3 決意 その4

 決心。

 未だ淡い色の決心。

「…背負います」

「「「えっ?」」」

 三人が悠の声に反応する。

「本当にキレイ事かもしれないですけど。これまでも、そしてこれからも犠牲が続くんなら僕が背負います。全部背負って、僕は、皆の笑顔と願いの為に戦います!喩え傷つき傷つける事になっても!」

 途切れ途切れで、言葉を選びながらではあるが、ビジョンが見え始めたかもしれない。

 自分の願いが。

「皆の笑顔と願いの為!素晴らしいッ!新たな悠君の誕生だ!!」

「はい、自分で決めた事です」

 ハッキリした。守る為に戦う。

「一人で抱えこもうとしていないかい?皆で抱えよう!何の為の部隊なんだい?」

「ハルさん、よろしくお願いします、荷物にならないようにします」

 ラインハルトも激励の言葉をかける。

「答えらしいものを掴みかけていますね。では、一緒でなら届くでしょう」

 そうだ。闇のとの協力無くしては一歩目すら踏み出せないだろう。

「面と向かって言うのは初めてだけど力を貸してくれ闇」

「勿論ですとも」

「そうと決まれば善は急げ、兵は神速を尊ぶ、ですね。戦う術をその体に叩き込んでもらいますよ?」

 ナイは立ち上がり三人にも立つように促す。

「では、訓練場に向かいましょう」

「えっ?今度は何と戦うんだ?」

「着いてからのお楽しみ、という訳にはいかないですね。対戦相手は私です」

 パチンと指を鳴らすナイ。

 扉が現れ、通り抜けるとアリスと戦った訓練場が見える席であった。

「あくまで訓練なので命は取りませんのでご安心を」

「ああ、宜しく頼む。でいいのかな?」

「ええ、こちらもレクチャーですから分かり易くいきますよ」


 久し振りのこの訓練場。あまり良い思い出は無い。

 相対すはこの星の智慧派を統べるもの神父ナイ。

 先程の話が本当ならば、ハルさんの瞬間移動にも近い超スピードを繰り出して来ることは必至だろう。

 次に考えるのは、ナイは何の武器に姿を変えるのか、だ。近接、遠距離、どちらにしても注意しなければいけない。

「いつでもどうぞ」

 ナイは事も無げに、いらっしゃいという感じで両手を広げている。

「闇、行けるか?」

「行けるか?じゃなく、行くぞ、でいいですよ?」

 いつかもしたようなやり取りをし、反りの高い黒刀を両手で握る。

 まずは袈裟掛けで様子見をすることに決めた。

 踏み込みは力強く間合いを一気の詰めようとした。詰めようとしたのだが二歩目を地に着く前にナイの右前腕が首筋にあった。

 その前腕にはまるで鉈のような刃物が付いていた。

 冷たく、妖しく光る刀身を下げるナイ。

 あっと言う間に自らの眼前まで移動していた。何時そのような事をしたのか。同じ時を過ごしているのかと、解の出ない自問自答をしていると、

「時に、悠君は『縮地』、と言う言葉を知っていますか?」

 と、ナイ。

 縮地。仙術に於いて、距離を縮める事で長距離を瞬時に移動するという術だが、ここでナイが言っている縮地とは日本の武道に於ける縮地であろう。

 空手や合気道の達人が一挙手一投足、ひいては指の一本、毛一本までもが全くのムダも無く動いた為に、相手の死角に、ましてや相手をすり抜けていると感じるという神域に達した技だ。

「縮地の体得は、難しいものです。しかし、その域に達せずとも洗練され、無駄を削ぎ落とした動きが出来れば戦局を優位に運ぶことが出来るでしょう」

 再びナイが最初の位置まで移動をし、今度は両の前腕部に刃を展開している。

「さぁ、続きを始めますよ?」

 そうナイは言うが向かって来るどころか構えもしない。

 相手が移動するより後に動き始めているのにも関わらず圧倒的な速さで相手より先に目的地に着く。

 これがナイの縮地か。

 ならば、

「闇ッ!」

「はいっ!」

 何時ぞやアリス戦にも顕現させた仄暗い包帯を脚に巻きつけた。

 これで少しは反応出来るか?

 先程のナイの言葉通りに出来る限りムダを削って

 踏み込むッ!!

 が、動かない。

 いや、正確には動けない。

 ナイを見やると両の腕に顕現していた刃がなくなっている。

 なくなっているのではない。後方にて二つの刃が刺さっている。そして、その刃の間には黒い縄が。その縄が悠をこの場に留めているのだ。

 つまりは、また一本取られた、と言うやつだ。

「…くっ」

「そう、こういう心理戦も必要となります。戦闘に於いてイメージトレーニングは大切です。悠君はよく一度で一つの拙い解を見出し行おうとした所には賞賛に値します。しかし、言い方は悪いですが、付け焼き刃の縮地で距離を詰めた後はどうするつもりでした?自分で言うのもアレですが格上の相手と対峙した際、次の一手、その次の一手をどうするか。それを考えるのは一番大事だと言っておきましょう」

 確かに詰めた後など考えてもいなかった。突っ込む。それが、ナイには手に取るように分かっていたのだろう。

 ならば、黒刀により縄を断ち切り再び突っ込む。

 自らの二の舞い、同じ轍を踏む。

 いや、違う。

 今、現在ナイの前腕には刃は付いていない!

「良い動きです。剣筋の鋭さも増しています」

 すんでの所で躱し続けながらナイが呟く。

「ですが、これはどうです?」

 黒刀を数振りしている間にナイの前腕には刃が備わっていた。

 そして、手首付近を基点に刃を展開したのだ。

「ッ!?」

 後方に飛び退く。

 自分の首があった所ギリギリに、展開し手の甲から伸びる鉈状の刃が冷たく輝いていた。

「良い判断です。一本取ったと思ったんですけどね…。いやぁ、飲み込みが良い。そうです、こういう不測の事態を勘定に入れる事も大事です」

 そう語ると刃を仕舞ったナイ。

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