4 覚醒 その4

無貌フェイスレス波形を感知。初観測、初観測。闇をさまようもの、闇。その覚者、桂月悠。神我一体、アティエルの発動を確認。仮称、対神刀・無銘。将来性未知数』


「にゃはっ…!?にゃははははは!!スゴい!スゴすぎる!!最短コースを地で行く悠君!そして闇!どんな能力です!?どんだけ強いんです!?」


「これは…まさか…!」

「ライニー、新たな力持つものの誕生だ」

「悠…君は…」


(ここは?)

 下は広大な海のような空間。しかし沈む訳でもなく、ただ立っている。いや?揺蕩っている?

(ここは私と悠さんの共同意識下です)

 闇は目の前に立ち大きな多角形に寄りかかっている。

(傷はいいのか?)

(大したことないですよ。それよりこれを)

 見慣れてしまった反りの高い仄暗い黒刀。

 それもまた、沈むでも浮かぶでも無く、はたまた突き刺さる訳でもなく、しかし、しっかり切っ先を下にし、揺蕩っている。

(これを握ったら最後、戻れなくなるかもしれませんよ?)

 幾度目かのこの問い。

 確かにもう後戻りは出来ないであろう。

 ならばこの問いに対する解は既に出来ている。

(もう決めた。傷はいつかは癒える。恐怖もいつかは乗り越えられる)

(安心しました。ならば話は早いです。この空間ごと切り裂いて、今こそ、顕現しましょう!)

 黒刀を闇が、その後ろから抱きしめるかのような形で悠が握る。

(いきますよ!)

(おうッ!)


 何だ、これは?

異質な、あまりに異質なものが目の前にいきなり現れた。

 いや?外の世界ではよくあることなのだろうか?

 そんな疑問を持ったのは、アトラク=ナクアである。

 力に慢心して早々に仕留めなかった己の落ち度であろうか、目の前に紅い筋が幾つも走る人間大の大きさの多面体がそこにはあった。

 異質である。

 どうしたものか?

 まあ、いい。

 どちらにせよ狩りの対象が二つから一つに減っただけだ。手間が省ける。

「では、一気に刺し貫いてみせようではないか」

 取り込んだ人の子の記憶を元に巨槍を練り上げる。

「見ているか?海洋の翁よ?これが手土産だ!!」

 槍の穂先が多面体に辿り着くと同時、正にその瞬間、槍が止まった。いや、止められたのだ。

 既に多面体の影が失せ、そこには人のカタチをした何者かが槍を正面から刀で受け止めていた。

だけではない。押し戻され、切っ先からヒビ割れていくではないか。

「何だ!?何が起きている!!?」

「「起きるているのは、足音響かせ近づくお前の死だ!!」」


 漆黒の鎧の様な外骨格に包まれている戦士が立っていた。

 顔も無貌の仮面によって隠され表情を伺い知ることは出来ない。

 しかしながら、何も無い仮面に自己の正義をかざす三つの烈火が燃え盛っている。

 体中には紅い亀裂のような意匠が施され、右手には黒刀を握っている。


「「おおおおおおお!!!」」

「チイッ!!」

 槍を捨てアトラク=ナクア飛び退く。だが、あることに気づく。

 己の脚が一本切り落とされているのだ。

「ぐううぅ!」

 痛みより、己の身体を傷つけられたことによる激昂を内包した呻き。

「貴様、あの人の子か!そして、その姿!噂に聞く神我一体と言うやつか!!」

 悠、いや黒き戦士は切っ先を対峙するものに向け言い放つ、

「「お前の命はここで絶つ!!ユーナさんを返してもらう!!」」

「それは叶わぬ願いだ。既にこの依代との同化は最終局面に入っている。今更完全な形での返却は無理な相談だ。もし無理矢理にでも引き剥がしでもしたらそれこそ死ぬだろうよ」

「「だとしても!!人であったユーナさんの尊厳は守られなければならない!」」

「ほう、ワタシを引き剥がしてでもかッ!!」

 アトラク=ナクアのセリフと同時に繰り出された三本の脚が黒き戦士を狙う。

ったッ!!」

 完全な軌道を描き戦士の心臓を狙った脚。だが声が聞こえたのは何故か背後からであった。

「「いや、取られたんだ」」

 その言葉が終わると同時にボトッと脚がまた一つ切り落とされていた。

「ぐううおおお!!」

 ハッキリとした痛みがアトラク=ナクアに何が起きたか理解させる。

「「今までのお前の言動からして予測するのは簡単だった。卑怯者の蜘蛛の行動を、な」」

「貴様ぁあああああ!!」

 激昂に次ぐ激昂。だがアトラク=ナクアはこの状況で怒りより智に走った。深追いをせず後ろへ飛び退いた。

 確かにアトラク=ナクアが立っていた場所に振り下ろされる一太刀があった。

「分かった。貴様も、面倒すぎるがワタシにとっての脅威となり得たのだな。ならばッ!貴様の神我一体とワタシの怨身、どちらが上か、本気の決戦と行こうか!!」

 そう叫ぶと、洞窟の天井へと飛び移るアトラク=ナクア。蜘蛛の神性を有しているだけはある。そこで留まる。

 残された二本の脚を目の前で繋ぎ合わせ、糸を張り、巨大な弓と化した。そして腕で弦を引く。

「ここまでは来れまい!」

 本気の決戦とは名ばかりの一方的な攻撃の構図。

 槍を弓で飛ばすという芸当を難なくこなしていく姿は活ける弩の如く、だ。

 それを弾き、薙ぎ、切り捨て、相対する黒き戦士。

 地面には戦士を中心に何本もの槍が突き刺さる。

「いつまで保つかな?ワタシはここだぞ?」

 一瞬の余裕も束の間。

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