Sorty.23 かわいいパンケーキ屋でデート?!

 数回の任務を終え、ついにやってきた非番の日。

 ユキはリッカ厳選のコーディネートに身を包み、正門前でバーグを待つ。

 待ち合わせ時間ぴったりに、見慣れた姿が現れる。


「すまない、待たせた」


 心なしか普段より整っているダークブロンドの短髪に、いつも通りの理科実験のコーグルのような、フレームとレンズが一体成型の透明なメガネ。

 黒いジャケットの下は暖色のTシャツ。

 グレーのスラックスに茶色の革靴。普通のファッションセンスだ。


「上官を待たせる部下なんて、軍隊としてありえないですからーっ!」


「男女逆ならラブコメだな」


「上司と部下の関係、ですから!」


「それはそれとして、犬養の私服、なかなかイカしてるぞ。スカートならもっと良かった」


「私が着たいものを着てるだけなので! 付き合ってるわけでもない男性の好みなんて考える義理はないのです!」


 バーグの言葉に、ユキはくちびるをとがらせる。

 紺色こんいろの半袖の薄いセーターの上に同じ色のカーディガンを羽織はおったアンサンブルニット。

 ボトムはさわやかなミントグリーンのワイドパンツ。

 足元はベージュのローファー。

 スカートだったらどんな男でもイチコロだから、ここはあえてのワイドパンツ、とリッカのチョイス。

 着こなしのことなどさっぱりわからないユキにも、オシャレだとわかる組み合わせだった。


「すまん。似合ってると言いたかった」


「もー、素直になってくださいよ隊長」


 私服は古着ばかりだったせいで、ユキには流行りがわからない。

 今日の服は、ニットなら多少伸びるから着られる、とリッカから借りたものなのだ。


「あのー、外出するんだったら、さっさとデートに行ってくださいよ! これ見よがしに仕事中の人の前で自由を見せびらかして! それにこちとら彼女いない歴と年齢が一致しているので! 目の前でいちゃつかれると寂しさがこたえるんですよ!」


 二人が言いあっていると、門番もんばん警衛けいえいが声をかけてきた。


「デートではない!」


「デートなんかじゃないです!」


 同時に言って二人して顔を見合わせる。

 警衛けいえいは鬼気迫る表情で小刻みに震えていた。


「わかったから! さっさとうせろ! 俺に対する嫌がらせかちくしょう! 不適切行為で外出禁止出すぞ!」


 ユキとバーグは逃げるように街並みへと駆け出した。

 車が通る大通りを曲がって、屋根で覆われたアーケード街を海側へ。


「ここだ」


 ユキはそのカフェに見覚えがあった。

 白塗りに青いドア、大きなガラス窓。

 ドアの横の窓ガラスに、営業時間や【NO SMOKING】の文字が白ペンキの洒落た続き文字で書かれている。


「ここ……テレビで特集されてましたよ。隊長も見たんですか?」


「初耳だ」


 ドアをくぐると、ドアベル代わりの風鈴が澄んだ音で二人の来店を告げる。

 店内はにぎわっていた。ユキはまわりを観察してみる。

 壁は柔らかなシャーベットカラーで塗られている。

 ログハウス風のはりから、鈴蘭すずらんのようなかわいらしいランプが店内を優しく照らす。

 この内装は、明らかに女性向けだ。

 確かに男一人では入りづらい。こりゃ私を誘うわけだ。ユキは納得がいった。

 すぐに店員がやってきて、二人は席に通された。

 プリンセスが愛用していそうな、アンティーク調の、あめ色の猫足のテーブルと椅子。

 なお、ユキの目の前でその椅子に座っているのは、30歳の居心地悪そうなガタイのいい男パイロットなのだが。

 テーブルには、メニューや紙ナプキン、調味料が入った小じゃれた瓶。

 とどめに、可憐かれん紫の小菊が咲く筒型のガラスの一輪しまで置いてあった。

 ユキはあざやかな写真と丸っこい文字がかわいい手書きのメニューを手に取る。

 大人気のホットケーキのほか、サンドイッチなどの軽食から、パフェの種類も豊富。


「今までの詫びだ。おごる。好きなもん食え」


「ありがとうございまーす!」


 ユキは塾考じゅくこう

 普通は割り勘ばかりだが、最近おごられまくっている。

 嬉しいことには嬉しいが、ここまで立て続けだと、ユキには何かの前兆に思えてきた。

 だが、タダ飯のチャンスを逃したくはない。

 バーグ少佐には散々殴られてきたうらみもある。

 一番高いのを頼んで財布に打撃を与えるか、テレビで見て気になっていたものを頼むか。


「何を頼むか決まったか?」


「はい」


 バーグが店員を呼び止める。


「はい、何にいたしますか?」


「ブラックコーヒー、ホットで。あとはBLTホットサンド」


「私はフルーツクリームホットケーキと、アップルジンジャーティーソーダをお願いします」


 ウェイトレスが注文を繰り返す。


「以上でよろしいでしょうか?」


「ああ」


「はい」


「お飲み物は、いつお持ちしましょうか?」


「食べ物と一緒でいい」


「お食事と同時ですね。承知いたしました」


 ウェイトレスの後ろ姿をユキは目で追う。何とは無しに店内を見回すと、カップルだらけだということにユキは気づいた。

 男女の組み合わせがほとんどだが、女二人や男二人のテーブルもある。

 いずれにせよ、ユキとバーグ以外はむせ返りそうなほどに甘い空気をただよわせている。


「うわぁ……世界がぐちゃぐちゃになっても色恋沙汰いろこいばただけは昔から変わらないんですね……」


「そりゃ、遺伝子に子孫を残すための因子が組み込まれているからな。連れ合いを探したくなるのは当たり前だろう」


 バーグは涼しい顔でそんなことを言う。


「誰ですかそんなもん組み込んだのは……でもそう考えると、この店に集結してるバカップルたちは、自分の意思じゃなくて遺伝子に操られて人目を気にせずイチャイチャしてるわけじゃないですか。なんだかあわれになってきますね」


「それを言ったら人間の思考だの意思だのというものは、脳内の生体電気反応に過ぎない。遺伝子に操られるとはいうが、そもそも遺伝子と人間は不可分だ。人間がいるから遺伝子がある。遺伝子があるから人間がある。操られるとかいう次元の話ではなく、遺伝子による衝動があるからこそ存在があるのかもしれないな」


「おしゃれなカフェでする話ですか、ソレ」


 せめて色気のある話をして欲しい。別に甘い空気になりたいわけではないけれど!

 もっと楽しい、何が好きだとか美味しいメニューがなんだとか、そういうの。

 こういう場は科学的な話より、イチャイチャする方が似合ってる。上目遣いにユキはバーグを睨みつける。


「済まないな、浮いた話にはうとくてな」


 その苦笑いにユキの鼓動が速くなる。鬼教官、こんな優しい顔できたんだ。

 バーグ少佐とイチャイチャしたいわけじゃないけど!

 そういえばぬいぬいとも似たような話をしたことがあった。

 ユキは唐突とうとつに思い出した。

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