Sorty.58 こちら白雪姫。提督を援護する


 ユキは耳を疑った。


「え? リッカ……いまなんて?」


〈第19戦闘飛行隊は半ば壊滅かいめつ、生き残った機体も敵に追われてる!〉


「どうしてよ?」


〈わかんない。海側から突然、超音速で敵の戦闘機がやってきて、ちょうどそこに第19戦闘飛行隊がいて、第19戦闘飛行隊はエンゲージ戦闘開始を宣言して、近距離での格闘戦ドグファイトになったの! 山側から敵が来るはずだっていわれてたから、背後を突かれて、あと……あと……データリンク、壊れてるよね。どれから説明したらいいんだろ〉


 ユキが訊ねると、リッカは機銃のように、勢いよく一気に話しはじめた。

 内容は時系列が前後したりと混乱したものだったが、何が起きたのかユキは大体把握できた。

 特に、海側から敵が現れた、という情報について、ユキは心当たりしかなかった。


「薄花桜」


 まくし立てるリッカの声をBGMに、ユキは問いかける。


《どうした?》


「これ、薄花桜たちが逃した部隊だよね、間違いなく」


《その可能性は、高い。戦闘が起きていることは既に感知していた》


「いつから」


《……高高度にいたときから》


 何こいつ。あっさりと言ってのける薄花桜に、ユキは軽い怒りを覚えた。


「仲間を……見捨てさせたわけか」


 薄花桜は人間のことをよく知らない。

 そして、そもそも海洋都市同盟空軍の味方ではない。

 単純に、ユキに対する友情でニューポート空爆阻止そしをしただけの存在だ。


《すまない。だが、ユキがどちらなのか確認しておきたかった》


「……いいえ。わかってるよ。薄花桜には命を助けてもらったことがあるけど、あくまで私の味方で、知り合いってだけ。空軍に対して味方して、と頼むことはできても、断れる立場だし」


 薄花桜の行動理由は、ユキ個人に対する好意だ。

 軍という集団に対して援護を行え、と要求

 しかも、それは彼らにとって人間を助けるのが正義だから、というわけではなかった。

 生存のための狩りだったのだ。

 別に獲物をとらなくていいなら、参加しなくていい、と思う程度の。

 薄花桜に空軍の味方をしてほしいと思う方が筋が通らない話だ、とユキは冷静な頭で結論づける。

 それでも感情は収まらない。

 ダメでもともとだ。ユキは薄花桜に聞く。


「やっぱり、虐殺以外には介入できないの?」


――虐殺を放置することは出来ない。出撃せよ。


――否。これは戦闘である。戦闘には干渉しないというのが我らの大綱である。


 ユキとボーパルバニーが初めて出会った空戦で耳にした、”総体”と薄花桜の会話だ。

 大綱は、チェレステのリーダーを言いまかす根拠になるほどのルールのようだ。


《構わない。戦闘への介入が認められていないわけではない》


「その虐殺と戦闘の違いって、何なの?」


《……暫定ざんてい的に決めているだけの基準》


「変えるかもしれないってこと?」


《大綱は、生き残るための行動基準。規則ではない。反した、と多くのものが判断したら場合は制裁を受けることもある。だが、個体として行動するときは、基準の適用は個体の判断に任せられる》


 法律のようなまだるっこしい言い方だ。

 だが、勝手に食堂の物を飲み食いすると児童養護施設の職員に怒られ、一食抜きになる程度のことなのだろうとユキは分かってしまった。

 同時に、このような言い回しを用いるということは、”総体”が薄花桜の行動を監視し始めたのだろうとユキは当たりをつける。

 それでも、薄花桜の言いたいことは分かった。

 ユキはニヤリと笑う。


「つまり、派手すぎなければ好きにしていいってことだね!」


《無論》


「おっけ!」


 リッカの話はまだ続いていた。


〈で、僚機のヴィラール少佐はオーバーシュートしちゃって戦域からはじき出されちゃって、その時アフターバーナー使ってたせいで逆に距離を開けられて……ってさっきからこそこそ何?!?! ユキ、私の話、聞いてる?〉


「あーはいはい、要するにバーグ少佐がピンチってことでしょ!」


〈聞いてないじゃんユキ!〉


「スノーホワイト、これよりアドミラルバーグ少佐を援護するために行動する! リッカ……じゃなかったカシオペアリッカ少尉、空域の指示を願う!」


〈はいはいわかりましたー!〉


 空でパイロットがお互いを呼び合う名前、 TACネームでユキはリッカを呼ぶ。

 リッカは戦闘が行われている高度、機数などを口頭で伝える。

 ユキはそれを復唱。薄花桜がユキの言葉を聞いて進路をとる。


〈以上。バーグ少佐には、こちらからユキは味方だと伝える。オーバー〉


「ありがとう」


《そろそろ、言われた通りの空域だが……どこだ?》


 ユキは見張りを行う。

 薄花桜は空戦を感知できるが、敵味方がわかるわけではない。

 つまり、レーダーが壊れて、視界が制限された状態で戦うようなものだ。

 だが、チェレステはレーダーに映らない。

 しかも、チェレステはその名の通り空色チェレステだ。

 つまり、天然の迷彩色である。

 相手に見えないのはこちらも同じだ。ユキは目をこらす。

 ピカリ、ピカリと空の1点が連続して光った。

 ゴウ、と激しい風の音。

 戦闘機だ。

 遠雷のような音はあっという間にユキに近づく。

 灰色のやじりがユキの右をすり抜けた。

 その後を銀色の円盤が続く。


「薄花桜、円盤の方を!」


《ああ》


 無音で円盤側のコックピットがつっ、と前にすべる。

 赤く染まったキャノピがずるりと機体から落ち、ニューポート郊外の雑木林に吸い込まれていく。

 操縦士を失った敵機は陸を飛びこし、海へと突っ込んでいった。

 水柱が立つ轟音。

 ユキはそれを確認することはなく、斜め上方を見上げてラフに敬礼。

 バーグ少佐がそこにいた。

 バーグは右手の指を2本立て、中指を折って一本にし、空を指差す。

 その先には、ユキめがけて急降下してくる敵機の姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る