86話「初めて見る光景」


 デカい。


 そいつらを見て思った言葉がそれにつきる。以前の戦いで見たGランクの奴らでさえ10mちかくはあるデカさだったのだが、今いるこいつらはあいつらを上回るデカさだ。まずSランクと見て間違いないだろう。瘴気が出ていることからモンストールであることも確定だ。


 何故突然、地上に出てきたのか?たぶんだが、俺たちのせいかもしれない。今朝と昼であいつらの住処...最後は地下で大暴れしたことが、奴らを刺激してしまったのだろうか。

 住処を荒らされて怒ったこいつらは、俺たちへの報復と、この王国の息の根を止めに出てきた、という解釈で良いか?


 そのSランクどもの種類だが...デカい口を持ち無数の脚が生えたもはや何の生物か不明な怪物。手が異常に発達したアンバランスなモグラ。八岐大蛇を思わせる、たくさん首が生えた蛇。


 前回以上に異形な姿をした化け物どもが現れた。俺やアレンさえ嫌悪感で引いてるんだ。カミラや国王どもなんかはもう思考が追いついていない様子だった。だがいちばん早く我に返った国王が怒鳴り声で命令を出す。


 「撤退だぁ!!今の我らにあの化け物どもを討つ力は無い!パルケ王国に亡命するぞぉ!!」


 戦わず逃げることを即決。潔いとも言えるが、我が身優先で逃げてるとも思える。実際国民のことなど一切気にしていない様子だし。そもそも国民どもはいったいどこへ避難させたのか。分からないが今はいいか。

 とにかく国王ら全員はこの場から逃走しだした。兵士どもの魔法で速度を上げて一斉に駆ける...


 ――カミラを置いて。


 「おいおい。あの女はいいのか?放置しといて。貴重な頭脳を持った人材だと思うのだが」

 「奴はこの先役立つとは思えん!貴様やあのような化け物相手に優れた策など無意味だ!ここで切り捨てることに変わりない!!」


 俺が言葉をかけたが、返事は見捨てるとの一点張り。これも、どこかで見た展開だ...。


 「あ...ああ......」


 自分だけ魔法付与されず、見捨てられたこという現実に、カミラは完全に折れていた。自分は助からず、あの化け物どもに殺されるのだと、恐怖と絶望に震えている。

 だが何の気まぐれか、モンストールどもはこの場にいる俺たちやカミラを無視して、真っ先に逃げた国王どもに目を付ける。大口を持つ化け物がその巨体を伸ばして、奴ら目がけて猛突進した。

 化け物の突進に気付いた兵士たちが青ざめた顔のまま一斉に魔力障壁を張ってこれを防ぐ。だが後ろから蛇どもが異なる属性の魔力光線を一斉に放った。障壁を出す間もなく、兵士たちは光線に焼かれて消滅した。


 「な!?何でこっちに来る!?狙うなら奴らを狙え!!」


 赤コートのデブ貴族が狂ったように怒声を上げる。残った兵士たちが国王たちを逃がそうとその場にとどまり、モンストールどもを迎え撃つ体勢に。忠誠心はけっこうだが、それはただの蛮行だ。まぁあの場合仕方ないかもな。

 今度は巨大モグラが攻撃しに行く。兵士たちは連携とってあれに挑む。アレンを本気にさせるだけあって、巨大モグラに食い下がっている。

 いけるかと思ったが、蛇の猛攻で一人が死んだ。


 そこからは支えを失った積木が崩れるかのように、一人また一人と死んでいった。聴力が発達しているので、その時にあいつらが何を言っていたのかを聞き取った。


 「うわあああぁ!こんな終わり方、嫌だぁ...」

 「ケリー、ごめん...私ここまで―」

 「ハイス!ちきしょおおおおおおおお!!」

 「全部、あの女と不死の男のせいだ...!あいつらさえいなければぁ!!」

 「こんな奴らに、勝てるわけない...はは、は。終わったぁ」


 恐怖、怨嗟、惜別への悲しみ、諦め。様々な感情がこもった叫びをこの耳で聴いた。


 この世界に来て初めて、俺は人間がモンストールどもに蹂躙されている光景を目にした。わずか5人が殺されているだけであんな惨い絵面だ。

 その昔、あの化け物どもが発生したばかりの頃なんか、よりたくさんの人間が殺されてたそうだな。もっと悲惨だったんだろうな……。


 「なぁアレン。お前の村が襲われた時も、あれみたいに無惨な目に遭わされていたのか?」

 「......そう。私の時は魔人族だったけど。無抵抗の仲間も殺されたりもした...!」

 「そうか...嫌なこと思い出させて悪かった」


 一瞬憎悪の感情が見えたアレンに謝りながら、モンストールどもの蹂躙の続きを眺める。兵士たちを全員殺した次は、国王や権力者どもを標的に襲い掛かる。


 「...せっかく生かしてあげたのに、全員殺されちゃった」


 兵士たちの死に対してアレンが静かに呟く。悲しんでるわけじゃないようだったが。


 「くそ!くそぉ!!兵団は何をしている!?役立たずめ!お前たちが弱いせいで、王国が滅ぶことにぃ―!!」


 魔法で加速しても、Sランクモンストールから逃げきることは不可能だったらしく、いちばん初めに赤コートのデブ権力者が身体を真っ二つにされて殺された。あいつは死んで構わん。デカクズ(ダグド)の親だから。


 「うわああああああああ!!!嫌だ死にたくない!!あんな死に方嫌だぁ!!トッポぉ!いないのかよぉ!?」


 王子っぽい男がパニック起こして叫び散らす...あ、こけた。だが奴を助ける者は誰もおらず、喚いたままの王子はそのまま踏み潰された。


 それからも次々に殺されていき、最後に残った国王もあっけなく殺された。


 「こんな、ところで...我は終わるのか。ははっ、上手く行かぬものだ。若いあの頃から何一つ成し得なかった...民も家族も守れず、そのくせ一人の軍略家に対したいそうな言葉を吐いて挙句見捨ててきた。無能で愚かな、王だった――」


 最期に色々嘆いて、カミラを見捨てたことに後ろめたさ感じながら蛇の光線に焼かれて消えた。


 「ハーベスタン王国、滅亡してしまったか...」


 国王とその血族全員が死んだから、これで人族2つ目の王国が滅亡した。またも俺が絡んではいたけど。


 逃げた奴ら全員殺し終わったモンストールどもは、こちらに振り返り睨むように凝視してきた。


 「こ、ろされ、る...逃げられ、ない...!」


 カミラは相変わらず恐怖に震えている。無理もないか。非戦闘員だしな。本当の戦いを知らないまま今日まで生きてきたのだろう。


 「どうやら次は俺らの番、ってところか。アレン、戦うか!」

 「うん!今ならSランクとも戦える!」


 俺もアレンに続いて戦闘態勢に入る。それを見たカミラが声をかける。


 「た、戦うのですかあれらと!?いくらあなたたちでも、3体ものSランクモンストール相手では...!」


 無謀だと言いたげな彼女に対し、俺は余裕の笑みで返す。

 「さっき見ただろ?俺の能力値を。今の俺でも、あいつらがあと10体以上増えても平気だ」

 

 そう言って「瞬神速」で駆ける。アレンも「神速」で後に続く。

 今度は俺たちが蹂躙する番だ!

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