第2話 男装作戦


「お姉ちゃん…?」

完璧な男装のはずなのに…!一目で見バレた…!!

やばい。こんな一瞬でバレると思わなかった…!

やばいやばいど、どうしよ…!!

「…あっ、何だびっくりした…!すみません!靴がお姉ちゃんのと一緒だったので…!えと、貴方が『なすびまる』さんですか…?」

「ごめんっ実は――……え?」

謝ろうとして思わず固まる。

「えっ、あっ人違いでした!?」

「あっ、いやっいやいや!違う違う!わた…じゃなかった!俺がなすびまるですっ!」

「あっ本当ですか、よかった…勘違いしちゃったかと思いました…えと、あたしが『ちか』です」

照れ笑いを浮かべる美愛。かわいい。超かわいい。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「じゃ、そろそろ行こっか」

「はいっ」

よ、よかったーーーー!!バレてなかったー!!!

「早めに着いて待ってようと思ってたからびっくりしたよ、待たせてたんじゃない?どっかでお茶でもしよっか?」

「あっ、いえ!あたしもさっき着いたばっかりだったので…っ」

「そっか、よかった………というか、あの…なんか遠くない?」

「え!?そ、そうですか!?」

私と美愛の間には傍から見れば2人で歩いているとは思えない程の距離が空いていた。

「話しにくいんだけど」

「…あっ、すみません!あの、わ、笑わないでくださいね…?」

立ち止まっていた私の、少し後ろまで慌てて近寄ってきた美愛。なんだか厚底ブーツのお掛けで身長がいつもより高いせいか、美愛に見つめられると自然と上目遣いになってて、いつもより可愛く見えるんですけど…

「あたし…男の人と歩くの初めてで…その…緊張しちゃって…」

「そうなんだ…彼氏とか居たこと無いの?」

「無いです無いですっ」

両手と頭をブンブンと横に振る美愛。

「可愛いのにもったいないね」

「!?」

真っ赤になって俯いてしまった。

かっっっわいいいいいぃ~~~~~

やばいやばいやばい、普段の私じゃないってだけでこんなに私の知らない美愛が見られるなんて…っ!!男装最高じゃん…!!?

「恥ずかしいのは分かるけど、こう人が多いと迷子になっちゃうからさ。手ーーは、握るの恥ずかしいか、裾とか握るのは…平気?」

「あっ…えと、はい。た、多分大丈夫だと思います…っ」

そう言って私の上着を摘むように持つ美愛。

さっきより近くにはいるものの、前後に並んで歩いているためか、これだとあんまりデート感無いなぁ…それにしてもどこ行こ…とりあえずゆっくりできるとこがいいかなぁ…

ちらりと後ろを歩く美愛の様子を見てみる。

美愛もたまたま私を見ていたらしく、ばっちり目が合った、と同時に美愛は勢いよく下を向いた。

耳まで真っ赤になってる…

あまりにも恥ずかしがる美愛にあてられたのか、 急に恥ずかしさが込み上げ、私も思わず前を向き直す。

そりゃずっと女子校に通ってたんだから免疫ないの当たり前だよね…

でも私は騙して近づいてる訳で…

やばい…なんだろ…急に罪悪感が…

これはとっとと騙してることを白状して謝った方が…っ

そう思った矢先、ぐいっと服を後ろに思いっきり引っ張られた。

「ぅわっ!?」

そのままぐいぐいと人気のない所に引っ張られる。

あれ!?免疫ないんじゃなかったっけ!?なんでこんな急に引っ張って一体どこ連れてく気!?

