Sorty.22 リッカの選んだ道

 バーグ少佐が私のタイプ? リッカにとんでもないことを言われ、ユキはあっけにとられた。


「うわ、紅茶吹くとかきたない! 図星ずぼしだからってやめてよー」


 リッカがテーブルをきながら野次馬まるだしの顔でユキを見る。


「アレは無い無い!!!!」


 ユキは即座そくざに否定。


「見た目だけの話、だよ。見た目だけだったらあり? なし?」


「リッカ、野球分かる?」


「うん。都市対抗野球大会とか、親と見に――、あ、普通に好き。ルールとかも分かるよ」


「見た目だけなら内角高めストライクゾーン真ん中寄り」


「好みなんじゃん」


 気持ち悪いほどリッカの口元がゆるんでいる。これは散々いじられる前兆ぜんちょうだ。


「みーたーめーだーけー。はー、リッカ、それにしてもこのステッカー、素敵だね。デザイナーの才能あるよ」


「はいはい、見た目は好きなのね。ユキの強引な軌道修正、嫌いじゃないよ。ありがと」


 しばらくたわいのないおしゃべりをするうちに、話は空に向かっていった。

 リッカがため息をつく。


「敵は凄いよね。なんかものすごいエンジン使っててさ」


「本当にね……どうやったんだろうね」


「私さ、戦えない間に調べてみたんだけど、30年前まではビエンも、ジェットエンジンしかなかった」


「たしかに」


「でも、奴らはある日突然全く違う技術体系の動力を獲得した。何かがあるはずなのよ」


「三十年前といえば、地球全体に隕石いんせき落下があった年じゃん」


「ユキ、知ってるの?」


「生まれる前のことだから見たわけじゃないけど、私が生まれた町の近くに、三十年前の隕石いんせき落下で出来たクレーター湖があってさ」


「あー。オーシマ湖か。クレーターといえば、隕石いんせきはビエンを中心に落下して、難民とかなんだとかで大混乱になったじゃない? 研究開発とかに投資できる状況じゃないのに開発した、っていうのもおかしい」


「案外、隕石いんせきは宇宙船だったりして」


「まさか」


「だとしても、月その他の天体を含む宇宙空間の探査たんさ及び利用における国家活動を律する原則に関する条約があるから、海洋都市同盟にはどうにもならないよね」


 笑いあう。親友とくだらないことを言い合える場所にずっといたいとユキは思う。

 それでも、戦場から逃げ出したいわけではない。

 戦場は怖い。

 でも、薄花桜うすはなさくらに出会える可能性があるのは、戦場だ。


「まさかといえばさー、私、バーグ少佐にランチ誘われたんだよね」


「マジで?」


「大マジ。一緒に外出することになった」


「えー、どこ?」


「んー、それが、店の名前を教えてくれなかったんだよね。一人で入りづらい、とは言ってたんだけど」


「怪しい。ユキ、ラブホとかだったら速攻殴って帰ってきなよ。前科よりも貞操ていそうの方が大事だよ」


「えー、無い無い。堅物かたぶつのバーグ少佐に限ってそれは無いっしょ。それにしても、わざわざ貞操ていそうって言うあたり、リッカの物知りがにじみでてる」


「ありがと。ユキ、強いし。でもスカートはやめておいた方がいいんじゃない? 誘ってると思われたらヤバイかも。まあ、顔が好みなら、悪くもないんじゃない?」


「リッカやめてよー。絶対そうはならないって! ……まあでもズボンで行く」


「戦士同士、甘い関係にはならない、って感じなのかな」


 リッカの口調が、しみじみとしたものに変わった。


「リッカ?」


「私ね、配置、変えてもらうことにしたんだ。第19戦闘飛行隊から第5戦闘飛行隊へ」


「第5飛行隊って……旧式機の爆撃隊じゃない」


 現在、海洋都市同盟空軍は二種類のマルチロールファイターを運用している。

 ユキの乗る、最新鋭ステルス機、VA-43ガルーダ。

 そして、非ステルス機のUK夕雲工廠-11ヤタガラスだ。

 ヤタガラスの見た目は独特である。

 コックピットの後ろ側から生えた、ウサギの耳のような制御カナード。

 首脚ノーズギアと主脚の間に魚の腹ビレのように生えた垂直カナード。

 それ以外はクリップドデルタ翼に双垂直尾翼、双発エンジンと普通だ。

 カナード翼3枚を生やしたその異様な姿から、神話に出てくる三本足の鳥の名前が付けられたそうだ。

 たしかに機動性はいい。しかし、カナードが多いということは、レーダー反射面積が大きく、見つかりやすいということだ。

 光は鏡で反射するから、人間は鏡から反射した光で、自分の姿を見ることができる。

 レーダーは、電波を飛行機などの金属のかたまりにぶつけて、ね返ってきた電波から、相手がどこにいるのか観測するのだ。

 つまり、電波が光、飛行機が鏡、といったところだ。

 ステルス機は、機体に角度をつけたり、そもそも電波を反射しない塗装をすることで、見つかりづらくしている。

 鏡に例えるなら、ステルス機は角度を変えたり、曇らせたりした鏡といったところだ。

 レーダー反射面積が大きいということは、大きな鏡であればあるほど多くの光を反射し、ギラギラ光って鏡の存在がよくわかる、ということなのだ。


「爆撃隊だから。私、怖くてドグファイトはもうできそうにない。だけど、世界と戦う方法は失いたくない。だから、シューター役をやる」


 センサーとシューター。

 敵の前に進み出て、データリンクを用いミサイルを誘導ゆうどうするセンサーはガルーダの役目だ。

 そのミサイルを後方から撃つのがシューターで、ヤタガラスが担当だ。

 シューターはミサイル発射後戦域を離脱する。だから、基本的に格闘戦ドグファイトを行う事は無い。だが、リスクは存在する。

 確かに、亜音速で繰り広げられる命のやり取りは恐ろしい。ユキも吐いた。


「でも、非ステルスだよ? 見つかる可能性は高いし、爆撃隊の方が優先撃破目標なのは、リッカにもわかってるでしょ?!?!」


 リッカはユキの右手を両手で包み込む。やわらかい手のひらの感触と、確かな体温。


「守ってくれるよね、ユキ。学校の時みたいに」


「わからないよ! そんなの!」


 訓練学校もつらいことにはつらかった。

 でも、まだ自由にできる余裕があった。

 その余裕で、リッカを守ってきた。

 だが。戦場に余裕などないことが、初陣ういじんでわかってしまった。


「大丈夫。逃げるだけなら、私にもできる。ユキ――信じてるよ」


「リッカ……」


 澄み切った瞳で見つめられるとユキは何もいえない。

 守りたい。でも守れないかもしれない。何もわからない。凍りついたように動けない。


「まあ、それはそれとしてさ。戦闘服、選ぼっか!」


リッカの手が離される。ユキは首をかしげた。


「戦闘服?」


「うん! ユキの魅力を伝えつつ、変なことにならないコーデ、決めとかなきゃでしょ!」


 リッカにそう宣言され、ユキはコーディネートが決まるまでの数時間、着せ替え人形さながらにリッカにあれこれ服を脱ぎ着させられる羽目になったのだった。


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