2 代償 その6

「じゃ、じゃあハルさん。もう魂転移装置とやら出て平気なんですか?」

「あっ、うーん、隊長ともなると事務仕事とかもやらされるから早めに出てやらなきゃいけないんだ。引き受けるんじゃなかったよ」

 流石と言うべきか半日近く寝ていた自分が恥ずかしい。

「いやあ、隊長の業務大変過ぎるからさ。休息も必要だよ?大体そんなこと一々気にしてたら生き延びられない」

 顔に出ていたのだろうか励まされてしまった。

「優しいんですね」

「僕がかい?全然。寧ろロキのが優しいかな」

 意外と言う顔をするラインハルトに、それは、どういう意味と言おうとした時。けたたましいサイレンと共にフロアにアナウンスの声がする。

『えー、第四部隊各員に次ぐ。教団時間一三〇〇に配った資料を参考の上聞かれたし。未開の島に置いてダゴン秘密教団と人類の接触を確認。これを阻止、また殲滅されたし。また作戦参加者は同資料を参考にされたし。教団時間二二〇〇作戦準備完了、同○五、扉開放予定。繰り返す…』

 フロアにいる第四の方々は自分のデバイスを見る者、その画面を壁に投影する者、と多種多様でそのデバイスとやらの汎用性の高さには少し驚く。

 これが宇宙の科学力…。

 勿論新参者の悠が持ちえるはずもなく、

「資料ってどんなですか?」

 と、隣のラインハルトに聞くしかなかった。

「これだよ。ん?んん?おかしいな、悠の名前も入ってるけど」

 ラインハルトの持っているデバイスにはっきり悠の名前があった。

「間違いではないですよ!」

 第四部隊の扉を仰々しく開け放ちながらナイが現れる。

「やっぱり実地体験が一番です。昨日の対戦観てナイ分かっちゃいました」

「どういうことですか?神父」

 いまいち状況が読み込めない悠に代わり、ラインハルトが尋ねてくれた。

「つまりは、この第四部隊の作戦に同行して腹を決めてもらおうと言う魂胆です」

「魂胆を言ってしまうのか…」

「本音も建前もほぼ同義ですから」

 何故か自身満々といった表情でナイが事も無げ言う。

「あっ、そう」

 曖昧な相槌を打つとラインハルトがこちらに向き直って、

「悠、まだ決めてなかったんだ。迷える内に散々迷った方がいいよ?決めてからじゃあ後戻り出来ないから」

 また、優しい言葉をかけてくれる

「じゃあ取り敢えず向かいます。で、いいのか?」

 再び曖昧な返事をしてしまった。

「何事も実地での経験が重要なのです。大事な事なので二回目の念押しです」

「まあ危なくなったら直ぐに向かうから」

 ハルさん、本当にいい人だな。

「じゃあ、よろしくお願いしますよ?ラインハルト君」

「はい、神父。今回も一人も欠けること無く帰還します」


第四部隊ブリーフィングルーム。

「じゃあブリーフィングを始めるよ?今回五十一人での大規模掃討作戦だ。この島中央付近まで奴らが侵入するとの報告が来ている。ここで二つに部隊を分け、僕が率いる半数は奴らの後詰、殿を討って退路を断つ。もう一グループは先鋒部隊を叩いてほしい。いわゆる挟み撃ちの形だ。だれかこのグループを率いてほしいけど、誰か自薦、他薦は問わないよ?」

 ラインハルトが資料を噛み砕きながら説明をし、質問をする。

「ここはレオさんでしょう」

「俺か?」

 誰かが推薦の声をあげると賛同の輪唱が始まる。

「そうだね、レオなら適任だね。力量、指揮能力、十分だ」

「隊長まで言うなら、やりましょう」

 厳粛に、それでいてそれを感じさせないハキハキとしたブリーフィングだ。

「悠は進路上に奴らが現れないと推測される海辺の高台にて待機、僕らの戦いを見学すること。いいね?」

「わ、分かりました」

「そんなに緊張することはない。隊長や俺達がついている。ナイ神父は、ああ脅かしたが実際の戦場の空気を吸えって事だ。何事も経験だ」

 レオさんが隣にやってきて励ましてくれる。

「はい」

「コイツ等は俺の仲間だ。俺の願いはコイツ等ともう一度酒を飲むこと。そんだけだ。いや、ココの連中が嫌いって訳じゃない。皆人がいい。良くも悪くも。ただ、コイツ等は…、戦友と言うより家族だったからな」

 ドッグタグ。そういうことだろう。

 どこで、とは聞かない。ただ、こんな笑顔で励ましてくれる人にも大事な人たちが確かにいたんだ。

 願い、か…。

「皆んな、いいかい?じゃあ扉に時間通りに来ること、以上!」


 地獄。

 六道の一つであり、死後生前の行いが問われる場所でもある。またその罪の報いを受ける場でもある。

 欧州などのキチンと体系化された宗教では…、と、そんな事はどうでも良い。

 この悠、死んでしまった訳ではない。

 寧ろ生きながらにして地獄を味わっている。

 入り乱れる黒き団服の一団と鱗に覆われた人間大の大きさの異形のモノ・深きもの、ディープ・ワン達。

 斬られ、裂かれ、断たれ、打たれ、射抜かれ、撃たれ、次々と深きものは死に絶えていく。

 血飛沫が舞い踊り曇天の空に朱の花を咲かせる。

 残りの数は?なんて考える余地もない。自分は遠巻きに見ているのが精一杯だ。

 戦況は強襲により、練度により、なし崩し的に深きもの達の敗北は濃厚、残党は海へ逃げ帰って行くかに思われた。

 しかし、彼等は何故か諦めなかった。一匹、一匹次々に同胞がやられていく様を濁った瞳に映し彼等は何を思っているのであろうか?

 団服の一団は包囲網をジリジリ狭めていく。

 此処まできてようやく残党、と言ってももう両の指で数える程しか残っていないのだが、瓦解が始まった。決死で包囲を突破し、逃げ帰るモノが出始めたのだ。そうすると一斉に海へと退散していった。

「地獄だ…」

 ようやく悠の口をついた言葉はそれだけだった。

 深きものの屍があちこちに転がっている様は、やはり地獄であった。

「キュェェェエエエエエエエエ!!!」

 ハッと我に返り振り向くといつの間にか自分の後ろを取られていた。

 右の腕の鋭い爪を振り下ろす深きもの。それをやっとの事で黒刀にて受け止める。

 別働隊であろうか?

 そんな考えは刹那も保たなかった。

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