35話「救世団の情報」

 俺が一度死んでいること。その後すぐかどうだったかは不明だけど、ゾンビとして復活したことでこうして人間らしく動けていること。瘴気の地下深くの闇の中でめちゃくちゃ強くなったこと。ゾンビだから体は自動再生すること…など。

 色々かいつまんでクィンに俺のことを明かした。


 「ゾンビとは…初めて聞く言葉ですね。それが職業だってことも、今までなかったことです。既既に死んでいる存在……再生される肉体。これが世界中に知れ渡ってしまうと大騒ぎになりそうですね。

 このことは、私の胸の内にとどめておきますので安心して下さい」

 「それはどうも。クィンなら話して大丈夫だと思ったがその通りでよかったよ」

 「信用してくれて何よりです。ところで、コウガさんのフルネームなのですが...。確か、『カイダコウガ』というのでしたよね?」

 「ああそうだが?」


 そうか。この名前は、この世界では珍しいもしくは存在し得ない表記なのかもしれない。だとするなら、こういった表記の名前がいる奴らなんて、限られている。


 「それも知られたくはなかったんだが、俺はこの世界の人間じゃない。日本という別の世界から、ドラグニア王国の連中によって召喚された、言わば異世界人だ」

 「ということは、あの救世団の人たちと同じ...」

 「...ああ、そうだ。あいつらは俺の元クラスメイト。で、そいつらに用があるから、ドラグニアへ向かっている。あと、ここに来たのも、そいつらについて、何か情報がつかめたらなーと思ってだな...」


 そう言いながら、俺は聴力を強化させて、周りの奴らの会話を拾っている。

 今のところあいつらに関することは聞こえてこない。直接聞き込みに行こうかなとメンドいことを考えていると、少し離れたところからようやくお目当ての内容が聞こえた。



「お前ぇ知ってるか?あいつら……救世団の連中を」

 「ああ、二日程前に、ここでな。何やら任務で来たらしいが……ったく!まー偉そうで非常識なガキともだったよ!

 なんでも、対モンストールの軍勢をつくるために、ドラグニア王国が別の世界から召喚しやがった特別な人族だそうじゃねーかよ」

 「マジかよ…。それよかあいつら、自分らが特別な人間だと思い込んでいるようで、この辺りでかなり威張り散らしていたみたいじゃねーか。俺は実際見たわけじゃねーんだがよう、評判最悪だったみてーだぞ?」

 「ああその通りだ。その時のあいつらは、ここで、女冒険者にナンパしていたんだぜ?その女の連れが諫めに行ったら、あのガキどもここでそいつを殴りまくってよう、テーブルがめちゃくちゃにされたんだぞ。大声で俺は世界を救う勇者なんだぞー、みたいなこと言って大暴れしまくってたぜ。しかもそいつ、酔っていない状態であんなことやりやがった」

 「ガキが大きな力持つと、やんちゃどころじゃ済まなくなるのかねぇ。だが、そいつらの実力は本物らしいな。実際その時の任務で、上位レベルのモンストールを数体倒したとのことだってよ」

 「下位レベルでも苦戦する俺らだ。強さはたしかに本物だ。中身は最悪だそうだが。

 ああ、そいつらの名前だがな?ここにいた時、一人が大声で名乗っていたな。たしか、ユースケだの、ジュンイチ、だの言ってたな」

 「まーすぐに帰ってくれたから良かったけどよ、あんな奴らが対モンストールの、世界を救う組織だって思うと最悪だよな……」


 「......」


 さらに、他のところからも、救世団に関する会話が聞こえた。

 


  「近いうちに、この国に新しい戦力が導入されるらしいぜ。救世団という組織の奴らが派遣されるとのことだ」

 「少し前に任務で来た、対モンストール組織だっけ?人族の希望らしいな、その連中は。そのメンバー一人一人が国の兵士数十人分の強さを持つそうだ」

 「その組織から5~6人程が、人族の大国に派遣されて、モンストールを定期的に倒すという方針だってよ」

 「いよいよ、本格的な戦争期に入るってことか。しばらく荒れそうだな…」



 それから、救世団に関する情報を色々聞いた。中でも、あいつらの素行不良、評判がとても悪いということが、よく分かった。

 とりあえず、救世団で分かったことは、


 ここ最近、他国に遠征して、モンストールを倒していること。実戦訓練の一環のようだ。

 数週間後には、それぞれの国に均等に派遣し、数年間滞在して、モンストールどもと本格的に戦うとのこと。

 現在は全員ドラグニア王国にいるということ。


 今分かることはこれくらいだ。


 「......」

 「コウガさん?」


 上等だ!これだけ情報が入れば十分だ。やっぱり、このままドラグニアに行けば、あいつらがいる!復讐ができる!


 (やっと、目的を達成できる。あともう少しだ)


 「コウガさん!」

 「...ん?」


 先程から俺をよんでいることに気付かないでいた。クィンが怪し気に俺を見ていた。

 「大丈夫ですか?」

 「ああ、問題ない。それより、明日には、ドラグニア王国へ行くぞ。善は急げってな」


 俺は意気揚々と明日のことを告げる。それを聞いたアレンが楽し気に話しかける。


 「いよいよ、コウガの目的が達成されるね?私はどうする?」

 「これは俺一人でやり遂げたいんだ。アレンは町の観光でもしていてくれ」

 「ん...分かった」


 そんな会話をしているそばで、クィンが何のことかと聞いてくる。

 「コウガさん、あなたの目的とは、一体?」


 ...やっぱり、もうここでバラしてもいいか。共感してくれれば今まで通りで、良く思わないなら、まぁ適当にやろう。


 「俺は、元クラスメイトのあいつらに恨みがある。復讐しに行く。一人残らず殺しに行く。そのためにドラグニアへ行く」


 俺の本音を聞いたクィンの反応は...


 「恨み?復讐...?殺、す...?」


 目を見開いて、俺の言ったことが信じられないような顔をしていた。


 「俺がこうしてゾンビになったのは奇跡だが、普通なら俺はもうこの世にいない存在だった。

 俺は死んだ。あいつらのせいで、死んだんだ。死に追いやられ、苦痛と屈辱と絶望に押しつぶされてながら、俺は瘴気まみれの地下深くの暗闇で無惨に死んだ。あいつらが、俺を不要とし、見捨てて、嗤いながら俺を落とした。だから、殺す。復讐する。全ては俺の為に...」


 クィンに俺は自分の復讐心を吐露した。溜まっていた何かが流れ落ちていく感じだ。


 「そんな...あなたが、そんなことを考えていたなんて...」

 クィンはまだショックを受けていた。何に対するショックなのかは分からないが。


 「クィン。俺はお前に今日まで俺の本当の目的を伏せ続けてきた。お前がどうするのかが予測できなかったからだ。

 アレンには、会ったその日から俺のことを全て喋った。彼女も復讐者として生きてきたからだ。お前は、恨みや憎しみとかには縁がない人間に思えたから、言うのに躊躇ったんだ。

 だが、あえてここで全て話した。あとはお前が俺たちのことをどう思うかだ」


 「.........」


 クィンはしばらく俯いていた。自分の頭の中を整理しているように見えた。やがて顔を上げて、重々しく声を出した。



 「認められません。復讐なんて。復讐で人を殺すだなんて、そんなの認められません」



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