2 代償 その5

 神の存在は崇拝によって維持されると言っても過言ではないだろう。つまり主立っていない崇拝が少なからず影で続いてきたと考えられる。

 故に千の貌を持つと言われる黒い男=ナイアルラトホテップの一つの顕現としての神格、能力に充分過ぎる程当てはまるのだ。

 ああ、頭痛がする。

「あっ、悠さん、次はアリス何某の番みたいですよ?」

 悠はその言葉を聞き、振り返ると確かにあの白銀の美しい髪の少女が立っていた。

「アリスも四部隊なのか」

 再びロキはレイピアになり、ラインハルトの右手に収まる。

「アリスとラインハルトさんか…」

 己が知り得る最強の剣士とエースと言えるガンナーの戦い。固唾を飲まずにはいられない。

『本日の第四部隊模擬戦メインと言っては過言ではないでしょう。実況のキザイアです、ではではここでお客さんの紹介だ!昨日の戦いで見た人も多いでしょう!闇様、そして桂月悠!!どうぞ座って!どうぞどうぞ。遠っ慮しないっでっ!』

『なんで僕が?ちょっ、座らせるな!押すなって!いいよ!座ってるだけだからな!』

 何故ここの、周りよりちょっぴり良いスペースに招待されていたが、こういう事か…

『こちらの用意出来ました!アリスさんこっち睨まないで!相手はあちら!まぁ皆さん待ちわびていると思いますので早速参りましょう!!』

『…』

『悠さん、何か仰って下さい』

『えっ?何でお前まで乗り気なんだよ?あー、えと、頑張って下さい』

『じゃあ始めます!!試合、開始ッ!!』

 アリスがすかさず二丁のアサルトライフルを撃ち込む。

 対するラインハルトは羽織っていたローブに隠れる。

 魂の波長を込めた弾丸は意図も容易く布地を貫く。

 しかしそこに既にラインハルトの影は無かった。

『おおーっと、いつも通りのトリッキーな戦い方をしますね?悠、彼は何処に行ったと思いますか?』

『こっちが聞きた…あっ』

 ラインハルトは既にアリスの背後を取っていた。

 だが、簡単には遅れは取らないのがアリスだった。

 状態を反り、いつの間にかアサルトライフルを反動の小さい二丁の拳銃に変え再び撃ち込む。

 しかし少しラインハルトが体を揺さぶると同時に全ての弾がアリスの方向へ向かう。

 アリスも弾の軌道を読み、なんとか腕や脚を掠めて躱すのが精一杯であった。

『今のは…』

『なぁーんと、全ての弾を弾き返した!!いや、ただ単に弾き返したんじゃない事は明白、高速で弾の向きを変えている。それだけだと弾の先が違うだけで力の向きは未だ彼の方向に向かうこととなります。ラインハルトは向きを変えただけでなく、剣の柄で弾にかかっている力の倍以上の力で押し返したんです!!』

『じゃあ何で態々弾頭の向きを変えたんだ?』

『殺傷能力ゥ…ですかね?悠さん、チップス食べます?』

 今度はラインハルトが突っ込む。

 アリスは近距離を相手しなければならない。迫り来る突きの猛攻に二丁の拳銃で受け流す。

いや受け流すだけじゃない。拳銃をトンファーの様に使い攻撃も織り交ぜている。

 凄い…昨日の戦いが嘘の様だった。本気を出すと言っておいてまだ力を隠していたのか。彼我の実力の差を思い知らされつつも、それを全ていなし続けるラインハルトと言う男の実力は如何程なのか。実力の底が知れない。

 アリスの拳銃が銃口を上にしながらアッパー。ラインハルトはスウェーで躱したが、今のはフェイントで本当の目的は喉元に突き付けている形、この状況下で引き金を引く、その一点にあった。

 次はラインハルトが仰け反る番だった。

 弾丸はラインハルトを逸れて飛んで行った。

『あーっとアリス決定的なチャンスだったぞ!!撃つ瞬間拳銃そのものを剣の柄で跳ね上げたようだ!』

『確かに決定的だな。というか煽るような実況よろしくないと思うんだが…』

『あっ、飲み物は、はい。コーラで』

 ラインハルトはそのまま左手を地面に着き片手で更に距離を取る。

 そして、体勢を整えるとその場で決めに行った。

 全力で踏み込む。

 一瞬判断に遅れたアリスの喉元には既にレイピアの切っ先があった。

 アリスは悔しさで歯噛みしながら、というか怒りではないか?という視線をこちらに移す。

『ここで試合終了だ!!アリスらしくない最後でした!!今回の反省を踏まえ次の試合の糧にしましょう!!以上実況のキザイアと同じく実況の悠でした!闇様、悠もお疲れ様!!』

『お疲れ様です。明らかに実況が関係したな』

『ずぞぞぞ』

『お下品』


 実況席を後にするとラインハルトについてキザイアに聞こうとすると

「ほほう、僕のことを話しているようだね。どこまで話したキザイア?」

 と、ラインハルトさんをほっぽり出して邪神の降臨である。

 違う違う、お前の話などしていない。

「いえ、今から教鞭を執ろうとした所です」

「んっんー、ダメですね全然。僕の素晴らしさをキチンと伝えておいてくれなきゃ困るよ?まあ、すぐに消えそうな若輩者は嫌いだよ。早く強くなって僕らに楽させておくれ」

 うわ、また強烈なキャラだ。

「でないとヘイムダルにやられそうだしね」

 無性にムカついたので少し噛み付いてみると、面食らった様ではあるが、直ぐに

「まあ僕の中でも『最弱』の名を冠する闇に選ばれた事を後悔しないようにね?後、僕はヘイムダルには負けてはいないちゃんとアイツを殺した」

「相討ちだけどな」

「くっ」

 こっちは向こうを知っている分強みとなった具合だろう。何するものぞ!ロキの口論!

 ロキがキザイアに励まされる様を闇が笑いながら、私が最弱ぅ?人間に口喧嘩負けるロキには言われたくありませぇん、と煽っている。

 やっぱコイツら最悪な部類だろ。邪神の中でも。

「何?もう喧嘩したの?早いよ。ゴメンね、悠君だよね。アリスとの試合観てたよ。初めてであれはすごい!」

 ラインハルトがやって来るなり賞賛の声を上げる。

「ありがとうございます。でもさっきの試合観ていましたけど、あー、ラインハルトさんでいいですか?」

「そんな固くならずに。そうそう名前にハルが付く仲間じゃない」

 底抜けに明るい。やっぱりこういう人には眩しさがある。

「うーんラインハルトって愛称的にはライニーだけどハルでいいよ。そのほうが日本人らしくて言いやすいだろ?」

 今まで変人や変神ばかりと接していたせいかこの人の優しさにジーンと来るものがある。

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