こたつ来てから

 あのたこ焼きを車の中で食べることはなかった。

 警察が隠れていたからだ。

 冷たくなったたこ焼きを家に帰って温め直して食べてみる。

 ちゃんとした所のでなくても長年作り続けているからだろうか、美味しい。

「もうすぐボジョレー・ヌーヴォー解禁日なんですね」

「何だ? 急に」

「いやいや、いつもこの時期って飲む? って聞かれるんですよ」

「誰に?」

「お隣だった人に」

「ふーん……」

「タダで手に入るんです! ほら、あのフランス語? のプリントシャツくれた外人の子の親戚が持って来てくれるんですよ。お世話になってますって」

「ふーん……」

 今年はくれないかなぁ……と天上は言って、洗濯物をやらなくちゃ! と自分の部屋に入って行った。

「ボジョレー・ヌーヴォーが飲みたいっていうアピール?」

 それぐらいでしかない関係に俺は終わりを告げて夕飯は何にしようかと考える。

 鮭とキノコとニンニクいっぱいのバターソテーにでもしてみるか。

 何となく天上の好きそうな感じになってしまったと思っても止められない。

 どうせ、あいつはこっちのご飯なんて食べないんだし。

 朝なんてレンジで少しチンする大量のバターと醤油かけご飯なんて物を食べていた。

 何だか見てるだけで気持ち悪くなってしまったが、天上は美味しそうに食べていた。

 だからって、それを食べたいとは思えなくて、これは対抗心なのだろうか。

 はぁ……。

 ここに天上が居たら、お疲れですか? とか言って、何をするのか考える――その時点で負けか。

 空になったたこ焼きのパックをゴミ箱に捨てて、手を洗い、エプロンをし、作り始めることにした。


 天上、念願のこたつが来たのは予定より数日早い花金はなきんで残業続きの俺を見向きもしないで今日は仕事しません! と帰って行った。

 課長には男でも出来たのか? と言われていたが、それを伝える義理はない。

 家に帰るともうこたつは出来上がっていて、天上もラフな格好でそのこたつに入っており、テレビは付けっ放しでぐっすりと寝ていた。

 部屋は確かにエアコンが動いていて暖かいが。

「起きろ。風邪引くぞ」

 と言うには義理が生じていて、それでも起きない彼女を起こすことは俺にはない。

 テレビを消してから部屋に行き、スーツからラフな格好になる解放を得て、明日は掃除をしようと決め、夕飯の準備をしようとキッチンへ向かう。

「んー……あ、何かテレビ付いてたと思ったんだけどなー」

「俺が消した」

 間髪入れずの俺の声に彼女は一瞬驚いて。

「おっ、帰って来られてましたか、お疲れ様です、柳瀬さん」

 と言った。

「本当、お疲れだよ。お前もこたつ、温かいのは分かるけど、寝るのはどうかと思うぞ」

「いやー、明日の晴れ間を思ったら眠くなってしまいまして。どう考えても気持ち良いですよね。日光の中のこたつ」

 熱いと思うが……とは言えなくて、黙ったままにしておいた。

 真冬なら良いかもしれないが、まだまだそれには早い気がする。

「明日は掃除をするからな」

「あー……はい、私もしようと思ってたんですよ。日曜とかに」

 これ絶対しないパターンの言葉だな……と思いながら、冷蔵庫の中を確認する。

「鍋、良いですよね。鍋」

 のほほんとそんなことを言って来て、俺に作らせる気か。

「こたつ効果か? それ」

「あー……そうですねー。こたつ買わせていただき、ありがとうございます」

 調子良いやつ。

「まあ、こたつも良いもんだしな。正月とかこたつってイメージ」

「正月と言えば! 柳瀬さん、実家に帰ったりします? 正月休み」

「しないよ。まあ、ちょっと電話するくらい? 去年は行ったけど。今年は行かないな」

「何でですか? ご両親は会いたいとか思ってるんじゃないですか?」

「思ってないだろ。また別れたの? 違う女? とか言われない為だ」

「えー……、そうですか」

 それ以上は言って来なかった。

「今日は何を食べるかな?」

「そうですねー、私はシチューが良いかなー」

「シチューね、俺はビーフシチューにしようと思う」

 言うと思った! という顔をされた。彼女の食べる物を食べるというのはまだできない。

「良いだろ、食べたいもん食べるのが一番なんだから!」

 と俺はビーフシチューを作る為に手にする。

 肉とそれから……。

 天上の方を向けば、彼女はこたつでまだまったりしている。

 その中はとても暖かくてぬくいんだろう。

 入りたい……そんな気持ちが少し頭を過ぎった。

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