45話「蠅と象程度の力の差」

 「よう、久しぶりぃ~」


 フレンドリーっぽく、しかしどこか見下した態度で、目の前にいる元クラスメイト5人に声をかける。

 全員、信じられないものを見る目で俺を見ている。最初に口を開いたのは、雰囲気イケメンのつもりとしている中身はゴミ度100%の男―大西だ。


 「お前...甲斐田!? 実戦訓練の時に死んだんじゃ...!?なんでここにいるんだよ!?」 

 「ああ、確かに死んだよ...真っ暗で瘴気まみれの場所で、Gランクモンストールに嬲られて、力尽きて死んだよ。けど、やり残したことがあったんで、こうして、ここにいるんだよ」

 「死んだくせに何まだこの世にいるんだよ!?幽霊野郎が!!死んだならとっとと地獄なりどっかいけよ!!」

 「キモいんだよ!俺たちで成仏させてやるよ!」


 大西とつるんでいる山本と野球部の片上が俺に暴言を浴びせてくる。言葉とは裏腹にその声は、震えていた。


 「てか、ホントにあの甲斐田なの?目の色とか顔色とか全然違うじゃん。なんかお化けというか、ゾンビじゃね?」


 俺をゾンビ呼ばわりしたのは、帰宅部女子の安藤だ。こいつも、学校では俺を敵視して、俺を陥れるようなデマカセを吹聴して、面白がって俺を不快にさせた。個の世界で、訓練で俺に魔法浴びせたことも忘れてねーぞ?


 「で?久しぶりーとして、あたしらに何の用?」


 興味なさげに俺の要件を聞いてきたのは、文芸部の眼鏡ショートの鈴木だ。こいつは、学校で安藤と一緒になって俺のありもしない悪評をばら撒いてたな。しかも安藤よりも陰湿で姑息な手段でだ。

 学校内にビラを貼るはもちろん、学区内全域にわたって俺のデマ悪評をばら撒きやがったのだ。そのせいで、他校の生徒からや近所の大人どもにも俺を悪く思われてしまった。こいつの悪意ある行動で、クラスでの孤立に拍車をかけた。俺にとって十分害だ。

 俺が地上に出てすぐに遭遇したサント王国の兵団が俺の蔑称を知っていたのは、このゴミ女が広めたからに違いないだろう。



 「何の用...。俺があの崩落に巻き込まれて落ちて、闇の中で誓ったんだ。

 お前らクラスメイト全員殺す...復讐するってなぁ!」


 そう言った直後、「瞬足」で移動して鈴木を蹴り飛ばす。胴体に入り、内臓を2つくらい潰した。数メートル先のレンガ造りの建物に激突し、変な声を上げてその場に倒れ込む。力を半分以上抑えた蹴りでこれかよ。弱過ぎワロタ。

 大西たちは俺の動きに全く反応できずにいた。しばらく呆然して、後ろに飛ばされた鈴木に気付くのに時間がかかった。全員、顔面蒼白だ。


 「何だよ今の!?甲斐田の動きが全く見えなかったぞ!?」

 「鈴木!?おい無事か!?」

 「保子!いつの間に!?何なのあいつ、何したの!?」


 全員が吹っ飛ばされた鈴木に駆け寄る。その光景が滑稽過ぎる。


 「おいおい。敵を前に背を向けて仲間の心配か?えらく余裕じゃんお前ら~」


 煽りと侮蔑を込めて大西たちに声をかける。俺の挑発に反応した男3人が攻撃態勢に入る。

 大西は両手剣を構え、その剣にオーラを纏う。あれは光魔法だな。武器に魔法を纏うとは、あれから一応鍛えてはいたんだな。山本はなんかグローブっぽいのを填めてボクシングの構えをとる。あいつの職業は拳闘士だったみたいだ。そして片上は、ハルバードを構える。武器を見るに、あいつの職業は槍使いで、その特徴は長物の武器は何でも扱えることだ。

