第115話 夏の風物詩

夏の暑さも一休みした頃、領境の街ヴェルナまで南下してきた俺とティーナ。


このヴェルナは、東部辺境伯爵領ランボルギーニ家の領地との境まで徒歩で

5日の所にある街だ。


“あと少しよね、ジョンの故郷まで”

“そうだね。 この街を過ぎればランボルギーニ家の領地へと入るからね”


それでも、領都のフィエンテ迄はまだまだだ。


徒歩での移動で、後30日は掛かるのだ。


“ティーナ。 その前にね、この街でしか見るこの出来ない有名な夏の風物詩を

楽しんで行こうと思っているんだよ”


“何、なに???”


“それは、見てのお楽しみかな”

“えぇ~、教えてくれてもいいじゃない。 ジョンのけちん坊⁉”



先ずは、宿の確保を優先しないと、野宿になってしまうかもしれない。

たった一晩の催し物なのに、各方面からの合計で10.000人はこの街に集まってくるからだ。


“ねぇ、ジョン。 一般的な宿は何処も満室だったわね”

“困ったよね”


“この際だからジョン。 最高級の宿に泊まりましょうよ”

“えっと、マジで!”


“だってさ、一晩だけでしょう。 だから、いいんじゃない”


ティーナにそう断言されて、そうかもと思ってしまう自分がいた。


“そうだね、一晩だものね。 まぁ~、良いか”


で、俺とティーナが泊れた宿は、一晩で金貨10枚の超高級な宿だった。


マジか‼


この旅の中で、一日としては過去最高の出費となってしまったが、部屋に入ると

成程納得の豪華絢爛な仕様のスイートルームだった。


“ルンルン‼ 新婚旅行みたい” と、ティーナはご満悦の様だった。


そして、みんなは既に気付いていると思うが...、

俺がティーナの言葉に乗っかってしまったのが悪いのだが、夏の風物詩の開催日

までは、まだ後3日宿泊しなければいけなかったのだ。 ガァ~ン。



そして、開催当日...。


俺とティーナは、大きな川の堤防の内側にある緑地帯へと来ていた。


“ねぇ、ジョン。 凄い人ね‼”

“情報通り、10.000人は確実にいるようだね”



午後7時、開催を知らせる合図の花火が3発上がった。


ドン...ドン...ドン...


それから、直ぐに真っ暗な夜空へと豪華な花火が舞始めた。


ひゅるるるるぅ~ズドンッ


ひゅるるるるぅ~ズドンッ


と、リズミカルに何発も夜空を舞うように打ち上げられていく。


“ジョン、綺麗...‼”


俺の肩の上で、打ち上げられていく花火を観ながらティーナがつぶやく。


“綺麗だよね‼”


俺は、花火を見上げているティーナの横顔を見ながら返事を返す。



それから、暫くは言葉も交わさずに夜空に咲く花火を二人共眺めていた。

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