38話「情報収集その1」

 カッパのモンストールを討伐したその後も、モンストールや魔物が何体か出現してきて船を見破ってきた。アレンとクィンが主に迎え撃ち、倒していった。

 最初に出てきたカッパみたいなレベルではなかったので、二人で容易に突破できた。

 ただ、1体だけレア技能を持った奴が現れたので、そいつだけは俺が食った。


 イードの港から出航して約3時間半後、陸が見えてきた。あれがアルマー大陸か。 


 空からその陸地を見ると、αの形をしているのだとか。

 俺たちが着いた場所は、大陸の南部だ。目的地であるドラグニア王国は、大陸中央部に位置している。その王国の上部分の陸地もかつて領土としていたのだが、現在はモンストールに侵食されている。


 そして、俺たちが今いる大陸南部地帯は、魔族である竜人族の領土になっている。

 といっても、船を泊める場所の陸地は、人族・魔族共用地となっているため、不法入国にはならない。船着き場には、人族と竜人族が入り混じっていた。その比率は、人族がほとんどだった。竜人族は、空を移動するのが主流であるため、海を移動するのが少ないのだ。

 そんな船着き場だが、ここでは両方の種族間の経済や軍事事情の情報交換する地としても利用されている。


 「ここで少し情報を探ってみるか。イードには無い情報があるかもしれないし」


 昼前の時間帯だから、フードコートみたいなところが賑わっている。ここに来るまでけっこう戦闘があって、二人とも疲れているだろうから、ここで1時間程休憩をとることにした。

 海の幸料理が食べられる店に連れて行き、二人をそこで休ませた。


 その間俺は、食べ歩きしつつ、ドラグニアと竜人族の情報を探りに行く。

 情報のやり取りをしている場所といえば、酒場あるいはバーが典型的なものだが、この世界でもそこは共通だったようで、人族と竜人族が向かい合って何か話し合っているのがちらほら見られる。内容の大半が、それぞれの領地で採れる旬の食材だの、モンストールの活動についてだの、国が今どんなところに目を向けているだのと、ありふれたものだった。

 盗み聞きしても大した情報が掴めそうにないので、まずはその辺にいる人族の男に話しかける。


 「なぁ、救世団の最近の活動について何か知らない?」


 眼鏡をかけた30代の男だ。そいつは俺を見ると意外そうな顔をする。


 「これは珍客だな。ここでは普通人族には竜人族が情報を求めにやってくるのだが、まさか客が同族とは」

 「何せ別の大陸から来た者でね。ああ、俺はオウガって言うのだが」


 すると、男は眉をピクッと動かして、


 「オウガ?昨日イード王国でSランクに昇格したというあの...?君、大人をからかうのなら相手を選んでほしいな。僕はこの場で有名な情報屋でね。そういった冗談に付き合う趣味はない」


 と、俺が嘘つき野郎だと思って相手にしようとしない。それにしても情報回るの早いな。

 とりあえず冒険者証としても利用できるプレートを男に見せてやる。


 「...まさか本物!?そんな、君が?あり得ない...いや、プレートを偽造するなど不可能だ。本当にSランク冒険者オウガだと言うのか!?」


その声に、周りの人族や竜人族が俺たちに注目する。あちこちから俺を怪し気に見てくる。鬱陶しい視線だ。この男が焦る様子はそれだけ珍しいってことか。本当に有名人なんだな。


 「ああ、俺がオウガだ。で、救世団について何か知らないか?」


 だが、男は俺の質問に答える様子がなく、それどころかこんな提案をもちかける。


  「プレートを見せてもらっておいてなんだが、正直君がSランク冒険者とはまだ納得できない。Sランクの冒険者や魔族の戦士は何度か見たことがあるんだが、君みたいな何も感じられない男は初めてだ。第一、数日前まで全く無名だった者がいきなりSランクに昇格したこと自体疑わしいしね」

 「俺にどうしろと?」

 「証明してくれないか?Sランクの実力を見せてくれれば、君がSランク冒険者のオウガだってことを信じよう」


 そう言って彼は後ろを見やる。そこには、俺よりひと回り大きい竜人族がいた。


 「この人は僕の用心棒でね。Aランク相当の実力を持っている。彼をダウンさせたら、合格としよう」


こいつの言葉を聞いた周りの奴らが俺を見て馬鹿にするように囃し立てる。あーあ、なんか鬱陶しいことに…。ま、この見た目と死んだことでオーラも覇気もない状態で、俺はSランクだぞーって言ってそれを鵜呑みにする奴はいないか。

 この竜人族、たしかに中々強いな。ま、普通の人にとってはだが。

 それにしても、周りのゴミ虫どもがピーピーとウゼぇな。明らかに俺を雑魚扱いしてやがる。全員八つ裂きにしてやりてぇ。

 この竜人を捻るついでにあいつらもやっちゃいますか。


 「表へ出ようか。ここでは迷惑がかかる」


 竜人が厳かにそう喋る。それに従い、酒場から出る。俺たちの後に何人かも出てきて、野次馬観衆ができる。

 あまり時間かける気はない。竜人族の戦闘法に興味はあるが、復讐の後でまた見ればいい。

 ...その竜人族にも訊きたいことがあるしな。


 「では、始めようか。加減は要らぬ。その代わりに、俺も本気で行く」


 そう言って、竜人は全身から殺気を出す。その殺気に野次馬どもが反応する。ビビッて尻を着く奴、漏らした奴などなど。俺はというと、全く動じていない。ゾンビ化の影響でそういった感情は抜け落ちている。

 竜人が駆けてくる。爪を立てて俺を切り裂こうとしてくる。ただまっすぐ突っ込んでくるのではなく、魔法攻撃をいつでも躱せるよう、身体をブれさせながら駆けてくる。見たことない走法だ。


 が、今の俺には関係ない。俺の「複眼」は、全ての動きを見切る。

 冷静に正確に竜人の動きを読んで、奴が突っ込んでくる位置を先読みして、そのタイミング通りに魔法を唱える。


 「水魔法『絶対零度』」

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