 「鑑定」でそれぞれ戦力を見てみる。



オオニシ ユウスケ 18才 人族 レベル20

職業 両手剣士

体力 900

攻撃 1050

防御 1050

魔力 770

魔防 800

速さ 900

固有技能 全言語翻訳可能 剛剣術 加速 堅牢 光魔法レベル2 



ヤマモト ジュンイチ 17才 人族 レベル19

職業 拳闘士

体力 800

攻撃 800

防御 800

魔力 800

魔防 800

速さ 800

固有技能 全言語翻訳可能 剛力 堅牢 加速 土魔法レベル2



カタカミ アツキ 18才 人族 レベル18

職業 槍使い

体力 800

攻撃 850

防御 800

魔力 600

魔防 800

速さ 700

固有技能 全言語翻訳可能 槍術皆伝 火魔法レベル2 長物武器即錬成



 「ぶふっ」


 吹いてしまった。蠅3匹と巨象くらいの力の差がある。これじゃあ、殺さないように苦しめるのが難しいくらいだ。


 「何が可笑しいんだよぉ!?このハズレ者がぁ!!」


 大西が怒りの形相でいきり立つ。山本も片上も同様の表情だ。


 「“ハズレ者”ねぇ...。そのハズレ者にこの後お前らは惨殺されるわけだが?ほら、あの時の訓練のように、また俺を囲ってボコってみろよ」


 また挑発する。最初にこちらに突進するように走ってきたのは山本だ。鉄製であるらしいグローブを振りかぶり、ストレートを叩き込む。俺はそれを左手で掴む。その瞬間、掌にぶすりとした感触が。仕込みで突起物が出たみたいだ。

 それを見た山本がニヤリとほくそ笑む。


 「ははははは!その刃には、毒が塗られている!数分すれば毒が回って死ぬ!ざまーみろぉ、苦しんで死ねぇ!!」


 血走った目で哄笑しながら叫ぶ。そのキモい顔はともかく、仕込み毒とは中々戦闘慣れしてやがる。相手を確実に仕留める戦法において毒は有効だ。クズのくせに知恵はあるみたいだ。これなら初見殺し可能だろうな。

 だが、相手が悪すぎたな...。目の前にいる相手には、全く効かない。


 「さぁー苦しめよぉハズレ野郎がぁ!雑魚が粋がって...あ、れ?」


 毒が効いていないことに気付いたらしく、勢いが失せていく。


 「悪いね~。俺には効かねーんだわ。で?もう終わり?もう俺のターンでいいか?」


 腕を軽く回し、山本に近づく。怯んだ山本の後ろから俺目がけてハルバードが飛んでくる。片上の武器だ。飛んでくるハルバードに対し避けることはせず、脚に嵐魔法を纏い、そのまま横蹴りを放ち、風の刃を発生させる。その刃はハルバードを難なくスパッと両断する。


 「あ...?俺のハルバードが、な、ん、で...?」


 自分の武器があっさり壊され、呆然とする片上。あーあ、武器が無くなったからといって、思考停止かよ。メンタル弱過ぎ~!

 いちばん手前にいる山本を狙って飛び出そうとしたが、後ろから気配が。大西が背後から光を帯びた両手剣で斬りにかかる。まぁ、最初からこいつが背後に回ってたことはバレバレだったが。


 「身体武装化、“日本刀”」


 「硬化」も合わせて黒い日本刀化した腕で迎え撃つ。そして大西の両手剣は、いとも簡単にぽっきり折れた。この刀は、世界中どこへいっても見つからない最高の硬度・切れ味・威力を備えた最高の代物だ。なにせ俺の身体が素体だからな。どんな武器にも劣らない。

 丸腰になった大西を硬化した右腕で顔面を殴りつける。ぶちゅりと音を立てて吹き飛んだ。殺さないよう加減はしたが、半殺しくらいのダメージはくらわせたかな?

 さ、これでいきって飛び出してきたカス3匹は今ので力を差を理解しただろうな。山本と片上がここからでも分かるくらいキモく引きつった顔をしている。


 「な、なによぉ...あんた、そんなじゃなかったじゃん!あたしたちにボコボコにされてた雑魚だったじゃん!何なのよそれ!?」


 安藤が狂ったように魔法を放つ。火、水、風、土などとデタラメに撃ってきた。俺はあくび交じりに魔力障壁を張って悉く防ぐ。その後もしつこく撃ってくるので鬱陶しくなり、魔力障壁をそのまま安藤目がけて飛ばした。まさか壁が飛んでくるとは思ってなかったのだろう、完全にうろたえて動くこともできず、モロにくらって仰向けに倒れてそれっきり動かない。失神したか。

 やれやれ。訓練の時は、俺を虫けらみたいにボコってたくせに、俺に汚れ一つすらつけられないなんて。

 今や、あいつらが虫けらで、俺は巨大な象になってあいつらを踏みつけているみたいだ。


 だがまぁ、まずは俺とあいつらとの力の差を教えるというミッションは達成したな。よーし、これからが本番。ずっと俺のターンってな。

 

 よし…そろそろ、殺戮タイムと行こうかぁ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る