Sorty.6 ファイツ・オン!

 模擬空戦の用意は整った。

 ユキは訓練空域の端で待機。バーグの戦闘開始の号令を待つ。


《ファイツ・オン!》


 訓練開始の号令とともにユキはレーダーの捜索範囲を最大に。メインディスプレイをタッチ操作。

 さながらタブレット端末だ、とユキは思う。

 AIの発達によって戦闘機の操縦は過去のカジュアルな空戦ゲーム並み、と言われるようになった。グランドピアノ二台を同時に弾くような超人的な操縦技量が必要だったのは過去の話だ。

 反面、マシンから提供される情報量の増加へ対応し、従来の戦闘機よりも広い視野で戦闘領域を見るという視野の広さを求められるようになった。

 だが、まず相手を見つけるのが空戦だというのは変わらない。

 様々なノイズから、敵機と思しき反応が割り出される。


〈高速移動中の影を発見! 敵機です!〉

「わかった!」


 相手の進行方向からレーダーの死角を割り出し、死角を縫うようにして飛ぶ。

 小刻みに進行方向や機体の角度を変える。

 ステルス踊りとも呼ばれる空戦機動だ。

 見られることのないよう、ユキは二つの青の狭間を繊細に舞う。

 海面の波に乱反射するレーダーノイズにまぎれるため、ユキは高度を落とす。

 位置エネルギーは得られないが、相手から姿を隠すには絶好の場所だ。

 戦闘機は先に相手の姿を見て、素早く攻撃態勢を取れたものが勝つ。

 まだ射撃管制レーダーの継続的なビームは感知されていない。

 飛び石から飛び石へそろりそろりと足を進めるようにレーダーの死角を渡る。

 ステルス機はレーダーに映りづらいといっても、透明になったわけではない。

 せいぜいステルスこっそりのとついている通り、機体の角度を工夫して敵のレーダー波をあらぬ方向に反射することによって、敵から探知されにくいようにしているだけなのだ。

 バーグは自分にまだ気がついていないようだ。

 これからは攻めの手だ!

 各種計器をチェック。

 航空機システム、エンジン計器、コックピット圧力、酸素流量計及びシステム作動を点検。

 各タンクの燃料を監視し、燃料があることを確認。


〈オールグリーンです! マスター、ぶっ飛ばしましょう!〉


「よしきた!」

 ユキはエンジン出力をミリタリーに。

 スティックをグッと引き上げる。

 ハイレートクライムでポップアップ。

 教官機と同じ高度を得る。

 ウェポンベイ、解放。ミサイルに通電。


 兵装を選択。


 RDY AAM-2


 FCS火器管制システムが情報を処理、各ミサイルに目標を割り振る。


 ユキは2発の仮想ミサイルを同時発射。


 ミサイル搭載レーダー・シーカーは電波を発信。敵を探る。

 シーカーは反射を受けとると、反射源に向かって超音速で突き進む。

 今回は訓練なので実際に空をミサイルが飛んでいるわけではない。

 目標が近づくと、仮想中距離ミサイルの誘導が切り替わる。

 中間誘導のアクティブ・ホーミングから、終末誘導の赤外線誘導へ。

 電波の反射ではなく、赤外線センサーでミサイルはバーグを追う。


 レーダー上のバーグ機が回避運動。レーダー反射と熱源が増加。

 バーグは仮想チャフを放出したらしい。

 それと同時に警告音。バーグはチャフと同時にミサイルも発射したようだ。


 ユキは高度を保って仮想チャフを放出しながらブレイク。ついでに残りのミサイルもお見舞いする。


 着弾までのカウントダウンがメインディスプレイ上で減っていく。

 仮想ミサイルがレーダー画面上で、教官機に向かって猛然と飛びかかる。

 しかし、全て仮想チャフに惑わされ、命中なし。

 双方とも仮想ミサイルを撃ち尽くし、戦闘は有視界での格闘戦にもつれ込む。

 ユキはヘッドオンから教官機の後ろに回り込もうとするが、教官もユキを追ってくる。空中格闘戦が始まる。

 まさに、ドッグファイト、巴戦ともえせんと呼ばれるように、互いの後方を追って旋回を繰り返す。

 赤外線誘導ミサイルは機体の後ろについたエンジンを目掛けて飛ぶ。そして、頭の後ろは人間の目では見ることができない。敵の後ろは有利な場所なのだ。

 空の中でワルツを踊るように、二機の戦闘機は円を描く。オーバーシュートしないよう

 ユキ、急降下。あえて高度を下げ、隙を見せる。

 教官もダイブしてくる。

 かかった。フラップとエルロンを下げ、空気抵抗を増やす。

 動翼の油圧アクチュエータが悲鳴を上げる。ユキの体にも凄まじい圧力が掛かる。

 それでもハイパワーで風をねじ伏せる。

 操縦桿の動きで直接操舵するのではなく、スティックの動きをコンピュータで読み取り、それを翼に光ファイバーで伝えて動かすフライバイライト制御のため、スティック自体の重さは普段と変わりない。

 それでも全身を巨人に握り締められているような強いGがかかっているせいで、とてつもない負担をユキは感じる。

 揚力が増し、機体が浮き上がる。

 急激に加わった抗力によって、キャノピーの外をゆっくりと雲が流れる。

 ダイブによって位置エネルギーを速度エネルギーに変換し、加速していたバーグ機がユキの目の前に飛び出す。

 チャンスだ。

 だが高度エネルギーも速度エネルギーも失ったままなのはまずい。

 ユキはアフターバーナーを点火。加速する。

 武装を選択。


 RDY GUN


 HMD上にレティクルが表示される。10個の菱形の光の中心にバーグ機を捉える。

 バーグは必死に機体を旋回させるが、ユキはぴたりと彼についていく。

 位置エネルギーも速度エネルギーも失ってし待った敵は、もはや的だ。

 本来ならここで機銃を撃つが、今日は演習だ。写真を撮って終わりだ。

 ユキがガンカメラで教官機を撮影しようとしたとき、無線に感があった。


〈ノック・イット・オフ。訓練中止だ〉


「ラジャー?!?!」


 非情な無線が、レシーバーから響いた。

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