98話「鬼族vs百獣王」


 戦いの合図は一切無し。キシリトが私が吹っ飛ばしたガンツに向かって、漆黒の魔力光線を放った。

 モニターは全て破壊されて、部屋が炎につつまれる。さらに炎熱魔法も放って辺り一面火の海にした。


 その炎に貯蔵庫にあった鬼族たちの遺体を、私は次々投げ入れていった。


 「仇は絶対に取るから。みんなの苦しみや無念全て引き受けるから。恨み全部、晴らしてあげるから…!」


 燃えて行く仲間たちの遺体を見つめたまま、そう誓った。そんな短い黙とうを済ませると、アレンたちはすぐに動いた。俺も動こう。

 まずはこの部屋を完全に破壊して、あらゆる物を破壊しまくってやった。

 俺はカミラを背負って一足先に地上へ戻った。その先には獣人の大群が待ち構えていた。

 カミラに「魔力防障壁」を施してここにいるよう命じておく。これで彼女への危険は問題無いだろう。思い切り暴れられる...!


 先程アレンに頼まれたことを思い出す。今から彼女たちだけで、獣人王ガンツと戦うことになっている。

 奴は強い、とても。アレン一人ではキツイくらいに。

 だから今回はスーロンたちも加わって全員で奴を潰すそうだ。その間、他の獣戦士と相手するのはキツイだそうで、俺の出番となった。

 邪魔な戦士どもを片っ端から消して欲しいとのこと。ま、これくらい安いものだ。アレンたちには十分に復讐に集中してほしい。

 もちろんこいつらも復讐対象なのだろうが、さすがに分が悪いと感じたのだろう、全てへの復讐は諦めたようだ。仕方ないがそれが賢明で効率的だろう。


 アレンに頼られた俺は、殺る気満々だぜ!!それに、俺としても、こいつらを殺すことで、レベルアップするかもしれないから、winwin関係だ!


 「お前...!戦気が感知できない妙な人族だな。そんなことより!人族のお前がなぜ鬼族の味方をする!?魔族間の問題に人族が首を突っ込むのは禁忌とされていることは知っているはずだろう!?」

 

 虎戦士が俺に威嚇しながら言葉をぶつけてくる。俺はお構いなしに答える。


 「簡単だ。アレンは俺の大切な仲間。そんな彼女を害したテメーらは敵だ。だから協力するし、テメーらを殺しもする。あと、人族とか魔族とか、そんなもん知るかボケ」


 不遜な態度、自分らを殺すと聞いた獣どもは殺気立って武器を構える。多数の殺気をぶつけられるが全く動じない。アレンのと比べればゴミカスレベルだ。


 「人族一人に、この人数と戦うなど愚か極まり!!死ねぇ!!」


 大声出して大勢の獣どもが押し寄せてきた。さて...遊ぼうか




アレン視点


 「あー痛ぇ。せっかくの貴重な食肉もダメにしやがってよぉ...。

 仕方ない、お前らを代わりとしてやろう。丁寧に殺して、食糧としてくれるわ!」


 魔法の炎で部屋が燃え盛る中、先程ぶっ飛ばしたクズ...獣人族の王ガンツが、怒気を孕んだ声を上げて立ち上がる。

 加減無しで殴ったのだけど、ダメージ負った様子はそんなに見られない。獣人族は魔族の中でいちばん打たれ強くタフだと聞いたことがある。半端な攻撃では殺せない。常に全力で行かなければならない。


 それに...これ以上あの下衆でクズで最低な獣の顔など見たくない。早くあの目障りな顔を吹き飛ばして消してやりたい。

 私は今、家族が殺されたあの時と同じくらいの怒りを殺意を、憎しみを抱いている。それらを糧に今から奴と戦って、痛めつけて苦しめて葬ってやる!


 「雷電鎧」で以前よりさらに色が濃くなった雷を全身に纏い、力を漲らせる。両隣にスーロンとソーン、後ろにキシリトという布陣を組む。近接戦特化の3人と魔法攻撃メインのキシリトを後方という基本的な戦闘陣形だ。


 「金色の、雷...こんなに濃いオーラを見るのは初めてだ」


 後ろからキシリトの驚きの声がしたので自分の体を見る。確かに金色の雷が見える。以前は黄色だったのがいつの間にか今の色に変わっていた。今の色の方が、力が凄く湧いてくる。悪くない感じだ。


