Sorty.27 敵基地空爆

 勲章くんしょう欲しさに敵を殺したいのか、というバーグの問いかけは無意味だ。

 そんなことなどユキは思ったこともない。


「そんなことないです! 私は――」


 カフェを思い出す。

 腹が立って仕方なかったカップルの群れが、守るべきとうといものに思えてくる。


「私が育ったこの街を、守りたいだけです」


「俺もだ」


 バーグがくしゃりと笑う。耐爆扉たいばくとびらが彼の後ろで開いていく。


「セッター隊、油売ってないで準備にかかってください!」


 整備員が二人を呼ぶ。


「ラジャ」


 二人は救命装具室に向けて走り出す。

 既にユキは隊長の勲章のことなど忘れている。

 自分の進む先には、空がある。

 そこには、己の操縦技術しか存在しない。

 他人に与えられた金属片など、なんの価値も意味も持たないのだ。


 ▲


 敵基地攻撃部隊が、まだ星がまたたく空へと大地をって出発していく。

 手始めに、電子戦機5機。

 続いて、おとり放出隊が8機。

 そして、護衛機のガルーダ4機。計17機がまだ暗い空に舞い上がる。

 20分後、敵防空網制圧任務を負った8機の機体と、護衛機4機が離陸。


 5分後、ユキの番がやってきた。

 全ての点検を終わらせ、滑走路へ。

 ブレーキをしっかりと踏み込んでエンジン出力の最終点検。

 メインディスプレイに表示される数値、計器の反応、全てをもう一度確認。

 オールグリーン。いつでも行ける。

 大きくバーグがうなずく。

 ユキはブレーキを離す。

 編隊離陸、開始。

 アフターバーナーを入れて戦闘上昇。

 ガルーダ二機は地面を振り払うやいなや、鎌首をもたげる蛇のように緩やかな弧を描きながら鋭く高高度へ駆け上がる。

 加速しつつ雲を突き抜け、編隊を組む。

 高空には早くも柔らかな春の朝日が姿を現している。

 眼下には綿飴のような雲。

 曙光しょこうによって、オレンジ色やもも色、ぶどう色に赤色、黄色に彩られている。

 ふわふわもちもちして美味しそう、とユキは思う。

 ふわふわもちもち、といえばトラオレのパンケーキだ。

 ついでにユキは連想する。

 あの美味しいパンケーキを食べられる日常を守るためには、敵を殺さなければならない。

 そういうことだと、ユキは納得していた。

 本当は外交で、血を流さないよう解決すべきことだったのかもしれない。

 だが、それはもしもの話だ。


〈データリンクを受信。自動操縦に切り替えますか?〉


「ユーハブコントロール。戦域に入るまでは、任せるよ」


〈アイハブコントロール〉


 空に上がれば、若いユキとて生死の狭間はざまを機体と己の腕のみで駆け抜ける戦士だ。

 二度と着陸直後に吐くような無様ぶざまなまねは、しない。

 だが、人を殺したことも忘れない。

 仕留しとめた敵を覚えておくこと。誇り高くあること。

 それだけが、私にできることだ。

 ユキは自分にそう言い聞かせ、血のように赤く染まった空を眺める。

 遊覧などではない。

 敵機が現れてもおかしくないのだ。

 見張りを行うのはパイロットの基本どころか、生き残るために体に叩き込んだ本能である。

 ぼんやりと景色を眺めているように見えるかもしれないが、それは広い視野で空を観察するため。

 妙なきらめきや空間がゆがんだかのように見えれば、そこに敵がいる。

 空中給油を挟み、まだ平穏に敵基地攻撃部隊は着実に目標へ向かって進撃。

 ぬいぬいが短くアラームを鳴らす。


〈作戦空域に到達。自動操縦を終了します〉


