Sorty.12 初陣の空へ!

 スクランブルの号令とともに、緩んでいた格納庫の空気が一瞬で凍りつくような殺気に変わる。

 格納庫の隅に掲げられたステータスボードにはSCスクランブルの赤いランプが点灯。

 その中をパイロットと整備員が走る。

 格納庫にはVA-43ガルーダ戦闘機が2機入っている。バーグとユキの機体だ。

 待機所側に1番機、その向こう側に2番機だ。ユキはバーグの機体の下をくぐり、愛機へ飛び乗る。

 右足をコックピットの中に入れるや否や、ユキは右手でJFS ジェット燃料始動装置を引っ張って回す。

 左手でヘルメットをかぶる頃には、もう整備員が機体の前に来ている。

 ユキは機体と繋がったヘッドセットを片手で持ち、右手でマスクを押さえながら、整備員とアイコンタクトをとる。


「ライトエンジンスタート」


「クリア」


 整備員が応える。エンジンの後ろには誰もいないのでエンジンを回しても構わない。

 ユキは右エンジンを回し始める。

 ユキはまず右エンジンのスロットルの下部にあるフィンガーリフトを引き上げてONに。

 JFSのアームがエンジンに接続され、JFSの回転力がエンジンに伝わる。

 ユキは回転数が上がるまでの間に肩のハーネスを通す。

 やがてエンジンの回転数が18%にまで上がったら、スロットルをOFF位置からアイドルレンジへ。エンジンに燃料が送られ、点火。

 ユキは肩胸と足のハーネスを留めつつ、タービン入り口温度計を見ながら正常に着火しているか、回転数が正常に上昇しているかをモニター。

 エンジンが正常にアイドル回転数に達し、JFSから延びていたアームが切断される。

 エンジンは自律回転を維持。

 右エンジンの始動完了。整備員が点検に入る。

 点検が終わると同時に、ユキは同じ手順で左エンジンを始動。左エンジンがアイドルに達すると、 JFSは自分の燃料を遮断し、回転を止める。

 左エンジンがアイドルに達する頃、ユキは完全に自分の体と機体を固定。

 整備員が愛機の点検と武装の準備を行なっているのを横目にユキはキャノピーを閉め、メインディスプレイをオンに。


〈マスター! ぬいぬい、起動済みです!〉


「ぬいぬい、自動診断開始!」


〈ラジャ!〉


 ディスプレイの表示が切り替わり、ぬいぬいは各モードが正常に作動するかを点検。

 情報が正確に入力されているかも確認。

 地球上のどこにいるかといった座標の登録など、ある程度電子機器のアラインが終えられているか。

 10秒ほどで点検完了の通知音が鳴る。


〈オールグリーンです! マスター!〉


「よしきた!」


 ユキはスティックとスロットルのスイッチを押していく。機体に異常が無いことを確認。

 兵装を確認。ボムベイ内に中距離対空ミサイル2、短距離対空ミサイル4。ガンの弾薬は満タン。

 INS イナーシャル・ナビゲーション・システムが今自分が地球上のどこにいるかを読み込んで座標計算を終え、発進可能な状態へ。

 整備員が、取り除いた武装と機体の安全装置のピンを掲げる。ユキはその本数をカウント。全て取り除かれている。

 ユキはOKシグナルを出す。整備員がそのピンをしまう。

 同時にもう一人の整備員が、目の前で結んだ両手を離すシグナル。


「ディスコネクトします」


 整備員の言葉とともに機体からチョーク車輪止めとケーブルが外され、整備機器と機体との通信が切られる。

 ユキの準備が終わると同時に、すかさずバーグが管制塔にリクエストタクシーコール。

 同時に、管制塔からスクランブルオーダーを受領。

 何度の方向に何フィートまで上がるか。

 どこのレーダーサイトとコンタクトを取るか。

 作戦中に使用すべき周波数はいくらから、

 バーグがそのオーダーを復唱。

 2番機のユキもオーダーの情報を太ももに固定したタブレット端末に忘れないようメモ。

 タキシングして出ていく。

 格納庫を出た後は、待機所から誘導路を経て滑走路へ。

 滑走路に入るとき、バーグが管制塔と交信。


〈レディ〉


〈クリアテイクオフ〉


 バーグはタキシングから止まることなく、そのまま上がっていく。ローリングテイクオフ。

 事前に決められた通り、5秒後に2番機のユキも出発。

 スクランブルオーダーに従い、アフターバーナーを焚き、地面を蹴飛ばして急速離陸。ぐんぐんと天頂が近づいてくる。

 しかし、ガルーダは空の果てに行くための翼ではない。空軍を構成する武器だ。

 ユキは2番機の位置へ。

 バーグ機に続いてスクランブルオーダーに従った高度と位置に機を持っていく。

 ユキのHMDにコマンドヘディングとかコマンドアルチュードが表示される。

 これはデータリンクシステムによって管制塔から送信されている指示だ。

 どの方位に向かって、どの高度まで上がるべきか、事細かに教えてくれる。

 十分に機体が上昇し、ぬいぬいが短く通知音を鳴らす。


〈マスター、データリンクに従い、自動操縦を開始します〉


「わかった。ユーハブコントロール」


〈アイハブコントロール〉


 メインディスプレイ上にAUTO CONTROLの文字列が浮かび上がる。

 データリンクは、最終的な相手機のところまで機体を誘導するものだ。

 自発的な操縦は必要無いため、自動操縦に切り替えることが推奨されている。

 自動操縦に切り替えてしまえば、パイロットは接敵まですることがない。遊覧飛行状態である。

 正直、暇。でもラジオを聴くような気分でもない。

 ユキがそう思った時。

 コックピットに明るい音楽が鳴り響いた。

 とっさにユキはラジオを確認。電源は切れていた。


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