1 邂逅 その4

 このイヤに話し好きなナイスミドルな神父とあの箱、正確には箱の中の小さな多面体の石から出てきた燃える瞳をしたこの少女から推察するに、

「恐らく貴方がナイ神父。で、君はたぶん…、闇をさまようものか?」

 忌々しいかの海に沈みし邪神の復活を企むモノの名と先の多面体より召喚される光を嫌うモノの名を唱えた。

 そのどちらも同じ神格の一つの一面に過ぎず、その闇色の彼方に存在するかのような神格の名は、ナイアルラトホテップ。

 他にもニャルラトホテプ、ナイアーラトテップなど呼び名としてある。

「ザッツラーイ!その通りですよ!悠君」

「そうです。正解、おめでとうございます」

 ふと少女に対して疑問が、

「さっきから明るいぞ?この部屋も」

「大丈夫です。物語と言うものは時に誇張して書かれるものです。この程度の明かりなら問題ないですよ。事実、先程の一戦で古塔の中といえども陽の下に出ましたし」

 納得がいかんという表情をしていると、

「クス。まあ限度というものはありますけどね」

「でも、エドマンドの時は逃げ隠れしていたじゃないか」

 衛星の一人、正統後継者と名高いロバート・ブロックの『尖塔の影』を思い出す。

「何事も一回で終えてしまってはつまらないじゃないですか。じわじわと這い寄らなければ。それにロバートさんが折角与えてくれた配役、全身で表現しましたとも!」

 あんぐりとしていても進展がないのでもう一つこいつらの事で、

「お前ら確かに同一の存在だけど私って言い合うこの状況、紛らわしすぎるだろ…」

「紛らわしいと言われましても」

「私は私で」

「私も私ですから」

 再び目眩が悠を襲う。

「じゃあナイでいいか?続きを」

 半ば、投げやり気味に話を先に進めることを促す。

「分かりました。どこまで話しましたっけ?ああ、あそこです。我々は古の時代より存在しているのです」

 存在していたらしい。

「では時に悠君。我々の父祖たる存在もご存知でしょうか?」

「アザトースだろ?」

 盲目白痴のであり、宇宙の中心にいるとされる言葉通り父祖たるモノの名を唱える。

 そのモノは世界創生からいたり、いなかったり、旧神に仇なしたり、しなかったりと、旧神てのは比較的人間に対して害がない神性のことだが、何処が盲目白痴か分からないような謎神性なのである。

 そしてこの世界はこの神性の見ている夢という話もあるとか、ないとか…。

「そう、その父上が王座を降りると言うのです。で第一後継者の兄上とその次の姉上は継承権を破棄しました。」

「宇宙の王じゃないか。お前らにはピッタリじゃないか?何でまた放棄するんだよ?そもそもなんでアザトースも降りるんだよ?もっと言えば、降りるも何も宇宙の王って役職存在したのかよ?」

「ありますよ?降りる理由は疲れたんじゃないですかね?」

 んな、適当な。

 王位だとかは全く無関心ながらも自らの責務を放棄するものにはついつい言葉使いが乱暴になってしまう。

「姉上は元々興味なかったみたいですけど、兄上は最近ですね放棄したのは」

「なんで放棄したんだ?」

「ダンウィッチの件以来もう興味をなくしたみたいですよ」

 聞き覚え、元い、読み覚えのある単語。『ダンウィッチの怪』。あぁ、兄上姉上ってのはやはり、あいつらか。

 兄上、ヨグ=ソトース。一にして全、全にして一なるものであり。異形の神々の副王と呼ばれる存在で時と密接な関係にあると言われている。

 姉上、シュブ=ニグラス。千匹の仔を孕みし雌山羊の異名を持つ。数々の異形のモノ達の母親にしてヨグ=ソトースの伴侶とも言われている。

 何故兄上、姉上なのかは先にアザトースに作られたからであろう。

 そしてその兄上とやらの失敗談に話を戻そう。

「あれだろ半ば人身御供のように忌々しい兄弟を孕ませたアレだろ?なんで、そんなので興味をなくすのさ?」

 とここまで来て自分への待遇、そしてかの活字上での事件の共通点に気づく。

 ナイの貼り付いた笑顔の口角が更に上がった気がする。

「にゃはっ!!素晴らしいッ!本当に察しが良くて話易い!我々ヒトならざる生き物は言わずと知れた不死と呼ばれる生き物。ですが一点を除いての話です」

「もしかして人間が何か関係があるのか?というか、あるんだろうな…」

「その通りです。人間という種族は、弱きを挫き強きも挫きで、この星のテッペンを獲ったつもりでいる。まあその点はその後没落したりしても結構ですが、種が必要なのですよ。人間というこの星特有の霊長の種が。ここでクエスチョンです。悠君も先程体験したでしょう?私、いや、あっちの私、闇をさまようもの、が攻撃した夜鬼は致命的とも言える胸を穿つ外傷を負ったのに倒れなかった。そして私が変わった武器、悠君の場合かっちょ良いポントーでしたが、それで切ったら倒れた。何故か?簡単なロジックですね?我々は何故か無闇やたらに殺し合えない関係にあるのですよ。だが、この星、地球の生物を間接的に噛ます事により、殺すことが出来るのです。何故このような複雑な秩序ルールにしたんでしょ。正に愚父。ああ脱線しましたね。兄上が放棄した理由がここです。ハイブリットを作ってみたかったのでようね。だが、失敗に終わった。一方は少し知に長けただけ、片やあそこまでの世話が必要だった。正に高コスト且つ低リターン。嗚呼、愚兄。嘆かわしい。そんなことを愚兄がしている間我々は貴方達が猿に毛が生えたと言っても猿は毛だらけですが、その毛が生えた程度のヒトが洞窟で暮らして、夜空を仰ぎ見る有史以前から関係を深めているのに。未だハイブリットの特例はほんの一握り。まぁ関係と言っても恐怖の対象としてですがね。恐怖と言えばラブクラフト君も自身の本に綴っているではありませんか。恐怖は人類の最も古く、最も強烈な感情だと。だと言うのに分かっているのは噛ませて殺す。ここで我々の推測ですが、似た力があの忌々しい旧神にもあるのですよ。ですが奴らでさえ封印するのが精一杯。まあ私達は封印を逃れたんですがね!だから統括をすると、封印よりも強い破壊の力を持つ君達人間が必要なのですよ。」

「長い!!紙幅考えろ!」

 目眩どころかこめかみ辺りがズキズキしている。

「分かりやすくしたつもりでしたけど分かりませんでしたか?ところで紙幅とは?」

「分からん。分かりたくもない」

「では、もっと簡単に言えばいいんでしょうか?」

 闇をさまようものの方のナイアルラトホテップが、いや長いなこの名詞。まあそっちが口を挟んで来た。

「一応それで頼む」

「つまり私達が武器に姿を変えるのでそれを使って敵をボコスコやっちゃってください」

「簡潔過ぎるわ!」

 思わず突っ込んでしまう。

「自分で頼んだのに!?」

 大げさなジェスチャーで驚く闇をさまようものの方の…長い。

「まあ分からないけど分かった体で続けるけどなんで僕なのさ」

「良い質問ですね」

 先程話をしていた時くらいまではナイの口角は戻っているだろう。

「話を続けますよ?何故悠君なのか、という問いですが私、いやここは便宜上クロちゃんなんかどうでしょう?ああ勿論あちらの私です」

「どう思う?」

 一応本人、もとい本神にも確認してもらう。

「自分でセンスを疑います」

「ヒドイっ!!」

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