「わかった。アイハブコントロール」


 ユキが操縦権を得るとほぼ同時に、早期警戒機から通信。


〈こちら早期警戒機エアリアル。第17戦闘飛行隊、作戦行動を開始せよ〉


〈ラジャ〉


 第17戦闘飛行隊、8機のガルーダが戦闘に入る。

 彼らは電子戦機の支援をうけつつ、敵防空拠点を片っ端から狩り出していく。

 敵防空拠点破壊任務はワイルドウィーゼル乱暴なイタチとアメリカ軍で呼ばれていた、というのも納得のアグレッシブさだ。

 第17戦闘飛行隊は小動物にらいつく捕食者さながらに、地上に潜む敵へ対地ミサイルを放っては着実に破壊していく。

 丘に擬装された対空ミサイル基地も、彼らの対地レーダーの目をごまかすことはできず、力なく黒煙を上げる。

 だが、イタチは狩られるのが宿命だ。


〈こちらエアリアル。敵の要撃機ようげきき発進。上空にも反応。第6戦闘飛行隊、囮ミサイルを発射せよ〉


〈ラジャ〉


 第6戦闘飛行隊が囮ミサイルを発射。

 航跡が空に淡く伸びていく。

 全ての囮ミサイルを発射。

 同時にチャフを散布し、レーダーで不可視の空域を作ると、第6戦闘飛行隊とその護衛機は帰投ルートへ。


〈第19飛行隊のうち、セッター隊は戦闘に参加せず、敵基地の観測とミサイルの誘導を行え。ハウンド隊は囮を叩け。他は上昇しろ〉


〈ラジャ〉


〈なお、これよりセッター隊は無線封止を行え。セッター隊各機は指示通りの角度から〉


「ラジャ」


〈無線封止だ、スノーホワイト〉


 早期警戒機の指示を合図に、攻撃部隊は三方に分かれる。

 第一に、第5戦闘飛行隊はチャフの回廊を通り、敵基地へと殺到する。

 彼らをめがけ、はるか高空から、敵の迎撃機群が降下を開始。

 第二に、それらから第5戦闘飛行隊を守るため、護衛機のガルーダが急速上昇。空中格闘戦が始まる。

 第三に、ユキは戦闘に参加せず低空をう。

 今見つかるわけにはいかないのだ。

 ユキのレーダーに感。

 垂直上昇する飛翔ひしょう物体。反射パターンからミサイルではなく戦闘機、とぬいぬいが自動的に判定。2、3、4機。

 早期警戒機が言っていた要撃機ようげききだ。ユキは接敵しないようルート変更。

 新手あらてに対し、ヴィラールのセッター隊と、敵基地攻撃部隊の護衛機2機の合計4機が敵機に食らいつき、4対4のドッグファイトが始まる。

 そのすきにユキは敵の防衛ラインを超低空超音速で突破。

 別方向からバーグも敵防衛ラインに侵入。


〈こちらエアリアル。攻撃準備完了。データ送れ〉


 ユキは無言で目標手前で急上昇、目標を確認して電子照準。敵基地は必死の電子戦を行い、対地攻撃システムと、攻撃用データリンクを起動。

 ロックオン。

 ユキはリンクを通じてデータを対地攻撃を受け持つ第5戦闘飛行隊へと転送する。

 彼らはユキの情報を対地ミサイルにインプット。

 ミサイルの射程に入るとただちにミサイルを放って離脱。スタンドオフ攻撃だ。

 第5戦闘飛行隊は全力で退避する。

 突然強風が吹いた。ぐらぐらと機体が揺れる。

 ユキはレーダーを確認。チャフが吹き散らされて不可視の回廊が消えかかっている。

 今や、第5戦闘飛行隊を守る煙幕はない。

 高空から、彼らを襲わんと、敵機が距離を詰めている。

 第5戦闘飛行隊にはリッカがいる。彼女を守りに行きたい、とユキは思う。

 だが、ユキの仕事はこれからだ。私情を捨て、ユキはタッチパネルを操作する。

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