 「3人で別方向から叩く、キシリトは隙を見て魔法を撃って。4人なら殺せる、絶対に!行こうアレン!!」


 スーロンが素早く指示を出して力強く私に声をかけた。それに応じると私たちは一斉にガンツに攻めかかつた。

 それをみたガンツはフンと鼻を鳴らしたかと思うと、即座に「咆哮」を放ち、私たちの動きを縛った。


 が、最初はそれを使ってくるだろうと予測していた私は、ガンツの「咆哮」に合わせて、私も「咆哮」で応戦した。辺りに二つの大音量の怒声が響いた。

 勝ったのは私の方、音波をくらったガンツは拘束状態になった。

 「咆哮返し」咄嗟の行動だったけど上手くいった。動けないガンツを、3方向から全力の一撃を叩き込む。


 私が―


 「戟閃げきせん!」


 雷纏った貫手を後ろからうなじ部分を狙い撃ちし―


 スーロンが―


 「砕撃!」


 「剛力」によって強化された掌底突きを横腹に叩き込み―


 ソーンが―


 「瞬突!」


 「金剛力」と「神速」を掛け合わせた高火力高速の拳打を顔面にぶつけた。


 全員鬼族拳闘術を心得ていて、強力な一撃を的確に急所にぶつけることに成功。全てモロにくらったガンツは、苦悶の表情を見せてイレギュラーバウンドしながらキシリトの方へ吹っ飛んだ。

 それを好機と見たキシリトが、暗黒魔法を唱え、巨大な鬼の口腔を出現させてガンツを嚙み砕いた。


 「ぐぎゃあああああああ!!」


 断末魔の叫び声を上げるもキシリトは攻撃の手を緩めるどころか、さらに顎を閉じる力を強めた。ミシミシと音を立ててやがて骨が砕ける音もした。

 このままいけば全身の骨を潰せる、そう思っていたが簡単にはいかないようだ。


 「これで、終わると思うなあああああああ!!!」


 怒り状態になったガンツが、怪力を発揮して鬼の口を破って脱出した。全身に血を流しているものの、弱っている様子はみられない。


 「タフだなアイツ...全力で嚙み砕こうとしたのに途中で牙が止まった...」

 「私たちの一撃にも耐えきったみたいだし、さっきよりも強い攻撃を何発も入れないと死なないかも」


 キシリトの呟きにスーロンが同意しながら攻略法を言ってみる。その通りで、単純に超高火力を一斉に何度もぶつけないと殺しきれないかもしれない。


 「お前ら下等鬼どものヘボ攻撃でくたばる俺じゃねーぞ!獣人一強靭な肉体と強大な生命力を持つ俺に、死など縁遠いものだ!!徐々にこっちが追い詰めて殺してくれる、わぁ!」


 ガンツが叫び終えると同時に、「神速」か何かで私に接近して鋭い爪を立てて引き裂き攻撃を放ってきた。ただの爪攻撃ではない。魔力が乗ったクローだ。より鋭さを増したこの爪は侮れない。鎧オーラを腕に集中させてこっちもクローで迎え撃った。

 火花散らせながら拮抗したが、力は向こうが上だったらしくこっちが飛ばされた。スーロンに支えられたお陰でダメージは大したことないが、力の差がここではっきりした。


 火力と耐久力は向こうが上。スピードはほぼ互角ってところ。けれど相手は事実上格上の敵だ。あんなクズがこんなに強いという事実にもの凄く腹を立てる。

 負けちゃいけない、絶対に...!下衆野郎なんかに力で負けてはいけない!


 スーロンに目を向けて合図する。私の意図を察してくれた彼女は頷いて2人の方を見て合図する。長い間ともに戦ってきたから、言葉無しでも伝わるみたいだ。

 そして私たちは本当の本気を出す。時間は短い。すぐにこいつを殺す!


 「「「「限定進化!!」」」」


 4人同時に魔族特有の強化技能を発動する。ひと回り大きくなったスーロンとソーン、体格はそのままだが魔力が超濃密になったキシリト。全員災害レベルのモンストールなど簡単に倒せるくらいの強さに違いない。

 

 「はっ、もうソレを発動したのかよ?このまま戦えば俺はミンチになるだろうな。なら出し惜しみは無しだ!俺も本気でお前らをぶっ潰そう!」


 「限定進化」と大声で唱えたガンツは、体が数倍大きくなり、地下室を破壊して地上へ出た。同時にもの凄い戦気を感知して思わず戦慄した。

 

 (凄い戦気に殺気...今まで戦ってきたモンストールよりも強い!?獣人族にこんな奴がいたなんて...!)


 地上に出た私たちが見たのは、大きくなった私の2倍以上はある体躯、長いたてがみ、禍々しいオーラを纏った獅子だった。


 「“百獣王”のガンツ、全力でお前らを殺しに参る...!」


 鋭い牙をギラつかせながら、低い声で彼はそう言った。深く呼吸をして構える。

 ここから先は過酷だが僅か数分間の死闘だ―!

 

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