「あ、あのっ!!ちかちゃん!?どうしたの!?」

美愛はビルとビルの隙間の細い路地まで私を連れ込むと、我に返った。

「あっご、ごめんなさいっ!」

「いや、わた…お、俺は全然いいんだけど、どうしたの急に。気分でも悪くなった?」

「あっいえ、あの…向かいから友達が歩いてきてるのが見えて…」

路地から少し顔を出して指を指して、友達の場所を教える美愛。

「あっやばいこっち来る…!」

「バレたくないの?」

「はっはい…出来れば…」

「じゃあ、ちょっとだけ我慢しててね」

「え…?」

そう言って私は大通りから見えないように美愛に覆いかぶさるように壁に手を着き、周囲の視界から美愛を消す。

あんまり近寄るとバレちゃうかもだけど…でも美愛が困ることはどうにかしてあげたい…!

ちらりと友達の位置を確認すると丁度真横を歩いていた。

私の胸元に美愛の顔がある為表情は確認できないが、体は固まってしまっている。

「あと少しだからもうちょっとだけ我慢しててね」

「は、はい…っ」

こくこくと首を縦に振る。

友達の姿が確認できなくなったのを見計らって、壁に着けていた手をどけて美愛から離れると、真っ赤になって口をパクパクさせている姿があった。

「みち…ちかちゃん…?ごめん、大丈夫…?どっか休めるとこ行こっか?」

「あ、あぁあの…っわた、私っもう帰りますっ」

「え゛」

「それじゃ…っ」

「え…っ!?ちょっ、ちかちゃん!?」

私の制止も虚しく、美愛は足早にその場を去っていった。

え?まじで……?デート終わり…?もしかして私嫌われた…!?

やっぱり壁ドンはやりすぎだったかなー!!

ていうか待って…このままじゃ、またあのサイト使った時に私が偽物だったってバレちゃうじゃん………!やっばい!!

そう思った矢先、ついさっき足早に去っていったはずの美愛がこちらに戻ってきた。

「あっあの…!」

「どっ、どうしたの、ちかちゃん」

「連絡先…っ交換してないなって…思って…」

「あ、あぁ連絡先ね、うん、俺も今そう思ってたんだ。じゃ、LIME交換し――…」

だめじゃん!!!そんなの交換したらすぐ私だってバレちゃう!!

「ちょっと待ってね!」

「?はい…」

急いで新しいアカウントを作り、交換する。

あっぶなー…バレるとこだった…

一安心していると

「あの…これめぐみ…さん…ですか…?」

「えっ、あっいやっけ、けいだよ」

「恵さん…恵さん…ですね…あ、あの…また連絡しますね…今日はありがとうございましたっ」

何度も私がその場しのぎで付けた名前を読んで、ぺこっとお辞儀をして再びその場を去る美愛。

……え、『また』…?またって言ったよね今…

連絡先交換も出来たし、嫌われてはないって事…だよね…?

よ、よかった~~~~~~っ!!また美愛とデート出来るんだ…っ!

…でも…私はこのまま…美愛に男だって嘘ついたままにするって事だよね…

………。

…やっぱり、嘘着いたままにしたくない…

私は『私の』姿でデートしたい…

謝って済むか分からないけど、やっぱり帰ったら謝ろう――



家に帰る前に男装から着替えて帰ると、待ち構えていたのは美愛だった。

「お姉ちゃん…っちょっとあたしの部屋に来てくれない…?」

「え、ど、どうしたの美愛…」

「じゃ、待ってるからすぐ来てね」

そう言い残し、美愛は階段を上がっていった。

デートの時の緊張と不安が入り交じった顔とは違い、浮かない顔をしていた。

どうしたんだろ…帰りに何かあったのかな…

まさか…いや、まさかね…

バレたのかと一抹の不安を感じながら、私は男装に使った服を入念に隠し、美愛の部屋や向かった。

開口一番の言葉に私は耳を疑う他無かった。

「お姉ちゃんどうしよう…あたし、今日初めて会った男の人の事…好きになっちゃったかも…っ!」

両手を頬に置いて照れ笑い浮かべながら言う美愛の言葉に私は理解が追いつかなかった。

「…………………………………はぇ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

実妹を愛するあまり男装して付き合うことにしました まかろに @makaroniiiiin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