4 覚醒 その5

「「ハアッ!!」」

 戦士へ向け飛来した槍が、突如穂先をアトラク=ナクアに向きを変え舞い戻った。

「何だと!?」

 槍はアトラク=ナクアの脇腹を掠め天井に突き刺さった。

「「分かっている。見えているからな」」

 刀の切っ先をアトラク=ナクアに向ける。

(これでは、迂闊に槍は飛ばせない。だがヤツがここに辿り着く方法を見い出す前に潰さねばならない。考えるのだ。しかし、熟考は許されない…)

(槍を飛ばさなくなった?だがこの状況は如何せん不利だ。正攻法以外を考えろ)

 互いに睨み合う時間がそこにはあった。

 と、結界が軋み始めた。

 どうやら増援隊が到着し始めたようだ。

(いかん!これは怪物の父親が来る!そうすればワタシの負けは確実。一気に決めねば!)

(皆が来る。粘れば勝てる!しかしそれが分からないヤツではないだろう)

 怨身を最大限に高める。

 空気がヒリつく。

 四つの目玉がギラリと煌めく。

「な、ら、ば!コイツはどうだああああああ!!!!」

 今までで一番の大きさの槍。いや最早槍などと言う言葉では形容出来ない大きさ。貫く、と、押し潰す、その両方に主眼を置いたアトラク=ナクアの最終奥義、名付けるならば『蜘蛛の子散らし』である。

 ズン、と洞窟全域に聞こえる程大きな音を立て黒き戦士を押し潰した。


(ここは…)

 再び意識下にいるようだ。

(負けたのか…?)

 悔しげに悠が問う。

(いえ、一時的に意識が刈り取られているだけのようです)

(なら、まだ闘える!)

(その意気です。ヤツも時間が無いのを理解しているでしょう。恐らく我々を生きたまま旧神の元へ届けることとなるでしょう)

(ならば最高のタイミングで、一気に叩くのみだ)

(そして、こちらも神我一体の想像と創造の力を高めれば)

(負けはしないだろう!)

 ニマと笑みを返す闇。

 空間に突き刺さった刀を引き抜くと、意識を集中させる。


「手こずらせおって。しかし結界が破られる前に引かねば」

 アトラク=ナクアが天井からゆっくりと降下を始めた瞬間、砂埃が舞う空間に、ゴウッと真紅の炎が燃え盛り砂埃ごと空間を支配した。

 それは黒き戦士を中心に燃え盛り、無数の槍を燃やした。

「何ッ!?」

 炎の中心にある黒き戦士は、さながら告死の天使のようであった。

 顔に三つある炎の二つを脚部へと亀裂に添わせ移動させる。

 そして残る一つは言わずもがな刀身に。

 そして『蜘蛛の子散らし』を足がかりに、駆け、飛び上がった。

 単純加速をして威力が上がるか?

その問に対する応えはイエスだ。

 しかしながら何故人類は生身で使用しないか?いや出来ないか?

その問は、そのスピードに耐えうる身体を持ち合わせていないからだ。

 ならば神我一体した人ではない身体ならば十二分に闘えるであろう。

 加速による、加速。それ故の威力。

アトラク=ナクアも必死に槍を生成して迎え撃つ。

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」

「おのれえええええええええええええええ!!!!!!」


 刀はものの見事に槍ごとアトラク=ナクアの胴を半分に断ち切った。


「結界、消失」

 三班の報告。

「どちらかが死んだ!」

 結界のルールを知る者。

「隊長!新入りは?」

 確たる勝敗を尋ねる者。

「ああ、全く、悠。君はとんでもない逸材だ」


「人の子よ、完全にワタシの負けだ。世辞は抜きで、だ。完膚なきとはこの事であろう」

「「……」」

「もうじきにワタシの身体は瓦解し、依代が残るであろう。弔うがいい。それが望みだろう?」

「「……」」

「最後にワタシの望みを二つほど聞いてはくれないか?」

「「…何だ?」」

「ワタシを喰らえ。お前らの、ナイアルラトホテップの神性は拡散と収束。つまり神格の集合だ。これからも戦うのであろう?ならば、ワタシは微力ながら力になりたいと思ってしまった。何故だろうな?」

「「……」」

「ああ、久しぶりに闘った、そして負けた。卑怯者のワタシに戦いの挟持などはないが、何故か今こんなにも清々しい。早う喰らえ。そしてワタシに見せつけてみろ。全てに勝ち抜く姿を」

「「もう一つは」」

「ああ、人の子よ、名は何という?その名を記憶に刻み、内包する心の片隅から見守ろう。そして集合の内で、ワタシを選ぶ事もあろう…」

「「桂月悠だ。悠でいい」」

「これで悔いは恐らく無い。悠そしてナイアルラトホテップの一顕現よ、刻限は近いようだ。早う喰らえ」

「「ああ、ならば喰らおう。お前が知らない世界を見せてやる」」

「くれぐれも卑怯者に乗っ取られないようにな。ハハハハハハ…」


 それから数刻の事だ。

 ユーナの両脇を支えるように静かに眠る悠と闇の姿が発見されたのは。

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