるはずだ!お前らにまだその恨みや憎しみがあるってんならそれら全部これから襲ってくるだろう化け物どもにぶつけろ!復讐してやれ!全員協力して向かえば化け物だけなら余裕だ!!

 俺も、お前らの為に魔人族どもとも戦う。ここにあいつらを向かわせやしねー。

 だから俺が帰ってきた時、俺が体伸ばして寝られるところがあるようにしててくれよ!)


 コウガが最後に皆に激励の言葉を送って皆を奮い立たせた。この半年間で皆もコウガのことを信頼するようになってるから彼の言葉を疑う者はいない。


 こうしてカミラを加えた私たち鬼族は、やがて来るだろう化け物たち(魔物・モンストール)を迎撃・復讐すべく戦準備を始めた――



 防衛戦に出陣する主な戦士は、まず私アレン。当然である。今の鬼族の中では私が一番能力値が高く戦闘経験も多い。私の戦場での立ち位置は、前衛に組まれた。近接戦に特化していて、純粋に戦力が高いということから。


 「先鋒...ってところね。アレンも私も適任だと思うわ。一緒に敵を屠りましょうね!」


 私と同じく前衛に組まれたのは、鬼人種で灰色の長髪で高身長の大人ボディな女性、スーロン。私と同じ位置だということで嬉しそうだ。彼女も私と同じ武術をメインとした近接戦特化の戦士ということで、私と組むことに。



 「私も先陣切ってドーンって戦うの得意だから適任だね!よろしくね二人とも!!」


 もう一人前衛に組まれた戦士は吸血鬼種の薄いピンク髪の小柄少女、ソーン。彼女は戦士最年少ながらも戦闘の才能は私と変わらないレベルで実際に強い。吸血鬼ながら鬼族トップクラスの武術使いで攻撃力も高い。


 「今回の防衛戦では、3人の物理的高火力で口火を切ってもらいます。半年間鍛え上げた武の全てを敵に全力でぶつけて下さい」


 そう頼んでくるカミラに私たちは任せてと力強く返事してあげる。



 「次に中衛ですが、幅広い戦闘法が可能なお二人...ギルスさん、キシリトさんよろしくお願いします!」

 「よし、任せろ」

 「アレンたちの取りこぼした敵の処理は俺らがきっちりやってやるからな」


 私たちの後ろに位置するのは二人とも吸血鬼で、銀髪の少年がギルス、薄いピンク髪の青年がキシリト。キシリトはソーンの兄でもある。



 「ちょっとー!私たちがヘマをするようなこと言わないでよー!敵なんて全部3人で返り討ちにするんだから!取りこぼしなんてしないわよっ」


 キシリトの発言にソーンがややムキになってつっかかる。


 「ま、主にお前が取りこぼしそうだけどな。安心しろ、兄の俺がきちんとサポートしてやるからさ」

 「いぃ~~っ!兄ちゃんよりも絶対活躍してやるんだから!半年間でさらに強くなった私が、また私たちの居場所を滅ぼそうとしているモンストールどもをぶっ殺すんだから!私と、皆で!!」

 

 ふんすとイキリたって宣言するソーンをキシリトと、スーロンも苦笑して見守る。



 「ソーンの成長度は俺がいちばん分かってる。魔人族以外の敵ならあいつはもう心配無いくらいに強いってこと、分かってる。昔と違って一人で突っ込むなんてことは無くなったとはいえ、あいつは妹だからな、今でも気にかけてしまうんだ」

 「ふふ、分かるわ。私も妹がいる身だし。大人になるまでは下の子にはつい守ってあげなきゃって思ってしまうものよね。特に妹は」


 キシリトの呟きにピンク髪の堕鬼インプ種の女性...センが同意するように応じる。彼女の妹...ガーデルも同じく戦士でありやや未熟なところがあるから、キシリトの言葉にとても共感している。



 「気にかけて良いよ。妹を守ろうって気持ち、いつまでも持っていたら良いと思う」

 「ああ...ありがとうな」


 「ギルス!あんたよりも絶対に活躍してみせるんだから!あんたに出番回らないようにしてあげるわっ」

 「ったく、変なところで張り合おうとするなっての。お前ら3人で全部返り討ちできるレベルじゃねーだろ、今回は」



 センとキシリトが兄妹トークをしている傍らで、ソーンが今度は彼女がライバル視しているギルスにも突っかかっている。対するギルスは平熱運転で適当にあしらう。


 「ギルスの言う通りよ。もちろん私たちが主だって敵をたくさん討つけど、無理し過ぎることもないわ。ギルスもキシリトも、さらに後衛担当する3人もいるんだから、皆にも頼るべきよ」


 スーロンがソーンを宥めながら後衛にあたる戦士三人を見やる。

 一人はさっきキシリトと話していた、私にとっては姉の存在、セン。二人目は彼女の妹、ガーデル。私にとって可愛い妹的存在!

 そして三人目はコウガと同じ色の黒髪で、金角鬼種の次に珍しい神鬼かみき種の少女、ルマンド。


 「ルマンド、今日は調子大丈夫?」

 「うん。今日は...存分に私の“神通力じんつうりき”を発揮するね。今日はすごく、力が出せる日だから」


 ルマンドに調子を尋ねると彼女は可憐な笑顔でそう答える。彼女が持つ特殊技能は、思い切り発揮できる日があればあまり振るわない日もある。前者はそれはもの凄くて、私より強くなったりもする。けど後者は本当に力が発揮できない。最近は調子が良い日が続いていて、今日も問題無さそうだ。

 とはいえ彼女の「神通力」は魔力と体力に負荷がかなりかかるものだから、なるべく彼女が力を使用しないで良いよう私たちが奮戦しなければ。


 「セン、ガーデル。私の合図で“幻術”や遠距離魔法の使用をお願いします。敵の動きに合わせてお二人の魔法で撃ち落としていきます。そしてルマンドさんにも適所で“神通力”を使ってもらいます」


 カミラの指示に3人とも素直に従う。


 「後はこの私カミラが、私にしかないこの軍略スキルで皆さんを精一杯サポートして戦場をコントロールして、絶対の勝利へ導きます!武力の無い私に皆さんの力を!皆さんの里となるこの故国を守って下さい!!」


 カミラの言葉に私たち鬼族全員が賛同して応える。仲間たちがいる。カミラの軍略もある。

 絶対に勝つ気しかしない...!!




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