Sorty.38 第1波と罠

 ユキが空間識失調から回復して5分もたたないうちに、レシーバーから緊迫した通信が流れ出した。


〈こちらエアリエル。敵編隊を感知。機数は約30。敵ストライクパッケージの本隊と思われる〉


 データリンクによってディスプレイに無数の赤い輝点が湧き上がる。

 赤は敵だ。敵は蚊柱のように密集しているのに対して、味方は数こそ互角だが、分散してしていた。

 HMDに敵へ向けての進路表示が現れる。


〈自動操縦に切り替えますか? マスター?〉


「相手の予想される武装は?」


〈チョイダット基地の空爆と予想します。戦闘機対策より対地装備を重視していると思われるので、対地装備、中距離ミサイル、短距離ミサイル、ガンってところでしょう〉


「わかった。中距離ミサイルの最大射程まではぬいぬいに任せる。もし飛んできても、自動回避でなんとかなるでしょ?」


〈もちろんです、マスター!〉


「ラジャ。ユーハブコントロール、ぬいぬい」


〈アイハブコントロール、マスター〉


 自動的にアフターバーナーが点火される。

 できる限り早く戦域へ辿り着くべきだ、とぬいぬいは考えたようだ、とユキは感じる。

 同時攻撃ではなく、時間差がある攻撃になりそう。

 大量のミサイルを同時に殺到さっとうさせ、敵の対処能力のキャパシティーオーバーを狙う同時飽和攻撃どうじほうわこうげきではなく、五月雨さみだれ式に絶えずミサイル攻撃を行うことで、敵のパイロットにストレスを掛ける戦術を選んだようだ、とユキは考える。

 無人機相手なら通用しないが、無人機はなぜか国際条約で禁止されている。

 時間差攻撃は戦力の逐一ちくいち投入という愚策ぐさくと紙一重だ。

 しかし、人間相手であれば、絶え間無さは有効な戦術となる。

 人間は、絶え間ないストレスに耐えられるほど丈夫ではない。

 コンピュータは一つ一つの事象を別々のものとして、無心に決められた通りの手順で処理していける。

 コンピュータが対処不能になる時は、彼らの人間などとは比べ物にならないほど優れた計算能力を超える数の敵に襲われた時だけなのだ。

 同時飽和攻撃どうじほうわこうげきは、人間にもコンピュータにも有効なのだ。むしろ、唯一コンピュータを倒せる可能性があるのが同時飽和攻撃どうじほうわこうげきだとも言える。

 だが、人間は連続した時間の中で生きている。

 単調な回避作業であっても、間違いなく人間であるパイロットは消耗しょうもうしていくのだ。


〈マスター、ミサイル射程範囲です。ユーハブコントロール〉


「アイハブコントロール。一定の距離を保ちつつ、エアリエルの指示を待つ」


〈ラジャ〉


〈こちらエアリエル。武器使用の制限を解除。各機、戦闘空域に到着次第戦闘開始せよ〉


 エアリエルからの通信と同時に、ユキの愛機自体のレーダーも敵機を感知。

 同時に警告音。


〈マスター、敵、ミサイルを発射しました!〉


「わかった。スノーホワイト、タリホー敵発見エンゲージ戦闘開始!」


 エアリエルに向けて通信。

 ユキは中距離ミサイルを発射。

 続いて、増槽ぞうそうを切り離す。愛機が明らかに身軽になる。

 ユキと同時に味方数機もミサイル発射。敵機を表す輝点が若干じゃっかん消滅。残り20機ほどはまだ健在。

 ユキは敵と距離を詰め、短距離ミサイルを発射。

 敵は回避行動に。その動きに、ユキは違和感を覚えた。

 不器用というか、単調というか。まるでシューティングゲームのNPCのような、機械が動かしているような。

 初心者パイロットなのだろう。きっと。ユキは有視界戦闘へ。

 敵機はどこだ。

 レーダーをにらみつける。暗視あんし補助装置の助けも借りて、敵の影を探る。

 星が不自然に減っている場所はないか。

 空間がゆがんで見える点はないか。

 味方も続々と集まりつつある。負けることはないだろう。

 ユキが気合を入れ直した次の瞬間。

 ミサイルアラートが何の前兆もなく鳴り響いた。


「ぬいぬい! チャフ! フレア!」


〈やってます!〉


 ユキはとっさに暗視補助装置をオフ。

 ユキの後ろで、チャフかフレアをユキと勘違いした敵ミサイルが爆発。火球が闇夜に膨れ上がる。

 その炎が、敵機を照らし出した。

 コックピットのない、パンケーキそのままの平たい機体。

 無人機だ。

 ユキはとっさに機銃発射。ガンカメラに敵機の姿を焼き付ける。

 その機体には、すでにミサイルは積まれていない。

 じゃあ、あのミサイルはどこから。

 ユキの疑問に答えたのは、悲鳴のようなエアリエルの通信だった。


〈こちらエアリエル。敵本隊を発見! 先程の大編隊はおとりだ!〉


「こちらスノーホワイト。おとりの編隊は無人機。繰り返す。おとりの編隊は無人機」


 ユキが見たままを伝えると、エアリエルは恐慌状態になった。


〈事実か? 条約違反だ。あり得ない!〉


〈こちらアドミラル。敵機にコックピット確認できず。無人機の可能性は充分にあり得る〉


 聞き慣れた声。バーグ少佐だ。ユキは心強く思った。

 バーグ少佐も、無人機を見たのだ。私の目は間違っていなかった。

 直接顔を合わせることはできないかもしれないけれど、同じ空を飛んでいる。

 ユキの胸の奥で、何か温かいものが広がった。


〈こちらエアリエル。無人機は捨て置け。敵本隊はチョイダット基地へ向かっている! 迎撃せよ!〉


「ラジャ」


 ユキは旋回。機首を180度回してチョイダット基地方面へ。


 敵の戦法はこうだ。

 敵編隊にある程度接近したと思われる段階で無人機のステルスマニューバと無線封止をやめさせ、ユキたちにあえて姿をさらしたのだ。

 まんまとユキたちはそれに釣り上げられ、無駄にミサイルを消費し、敵本隊を無傷のままチョイダット基地に到達するのを見逃してしまった、というわけだ。


「ちくしょう!」


 ユキは歯噛みする。こればかりはいくら腕が良くても、上が馬鹿ならパイロットの無駄遣いだ。


〈ロリスキー! 背後に食いつかれている! ブレイク!ブレイク!〉


〈助かった。タイヤン、感謝する〉


 もう乱戦が始まっている。

 遠く赤く光って消えるのは、敵味方どちらの断末魔か。

 だとしても、生き残れる。バーグ少佐も、ぬいぬいもいる空だ。

 ここは、私の生きる場所だ。

 ユキはアフターバーナーに点火。戦闘空域に突入する。

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