3 決意 その2

 そう言うとナイは、山積みにされた資料の中から一枚抜き出した。

「南極大陸沖にはぐれショゴス、目撃者有り、ってこれ、大きな騒ぎになったんじゃないか?」

「その事をテレビとかで聞いたかい悠?これが第二の力だよ。簡単に言ってしまえばさっきの情報操作ってのがしっくりくるね」

「でも神話生物は一般人には見えないじゃないのか?」

「良いところに気付きましたね。ショゴスには地球産のモノもいます。故に塩基配列だとか二重螺旋があーだこーだで見えるんです」

 かなりな暴論だが、気になるのは別の所。

「一般人に危害はないんですね?」

「うん、それは問題ないよ。彼等もデスクワークみたいな事ばかりでなく、意外にも行動派だから。彼らで攻撃を行うこともある。その日の内にこの件は人類史から抹消されたんじゃないかな?」

 とハルさんが補足をしてくれる。

「次はの第一部隊、観測部隊シーカーです」

「観測…」

「第一部隊は地球上で、いや宇宙中で起こる事象を悉く観測してもらっています。先程のショゴスを例に挙げると観測部隊のデータでは南極大陸の地表に現れた時点で、いやもっと前からですかね?恐らく狂気山脈からでる個体をピックアップして観測を開始していたのでしょう。次に第二、伝達部隊にデータの譲渡、伝達部隊はそのことを世界中に流布する。あくまでも裏面の世界で。そうして第三、分析部隊に伝わるとショゴスに対するあらゆる対処法から想定出来る最適解を計算する。次に第四、討伐部隊がブリーフィング通りに仕留める。そんな感じに第一から第四まで流れ作業の様に役割を分担していっているんです。そしてショゴスの件は発生から凡そ十五分もかからず人類史からの抹消が施されました。」

「大体分かった。一から四までなんだな部隊は」

「いや、まだあるんだ」

 ラインハルトがナイに代わって答える。

「第五、医療部隊メディック。彼等無しではこの星の智慧派は動けないだろう。単純な医療技術から精神のケアまで担っている。本当に助かるよ。そして第七、統制部隊ソリッド。ここは神父が属する部隊。他の部隊を円滑に活動させる為の部隊」

 ん?と引っかかるものがあったので正直に問う。

「第六部隊はないんですか?」

「勿論ありますよ。第六、掘削部隊グラインダー

 掘削部隊?他の部隊に比べると何をしているかパッとしない。

「グラインダーといっても刃物の研磨をしている訳じゃないですよ?文字通り敵方の戦力を削り取る部隊です」

 謎が謎を呼ぶが、

「第六部隊はどんな人がいるんだ?」

「聞いちゃいます?」

 鳴りを潜めていた嫌な顔が再び現れる。

「なんと!一人!!構成人数はたった一人です!彼の圧倒的戦力は我が星の智慧派随一です!!」

 一人!?一体どんな人なんだ…人なのか?

「まぁ、彼と合う事はまず無いと思いますが…」

「何でだ?」

「忙しいので?」

「何で疑問形なんだ!」

 なんとなく分かった、分かってきたと思う。

「色々話していると昔を思い出しますね。戦場を駆け回ったのが懐かしいです」

「ふーん……って、お前の覚者の相棒がいたのか!?」

「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。私だって邪神ナイアルラトホテップです。さすれば覚者がいてもおかしくはないでしょう?そうですねぇ、悠君も知っている人ですけどねぇ」

 そんな人いたかと記憶を辿ると一人いるにはいるが納得いかない点が一つある。

「もしかして、ジェルミさんか?」

「イグザクトリィ!そのとおりでございます」

「ジェルミさんってヨグ=ソトースの覚者じゃなかったのか?」

「非っ常に稀ですが複数の神話生物と波長のあう人間や闇の眷属が存在します。それが彼です。そこに目を付けたあの愚兄が借りていった、元い横取りしていったんですよ。まあ、我慢していたと言っていましたからね。渋々と言った形で。でも本当にひどいのはジェルミ君の方ですよ。私と幾星霜コンビ組んでいたのに別れがあんなにサッパリとは思わなかったですよ。人間の知識欲、侮りがたし…」

「神父、愚痴は後でゆっくり懇切丁寧にユーリィにしておいて。今は悠の事の方が大事だろ?」

「そうでした。うっかりしてました。ええとどこまで話しましたっけ?あっ、第六ですね。第六部隊は主にゴミ処理係、いやそんな言い方したら彼に悪い。ううん、何でも屋とでも言いましょうか」

「うん、恐らく教団一、二を争う程の実力の持ち主だろうね。悔しいけど今の僕じゃあ勝てないくらい強いんだ」

「ハルさんの瞬間移動でもですか!?」

「瞬間移動かぁ。照れるけどそんな高尚なものじゃない。あれはスピードによるものなんだ。実はあのスピードは神父の受け売りなんだ。」

「そうなんですか!?」

 意外だった。ナイの戦う姿なんて想像出来ないからだ。この二人の過去は。

「二人共話が脱線してますよ。悠君、部隊のことは理解できましたか?」

「まぁ、なんとなくだけどな」

「よろしい。ならば他に訊きたい事はあるかな?」

「此処、つまり教団そのものは何処にあるんだ?」

「ああ。やっぱり聞かれると思いました。それは秘密です」

 やっぱり検問に引っ掛かるか、ならば

「じゃあ目覚めている貌は幾つなんだ?」

「悠君の闇、ラインハルト君のロキ、第一は一人、第二は一人、第三は二人、第五に一人、そして第七の私です」

「八柱しかいないのか」

「いやあ大部分の私は未だ眠っていたりしますし、顕現していても自分が貌の一人と気付かない者もいるので現状その人数、いや神数ですね」

 そう言えば人間として生きていて自覚していないモノもいたんだったな。ん?

「第六には貌はいないのか?」

「そこですが、他の神性に頼らせてもらってます。他の神性との協力も教団理念の一つですからね。決してナイアルラトホテップが弱いわけではないですよ?決して」

 では質問を続けさせてもらう。

「封魂糸ってのはなんだ?」

「どこでそれを?」

「レオさんが亡くなった時に耳にしました」

「そうですねぇ、封魂糸というのはですね、謂わば生命維持装置を小型化、つまり身に付ける物にした一品です」

「身に付ける物…、団服か」

「そうです。皆さんの体格に合わせて作られた団服に織り込まれている繊維一本一本が封魂糸です。これで仮に大きなダメージを受けた際に魂を体に縫い付ける効果をもたらします」

 そうか、あのレオンさんもかなりの外傷を負っていた。死なないのが不思議なくらい。

 ここで再び暗くなっていてもしかたない。

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